美少年の妹が女中に虐められるのは、どこも同じですか? 後編
前回同様、文脈がおかしかったり、誤字脱字等あるかもしれません。ご了承ください。
似たような作品があるかもしれませんが、一応オリジナルストーリーです。(他作品から影響を受けていることは否定できません)
今回、最終回です。
お父様の部屋に行く途中突然、服を引っ張られ、口を押さえられた。誰かを確認するために上を向く。冬馬様を主に担当している女中だった。
「静かにしててください」
それだけ言って、私をどこかにつれて行く。冬馬様達は気づかずに歩いて行っていた。
よかった。気づかれてない。やっぱり、警戒しておくべきだった。
「ここにいてください」
連れていかれた先は、お父様たちの部屋とは真逆の小さい女中用の部屋だった。部屋の隅に縛り付けられ、口はタオルで巻かれた。私が上を向くと、ギロッと睨まれ、女中は部屋を出て行った。鍵を閉められる。
どうしよう。迷惑も心配もかけたくないのに、どうしよう。情けないな。一人じゃ何もできない。冬馬様の近くにいることで、冬馬様にずっと守られてきたからな……。
そのあと何時間経ったか分からない。部屋の前の廊下が騒がしくなって静かになってまた騒がしくなる。多分、女中たちがどんどん出て行っているのだろう。
明日の朝までに全員だから、今日からやっていかないと、終わらないんだろうな。
それから、数時間が経つ。
はぁ……、息が苦しくなってきた。でも、ここで寝たら……って言うか、寝れそうにないけど。どうやって抜け出すかも考えないと。
意識が少し遠のき始めたときに、扉の前で複数の足音が止まる。いきなり扉の鍵が開けられ、優斗様や冬馬様、お父様やお母様の姿が見えた。
「よかった。ごめんな、遅くなって。気づいていたし、早く助けに来たかったんだけど、女中たちがうるさかったから、全員出してからにしようって父さんが言ってさ」
全員出したんだ。だから、うるさかったんだ。
冬馬様が私の前に座って、口に巻かれていたタオルを取ってくれた。
ほっ、息ができる。
「ありがとうございます。助けてくださって」
「助けない方がおかしい。閉じ込めた人、誰か分かる?」
優斗様は結構怒っている。
「広子さんです」
「あの人か……」
冬馬様が後ろを振り返る。
「あぁ、話しておく。千明、怪我はないか?」
「はい」
「そうか、無理はしないでくれ」
お父様は、お母様と一緒に出て行った。
「迷惑とか考えなくていいから。助けを求めていいんだからな」
優斗様が私の前に座る。
「口を塞がれてしまったので、声を出そうにも出せなくて……」
「そうか、連れていかれた後、すぐに気づけなくてごめん」
「いえ、助けてくれましたので……」
私がそんな話をしている間に、冬馬様が縄をほどいてくれた。
「なぁ、千明。今までの扱いになれているから、敬語で話すのは仕方ないと思ってたけど、直す気ないでしょ」
あ、バレた。そんなこと考えもしなかった。やっぱり双子なんだなぁ。
「えぇ、まぁ。直す気はあまりないです。直そうにも直せないので」
「はぁ、それじゃ一生その口調で生きていくっていうことだよね?」
「これが染みついちゃっているので」
「そうか……」
その後、何故冬馬様に抱き着かれたのか分からなかったけど、気付いたときにはベッドの上にいて、朝だった。私は、ぼーっとしながらも、食堂に向かう。
「あ、起きたんだ。意外と短かったなぁ。適応力があるのかな?」
ご飯を食べている制服姿の冬馬様がこちらを見る。
短かった? 適応力? そんなに寝てたの?? 制服だもんね。
「どういうこと……?」
ですか、と聞こうとしたのだが、最後の語尾が出なかった。
何? 何があったの? えっ?
「ふふっ。やっぱこっちの方が良いな。強硬手段だったけど、やって良かった」
へ? 何かやられたの? 抱き着かれたことと関係ある?
「もしかして、ちょっと分かってる?」
いや、全く。何もわかってないです。はい。
「冬馬、話してやらんと分からんよ」
同じく制服姿の優斗様に催促され、冬馬様は少し考え込む。
「説明しろと言われましても……。まぁ、詳しいことがわからないだけだから、結論は分かるけど、それでも聞く?」
私の方を見ながら言う。
「うん」
えっ、はいって言おうとしたのに? 何が起こってるの?
「なんかよく分かんないんだけどね、僕が抱き着くと、ですます調で話せなくなるとか、双子だと他の人より強力になるとか、そういう感じになるらしいよ。父さん情報だけど」
「はぁ……、なるほど?」
双子……冬馬様と私? 適応力が高いのもそのせい?
「ま、そうなるよね。まぁ、これで千明は僕に向かって、ですます調で話すのは難しくなったと。やっと同格に見えるようになった。いや~、ちゃんと発動して良かった」
「あの、僕は何日寝てた?」
「え? 二日しか寝てないよ。だから、すごく短い」
他の人を知らないから何とも言えないけど……。というか、ですます調で話すことはできるの? 難しいだけだよね? どうしたらいいんだろう。
「えっと、今日は、学校……なんだよね?」
「そうだよ。出発時間まであと三十分ぐらい」
「早く準備してきなよ」
冬馬様と優斗様に言われて、私は部屋に戻り、制服に着替えてまた食堂に戻った。朝ご飯を食べ、三人で学校に向かった。
「今日のお弁当は誰が作ったの?」
「母さんの指示の元、僕らが作ったから味の保証はあるけど、見た目は……」
「まぁ、最初はそんなもんだから、大丈夫だよ」
「なんか、嬉しいけど、悲しいな」
お母様に大丈夫ですって言ったのに、負担かけちゃったな。私が負担をかけてどうするのよ。
女中はいなくなっても、運転手さんはいるので、いつも通り車で学校に行く。
学校につき、優斗様や冬馬様の上履きなどを出し入れしようとして、冬馬様に止められた。
「自分たちでやるから」
あ、そうだった。
冬馬様が自分で上履きなどを出し入れする。その光景を見た昇降口にいた生徒たちが一瞬全員止まった。
そのあとはいつも通り、授業を受ける。昼食の時間に校内放送で名前を呼ばれた時には少し驚いたが……。
女中がいたころはしょっちゅうあったのだが、それは昼食を早く取りに来いという放送だったから、女中がいなくなり、自分たちでお弁当を持って行くようになったから、なくなると思っていた。
優斗様と冬馬様が呼ばれたのも驚いたけど……。
「千明、とりあえず行こう」
冬馬様に催促され、呼びだされた職員室に向かう、何も思い当たる節はない。頭の中は?でいっぱいだった。
職員室の前まで来ると、扉が開いていて中が見えた。冬馬様が先に職員室に入って行く。私も続いて入ると、優斗様が近づいて来た。
「僕が父さんたちに聞いてみるから、説得しておいて。僕はこの二人を知らないから」
優斗様は職員室を出て行った。
二人? あの、二人かな?
二人と言われたので、冬馬様の横から前を見ると、あの二人がいた。
「千明、誰か知ってる?」
冬馬様が振り返って言う。
「うん。晴樹と夏樹」
「千明?」
「千明~」
晴樹と夏樹が歩いてきて、抱き着かれる。
「えっ? 知ってるの? 誰?」
「弟だよ。僕たちの」
いや~、驚いたなぁ。この二人をここで見かけるとは。
「えっ? 弟なんていたの? ほんと?」
「うん、ほんと」
「兄弟が兄弟のことを知らないとは……」
横で見ていた、私たちの学年主任が言う。
「二人とも、何でここにいるの? 保育園は?」
私はしゃがんで二人と目線を合わせる。夏樹がリュックを降ろして連絡帳を渡してきたので、受け取って今日の部分を開いて読む。
保育園で事件が起きたのか……。って、そんなことある?
「なんて書いてあるの?」
冬馬様が上から連絡帳をのぞいて来たので、連絡帳を渡して立ち上がる。
「先生、二人を職員室に置いておくか、教室にいれることって可能ですか?」
「授業中静かにしていられるのであれば、教室にいれてもいいけど。職員室に置いておくのは、二人が嫌がると思う」
「では、静かにすると約束するので、教室に入れさせてください。お願いします」
「あぁ、分かった。五時間目は生物だったか? 先生につたえておこう。椅子は……多目的室から持って行ってくれ」
「はい」
その時、優斗様が戻って来た。
「昼ご飯、父さんが持って来てくれるって。先に椅子とか持って行って、ご飯食べてなよ。僕が持って行くから」
「うん。じゃあ、先に行ってる。千明、僕が椅子を持って行くから、二人を連れて教室に戻ってて」
冬馬様が連絡帳を渡してくる。
「嫌だよ。僕も椅子を持って行く。二人も僕がいなくたって歩ける」
私は、連絡帳を夏樹のリュックの中に入れて背負わせる。
「そうなの? 僕、小さい子ってよく分からないからなぁ。じゃあ、行こうか」
冬馬様に続いて私たちも職員室を出て、私たちの学年の多目的室に向かった、
「一緒に来たとしても、千明が持つものないよね?」
多目的室につくと、冬馬様が椅子を二つ取ってくる。
「え? 一つ持つよ。何なら、二つ持つつもりだったし……」
「じゃあ、一つ持って」
冬馬様と私で一つずつ椅子を持って隣の自分たちの教室に入る。入った瞬間少しだけ教室内が静かになった。
私たちは、一番窓側の端の自分たちの席に向かう。机の横に椅子を置いて二人を座らせ、私たちも椅子に座り鞄からお弁当を取り出した。
すぐに、教室の扉が開き、ビニール袋とお弁当袋を持った優斗様が入って来た。またも、教室内が静かになる。
すぐに、元通りになるけどね。
「はい、二人のご飯。って言っても、おにぎりしか買ってないって言ってたけど……」
優斗様は、私たちのお弁当が置いてある机にビニール袋を置いた。
「二人とも、お礼は?」
私が言うと、晴樹と夏樹はぺこっと頭を下げた。
「かわいいなぁ。どういたしまして」
優斗様は、二人の頭をなでる。
「どっちかによけてくれない? 僕もここでご飯食べようと思うから」
二人は私のほうによける。
「ありがとう」
優斗様は空いた方の椅子に座り、お弁当袋を開いた。私たちもつられて開く。晴樹がビニール袋を取って、中をのぞく。
「塩、鮭……」
「僕、塩がいい!」
晴樹と夏樹の会話を横目で見ながら、優斗様の方を見た。冬馬様も優斗様の方を見ていた。
「ん? あぁ、僕がここで食べるのには何か理由があると? 二人は察しが良いなぁ。そうだよ」
優斗様は少しだけ周りを見回す。
「女中の代わりに僕らと同じぐらいのはとこが来るって、父さんが」
優斗様が声を潜めて言った。
「いつから?」
「夏休み中に引っ越してくるって」
「ふーん」
冬馬様はもっと重大なことを考えていたのか、つまんなそうな顔になる。
はとこ……同じぐらいの歳? 長崎には同じぐらいの歳の子がいるって、女中たちが話してたっけ? 同じぐらいカッコいい子がいるからとかって話だったけど、はとこだったような?
「千明、大丈夫?」
机一つ分離れていた顔が目の前にあって少し驚いて、一歩引く。
「大丈夫」
「そっか。少しぼーっとしてたから」
「ほんと、冬馬は千明のことになると、途端に過保護になるよな」
優斗様がからかう。
「そんなことないし」
冬馬様が少しムスッとした顔になる。優斗様も私も少し笑いながら、横を見ると、晴樹に負かされたのか、夏樹が鮭を食べていた。私も開いたままだった、お弁当に手を付ける。
「ごちそうさま。じゃあ、僕は、戻るね」
ご飯が食べ終わり、一息ついたところで、優斗様が教室を出て行った。
「はとこって、僕ら会ったことある?」
「いや、なかったと思うけど、話は聞いたことがあるような気がしなくもない」
冬馬様が考えているかのように、手を顎にもっていく。
「えっと……、曽祖父と曾祖母が同じ人っていう関係」
「ふ~ん?」
「祖父と祖母が同じなのが、いとこ。祖父もしくは祖母の兄弟の子どもの子どもがはとこ」
「なるほど?」
「図に書いた方がわかりやすい?」
「うん!」
冬馬様がすごい笑顔で言う。
「そうですよね~」
分かってました。通じないって。
私は机からメモノートを出し、筆箱からシャーペンを取り出した。ノートを開いて図を描いて説明する。
「なるほど~。やっぱり言葉じゃ分からない」
あ、理解してくれたっぽい。
「千明」
隣にいた夏樹が私のシャツの裾を引っ張る。
「ご飯って、おにぎりだけ?」
「僕に聞かれてもなぁ、父さんが買ってきてくれてないんだし、しょうがないだろう。家に帰ったら作ってあげるから、一時間だけ待って」
「は~い」
二人が返事をすると、次の授業の先生が入って来た。
「相川、二人はそこでいいのか?」
「はい。問題ないですけど……」
私が答えた。
冬馬様はほぼ人前で話さない。
「それならいいが、邪魔にならないか? 角だし」
「大丈夫です」
「そうか」
先生はそう言って、教卓に教科書などを置いた。
「片方、僕の隣にする?」
冬馬様が言う。
「そうじゃないと、一人、どこに座らせるの?」
「そうだよね。どっちが良い?」
冬馬様が二人を見る。
「どっちが良い?」
私も二人を見る。
「千明」
「どっちでもいいです……」
夏樹はピシッと前を見て、晴樹はうつむく。
こういう時は、夏樹のほうが自分の意見をちゃんというんだよね。
「じゃあ、晴樹が冬馬兄さんでいいね?」
「うん」
「はい」
授業開始五分前のチャイムが鳴る。
「ほら、ゴミ全部ゴミ袋に入れて。椅子の向きも変えよう」
「うん」
数日が経ち、夏休みに入った。宿題が全部終わったぐらいのころに引っ越ししてきたのだが、私たちは顔を合わせることがなく、引っ越してきたはとこにはあえていない。
同じ屋敷にいるんだけどなぁ。学校行く前には顔を合わせておきたいよね。
ちなみに、私はすごい速さで宿題を終らせることに定評がある。自分の時間なんて元々ないものだったから、その時間内で終わらせるために鍛えられている。
その点については、少し感謝かな?
「引っ越してきたはとこに会いたいな」
優斗様が私たちの気持ちを代弁する。
「優斗兄さん、そのはとこたちにも、学校にいる間は敬語を使わせないの?」
「その方が良くない? 僕らの心情的に」
「僕らも大切だけど、彼らの気持ちも尊重しないと……」
「そうしたら、いつまで経ってもが決着がつかないと思うけど」
「あの、学校だけって言うのは難しいから、父さんたちに言って、家でも敬語無しにするか、どっちもありにした方がいいと思う」
私が言うと、二人は一回こちらを見て考え込む……ふりをする。
「そうだな。それで行こう」
間髪入れずにそう返って来たから、そんなに考えてないだろう。
「父さんには僕から伝えておくよ」
優斗様は食堂を出て行く。
「千明は僕達より早く起きてるけど、見てないの?」
「うん。見たことない。早く起きてどこかに出かけてるのかな?」
「ご飯は?」
「う~ん。外で食べてるのかな? 食材は減ってないし、増えてもないし。鍋とかも使われた形跡がないし……」
「家で食べていいのに……」
「そうだよね」
結局、夏休み中に会うことはなく、二学期に入ったのだが、始業式のある初日には来なかった。
どこいったんだ? 朝も会って無いし、初日からさぼるとは……
翌日、朝の学活で転校生として一人紹介された。
相川翔か……。
紹介された時、教室内の視線が全部こっちに来た。学活はすんなり終わって、席替えをした。端なのは変わりはないが、隣に翔君が来た。休み時間になると、翔君は、立ち上がって私たちの前に跪いた。
「初めまして、冬馬様、千明様。相川翔です。よろしくお願いします。夏休み中はあいさつに行けず申し訳ございませんでした。他の兄弟がバレーの大会に出ていまして、行かなくてはいけなかったので」
「えっと……、まず、顔上げて。凄い目立ってるから」
私が言うと、翔君は顔をあげた。
「よろしく。唐突だけど、兄弟って何人いるの?」
「えっと、僕含め十三人です」
は? 十三? 聞き間違いじゃないよね? そんなに荷物来てたっけ?
「……多いね。じゃあ、その兄弟にも伝えておいてほしいんだけど、僕らに敬語は使わなくていいし、跪いたり、床に手を付けて謝るのもなし。頭を下げるぐらいにして」
「……それは、できませんよ。当主一族にそんなこと……」
「いいから。女中いないし、そんなことに文句を言う人、いないから。そのかわり、親戚の集まりの時は、変えてもらうかもしれないけど」
「……分かりました。これからお願いします」
本当の最後まで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字等ありましたら、教えてくださるとありがたいです。
今回でこのお話は完結ですが、同じ世界で新しく出てきた、はとこたちが活躍する話もかこうかと考えております(いつになるかは、分かりません)。その時は、よろしくお願いします。
3話(約18000字)で完結してしましましたよ。展開が本当に速かったです(何度も聞いてます)。
千明たちの名前の統一性に気づいてもらえましたか? (まぁ、一人例外がいますけど……)
まぁ、主人公から決めて、冬馬たちの知らない下がいた方がいいな、や、上がいた方が、跡継ぎ問題とかいいかなとか考えていたんですけど、本編では全く出ませんでしたね。(決めた意味とは……)
そんな感じで、一応完結です。はい。
《2021/7/6 追記》
はとこたちの話はこちらです。気になる方はどうぞ。(もう、この小説より多いです)
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