6話 あのケルベロスを謎の男が弓で倒したらしい
「ケルベロスが娘を襲った? それは本当か?」
「はい。私たちがこの目で死体の確認をいたしました。あれは70階層のフロアボス地獄の番犬ケルベロスで間違いありません」
バビロニア王国の城。円卓の間で秘密裏にその報告は行われていた。その中央に座するのは、他でもなく国王。そして王直属の九代目神聖選抜護衛隊、通称『八聖』が会議に参加していた。
「娘は―――いや、どれだけの被害が出た?」
娘は平気だったのか?
その言葉は王の口元で消え去った。明らかな愚問だったからだ。王位継承戦の試練をこなしていた第二王女の護衛にあたっていたのはSS級冒険者パーティーだった。彼らは次期八聖の候補の一つでありこそすれ、現役の八聖に比べれば未熟者に過ぎない。そんな彼らにケルベロスを倒すことは万に一つも不可能だろう。
国王は娘がもうこの世に存在していないことを悟り、その上で国の被害を確かめようとしたのだった。
王の質問に対し、八聖は顔を見合わせ、リーダーである『剣聖』のケントが代表で答えようとする。
「それが・・・・・・」
しかし、ケントの言葉が詰まる。
その間、王は最悪の想定を始める。
一体どれほどの死者が出たのだろうか。数百あるいは数千、いや数万の死者が出ていてもおかしくはない。ケルベロスを倒すには八聖の誰かが駆けつけるか、複数のSS級冒険者パーティーが力を合わせる必要があるだろう。そんな状況が訪れるためにはどれだけ運がよくとも最低でも30分はかかる。30分もあれば、ケルベロスは・・・・・・。
王の思考を遮るようにして、剣聖は答える。
「死者は誰一人出ませんでした。ミルキィ様は無事です。負傷したのは護衛にあたった8人だけです」
王は耳を疑った。しかし、それは嘘ではないようだった。心の中で娘の無事を安堵しつつ、状況報告を続けさせる。
「なるほど。つまり次期八聖候補の彼らがとても優秀だったということか」
「いえ、違います。彼らはケルベロスに成すすべもなくやられました」
「やられた? それならどうして娘は無事だったんだ」
「報告によりますと、謎の男が現れミルキィ様を救ったそうです」
「そいつの正体はなんだ?」
「わかりません。ですが、男は弓でケルベロスを倒し、エールと名乗ると、その場を去りました」
一人でケルベロスを倒した? それも弓矢で。ありえん。だが、もしそれが本当なら男の目的は何だ?
「もう一度聞くが、本当にそれはケルベロスだったんだな?」
「はい。間違いありません。回収した死体から私の緋の眼の分析で得た情報を、ナワーブの【受け継ぐ者】と照らし合わせたところ、完全に一致しました」
そう述べたのは『聖忍』のシンシアだった。
シンシアの持つ[隠密者]系統最強のスキル【緋色の研究】は視認したものを完全に分析できる。そして『聖盾』のナワーブのもつ[守護者]系統最強のスキル【受け継ぐ者】は、歴代の『聖盾』の記憶を継承するものだ。
この二つのスキルを組み合わせることで、直接ケルベロスと戦ったことのない彼らでも、それが本物であったことは確認ができた。
「そもそもなぜケルベロスが王都に現れたんだ」
「付近を確認したところ、召喚魔術の形跡が残っています。魔人の差し金か、あるいは」
「ブルタジア帝国の工作員か」
「はい。そうなると思います」
魔界と隣接するブルタジア帝国は人間の国でありながら、魔人たちと手を組み、領土の拡大を目指している。周辺諸国がブルタジア帝国の支配下に加わった今、バビロニア王国は孤立無援の状況に陥っていた。
「そのエールという男がスパイということは?」
「自作自演の可能性も考え、素性を調べました。彼は現在、バビロンの宿に滞在しています。そしてこれが彼のスキルです」
『聖槍』のサンダースがギルドから入手した紙を王に見せる。
「本当にケルベロスを倒したのか? ほとんどスキルを身に着けてないじゃないか」
「人違いの可能性もありますが、証言にあったF級冒険者のプレートを身につけた黒髪の少年、エールという冒険者は彼以外にいませんでした。もしかすると高レベルの[隠密者]系統のスキルで自身の能力を偽装していることも考えられます」
国王は逡巡のあと、八聖に指示を与える。
「シンシアに命じる。その男に接触し、正体を探れ」
「ハッ!」
「他の7人は引き続き現場の調査、他国の偵察、同盟国の視察に回れ」
「「「「ハッ!」」」
こうして、一人の男を中心に様々な事柄が水面下で動き始めたのだった。
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