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5話  獰猛な「犬」から少女を救いました

「誰か――助けて――」


 その声を聴いて、俺はすぐさま【瞬歩】を使い駆けつける。


「何だ......あれは」


 角を曲がると、そこにソレはいた。




 赤い6つの眼光。3つの頭を持つ巨大な犬。漆黒の毛に覆われた身体はたくましく、毛並みは良い。血の色をした首輪は凶悪な鎖に繋がれており、その鎖は地面の黒い影へと吸い込まれていた。



「ギャオオオオオオオオ!!」


 地獄のような遠吠えを犬は発する。


 犬の周りには冒険者らしき人物が8人いた。そして彼らは無防備な少女を守るように犬と交戦していた。



「何があっても守りきれ!」


 冒険者たちは犬の攻撃を捌き切るのに手一杯のようだった。


 ある者は魔法を放ち、ある者は剣を振るい、ある者は盾を構え、ある者は回復魔法を唱えていた。



 8人の動きは洗練されていた。しかし、それ以上に犬は獰猛だった。



「ギャオオオオオオオオ!」


 一人。二人と、護衛の者たちは戦闘不能に陥っていく。幸い、死者はまだ出ていないようだが、誰かが死ぬのも時間の問題だった。



 もしかしたら彼らは冒険者ではなく訓練生かもしれない。冒険者にしては動きが遅い。


「まずい! やられる!」

 最後の一人がそう叫び、犬に吹き飛ばされる。



 護衛がいなくなった少女のもとに犬はゆっくりと近づく。


「いやぁ! 誰か助けて!」


 一つの犬の顔が少女の前に巨大な口を開く。そこに並んだ鋭い歯が危険な光を放った。



 ヒュン。



 身体は勝手に動いていた。



「ガアアアアアア!」


 俺のはなった矢が犬の目に刺さる。犬は悲鳴をあげた。


 二つの頭がこちらを向く。


「ギャオオオオオオ!!!」


 犬はこちらに怒りの矛先を向けると、狂ったように走り出す。



 そうだ。それでいい。お前の相手は俺だ。



 俺は犬の足に向け、すぐさま3本の矢を放つ。だが、それは犬の皮膚に跳ね返されてしまう。



 犬が俺の元へ到達するまで、残り5秒。


「すまない。許してくれ」


 今までは犬を殺さないように足を狙って、矢を放っていた。しかし、それでは硬い皮膚に矢は弾かれてしまう。だからといって本気で俺が矢を射れば犬は確実に死んでしまうだろう。だが、人命を守ることが優先だ。


「【春の雪(フルーリング・スノウ)】」


 俺の指が矢を放した瞬間、風を切る鋭い音と共に、その矢は犬へと直進する。そして、次の瞬間、3つの頭に十の大きな風穴を開けていた。



 ・・・・・・。



 静寂。


 一抹の断末魔さえ、そこには生じなかった。


 犬は血を流し、その場で倒れる。



「危なかった」


 弓を構えたときは何の恐怖もなく、焦りもなかった。しかし、一度戦闘が終わると、安堵で全身の力が抜け落ちそうだった。



「ははは。たかが犬一匹でこのザマか。これじゃ爺ちゃんのような冒険者になるのはまだまだだな」



 立ち尽くす俺の元に少女がかけつける。


「ありがとうございます。なんてお礼を申し上げれば」


「礼なんていらないよ。冒険者の務めを果たしただけだ。犬に苦戦する恥ずかしい姿を晒してしまいすまない」


「あの、お名前を教えてください!」


「エールだ。駆け出しの冒険者をやっている」


「エールさんですねあなたは一体―――」



 自分が不甲斐なかった。だから俺はその場から逃げるように立ち去った。


「まだまだ修行が必要だな」

 とりあえずギルドに戻って、怪我人の報告をしよう。それが終わったらまた修行だ。



 日は落ちてあたりは暗かった。


 夜の街を俺は駆けていた。









今日も2話投稿です!

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