43話 シンシアとのデートその6
4章最終回です。
バビロニア王国の王都バビロン。中心にはギルドがあり、武器や小道具屋、宿屋などが並び栄えている。そして、中心から少ししたところにある城の近くでは、貴族の生活する地区があり、そこでは高級店などで賑わっている。
そのうちの一つ、丘の上にある高級レストランで俺とシンシアはディナーを食べていた。
「こういう場所に来たのは初めてだ。何からなにまで用意してくれてありがとう」
店に入る前、シンシアに連れられて俺はタキシードを買い、それに着替えた。
シンシアは昼間のワンピースから一転して、紫色の大胆に肩が露出した華麗なドレスに身を包んでいた。髪を下ろし、美しく着飾ったシンシアは女神のように思えた。
俺はあまりの緊張に琥珀色のシャンパンを飲み干す。
それ一つとっても香りが違うのがわかる。
「あまり緊張しなくていいのよ。ゆっくり楽しみましょうね」
そう言ってシンシアは優雅にディナーを食べる。
どれも俺の知らない料理だったが絶品だった。
しばらくして食事が落ち着くと、シンシアが話を切り出した。
「それで、私に大事な話ってなにかしら」
「そ、それは」
予め決めていた言葉は俺の喉元につっかえてしまう。
喉が渇く。心臓がバクバクと脈打つ。
「俺はシンシアのことが―――」
好きだ。
その一言が言えない。
今までのどんな言葉よりもそれは重たく、俺の口はまるで他人のものになったかのように言うことを聞かない。
俺が言葉に詰まっていると、シンシアは助け舟を出してくれる。
「このあとって時間あるかしら。丘から見る夜景が綺麗だから一緒に見たいのだけれど」
「あ、あぁ。時間ならいくらでもある」
「よかった。そのときに私の方から大事な話をするわね」
シンシアは澄ました顔でそう言う。
情けない気持ちのまま俺は料理を口に運ぶのだった。
*****
店を出たあと、俺たちは丘の上を散歩した。
シンシアの言う通り、バビロン一帯を見渡せるこの丘はとてもいいロケーションだった。
満天の星空。温かい街の明かり。二人だけの展望デッキ。
柵に身を乗り出しながら、俺たちは夜景を眺めている。
「綺麗ね―――」
「あぁ。綺麗だ」
心地よい夜風が吹き抜ける。
「エールくん、さっきも言ったけど私から大事な話が―――」
「待ってくれシンシア」
覚悟を決めて俺は言った。
「俺の方から話をしたい」
わかった、と言ってシンシアはまっすぐに俺を見つめる。
「まずは、今日のお礼をさせてくれ。今日一日、ずっと楽しかった。俺のためにいろんな用意をしてくれてありがとう」
「ええ。私も楽しかったわ」
ふぅ、と俺は息を吐く。声は震え、頭はほとんど真っ白だ。
「それで、大事な話なんだが」
「ええ。何かしら」
「今日一緒にシンシアと過ごして自分の気持ちがわかった」
大きく息を吸って、俺は言葉を紡ぎ出す。
「俺は、シンシアのことが好きだ」
俺の言葉にシンシアは頷く。
「仲間としてとかじゃなくて。一人の女性としてシンシアのことを愛してる。だからってどうしたいとかそういうわけじゃなくて、今まで通り仲良くしてくれればそれでいいんだが、俺の気持ちはちゃんと伝えなきゃいけないと思ってて―――」
「ありがとう。嬉しい」
シンシアは俺の方へ倒れ込むようにして抱きついてくる。
甘い匂い。優しい温もり。
「私も、エールくんが好きよ」
そう言って、シンシアは俺を見上げる。その頬は真っ赤に染まっていた。
しばらくの間、お互いの体温を感じながら俺たちは見つめ合う。
そしてシンシアがそっと目を閉じると、俺はその身体を強く引き寄せた。
震える唇をゆっくりと彼女の元へ近づける。
初めてのキスはとろけるように甘かった。
デート編が終わりました。今回が最終話というつもりでこの話を書いています。あとはやり残した戦いを書いて、次章でこの作品を完結させたいと思います。今まで本当にありがとうございました。
作品の完結とともに、完全新作の投稿も開始するので、よければそちらのほうも応援よろしくおねがいします!




