40話 シンシアとのデートその3
「おい! 泥棒だ!」
俺とシンシアは声のした方へ同時に目を向ける。
そこでは同じ装束の4人組が風呂敷に武器を包んで逃げているところだった。
「しゅん――」
俺が【瞬歩】を使おうとしたとき、シンシアが俺の腕を掴む。
「待って。彼らの服装、最近なにやら怪しいことをしていると噂のザルド教団のものだわ。ここで捕まえるよりも後をつけるほうが懸命よ」
「しかし―――」
「幸いいま人的被害が出ているわけではないわ。情報が確かならザルド教団はバビロニア王国の各地で誘拐や麻薬取引なんかも行っている。アジトの位置を特定することは更なる被害を抑え、より多くの人を救うことに繋がるわ」
「それもそうだな。なら尾行するか」
「ええ。エールくん、少し手を貸してもらってもいいかしら」
言われるがまま俺はシンシアに手を差し出す。
その手をシンシアは握る。
「【絶対隠密】」
俺たちの身体が淡く光る。そして不可視のベールに包まれる。
「これで大丈夫。行くわよ」
俺たちは4人組についていくのだった。
*****
4人組は複雑な経路をたどりながら、街の外へと逃げていった。彼らも【瞬歩】を使えることから、何かしら戦闘の心得はあると見て間違いない。
ミスガンから離れ、約5kmほどいったところに村があり、彼らのアジトはそこにあるようだった。
俺とシンシアはアジトの入り口にたどり着く。
「シンシア、そういえば何か武器のようなものは持っているのか?」
「常に道具は取り出せるようにしているの」
そう言って、シンシアは服のどこに隠していたのか、小さな巻物を取り出し、広げた。
「【忍具転送】」
ボンと、水素が燃えるような音がした後、巻物の上に忍具が現れる。手裏剣、クナイ、忍び鎌、黒煙筒、そして小刀。
「面白いなそれ。俺の【武具召喚】と似たような感じか」
「【武具召喚】? それって魔人が使えるスキルでしょう。私のスキルはあくまで転送。亜空間から武器を取り出すそれとは根本的に違うわ」
「そうなのか。ところで、かなり広いアジトみたいだな。敵の数は70といったところか。人質もいる。救出を急がなくては」
「やはり見えてるのね」
「見えてると言うよりは感じているに近いかもしれない。遠くの目で見えるものは自在に拡大して見ることができるんだが、複雑に入り組んだ建物とかだと、人の気配からだいたいの方向を割り出せるだけなんだ」
「あら。そうなの。【心眼】ってパッシブスキルだけあって私の緋の眼とは少し能力が違うのね」
「緋の眼?」
「私の一族が代々受け継いできた固有スキルよ。【緋色の研究】」
スキルを発動すると、シンシアの眼が緋色に染まる。
「全ての構造を覚えたわ。私が案内する」
こうして俺とシンシアはアジトでの作戦を開始するのだった。
今日は五話投稿しました。
明日からはまた毎日一話ずつ更新します。
来週の日曜に最終回を投稿して、そのあと今書いている次回作の投稿を始めたいと思います!
最後までお付き合いください!




