39話 シンシアとのデートその2
「どうだった? 地下迷宮は」
ランチを食べながら、シンシアはそんな話をする。
「面白かったよ。曇天の霹靂の聖職者が常にデバフ魔法を使ってくれていたおかげか、苦戦する相手はほとんどいなかったが」
「それって本当なのかしら?」
「本当だと思う。だってデバフがかかっていない三毒だけ異様に強かったんだから」
「三毒の話は聞いたわ。エールくんがミルキィ様の騎士でほんと良かった。あなた以外じゃフロアボスの使徒なんて倒せるはずないもの」
「確か弓が弱点だったんだろ? 相性が良くて助かったよ」
シンシアは俺のことを気を遣ってか話を回してくれる。他愛もない話をするうちに徐々に緊張が打ち解けてきた。
「ミルキィは変なことしなかったでしょうね」
「変なこと? 例えばどんな」
「二人きりの空間を作ろうしたりだとか」
「ああ。ほとんどそんなタイミングはなかったな。曇天の霹靂に魔術師にエマって子がいるんだけど、その子がずっと俺に魔法を教えてほしいって事あるごとに押しかけてきたから」
「わ、私の知らないところで、新しい敵が……」
シンシアは少しショックを受けたような顔をする。
「敵? エマとは知り合いなのか?」
「知らないわよ。そんな泥棒猫なんて」
ぽろりと言ったシンシアの言葉に俺は驚く。
「なによ。急に黙ったりして」
「いや、ミルキィも同じことを言ってたなと思って」
俺の言葉にシンシアは嘘でしょと言いながら笑う。その柔らかな笑みにつられて俺も笑った。
*****
湖畔の周りを軽く二人で歩いた後、また馬車に乗って別の場所へと移動した。
「見たことのある風景だ。ここはどこなんだ?」
「商業特区ミスガン。冒険者の街よ。ありとあらゆる武器や防具、珍しいアイテムなんかが売ってるわ。クエストで入手した素材が最初に集まるのもここね」
「どうりで見覚えがあるわけだ。F級冒険者だった頃、何度かこの街まで運搬作業をしたことがある」
街は活気だっていた。通路にはずらりと店が並んでおり、それぞれが武器や防具なんかを販売している。街の隅には煙突のついた家が見られる。おそらく鍛冶屋だろう。
「どうして今日はここに?」
「あなたのA級昇格祝いをそう言えばしてないなって思って。大抵の冒険者はC級かB級になるとこの街へ来て、自分に合った武器を特注するの。もしかしたらエールくんがお祖父様からもらった弓もここで作られたものじゃないかな」
「弓を売っている店なんてあるのか? バビロニアは一つもないが」
「ここならどんなマニアックなものだって売ってるのよ。私の好きな忍具もここで揃えているわ」
そう言いながら楽しそうにシンシアは歩いてゆく。
弓以外の武器が扱えない俺でさえ、冒険者の街といわれるここの雰囲気にはどこか心踊らされる。
俺たちがそんな風に目的もなく武器を眺めながら歩いていると声をかけてきた存在がいた。
「あれ? シンシア?」
シンシアと俺はその声に振り向く。するとそこには可愛い女性がいた。
「あ、やっぱりシンシアじゃない!」
そう言って女はこちらへ駆け寄ってくる。
年齢はシンシアと同じか少し上だろうか。顔は整っており、美人系というよりは可愛い系。その黒髪をツインテールにしているのが原因だろうか。どうも若作りしている感が否めないが、とはいえ可愛いものは可愛い。豊満な双丘は彼女が走るたびに上下に揺れた。ゆったりとした服装でもそのスタイルの良さは隠しきれていない。
「あら。ユーフィア。こんなところで会うなんて偶然ね。あなたも今日はオフだったの?」
「いやーほんとは仕事だったんだけど杖の調子が悪くて緊急メンテに―――」
ユーフィアは話の途中で俺の方に目を止める。
「あれ? 今日は連れがいるのね」
「ええ」
そう言って、シンシアは俺に紹介をしてくれる。
「彼女はユーフィア。私の同僚で親友。巷じゃ『魔聖』なんて呼ばれてるすごい魔術師よ」
続いてシンシアが俺の紹介をしようとすると、それを遮ってユーフィアは言った。
「あ! もしかして君、エールくんでしょ!」
「あぁ。どうして俺の名前を――」
「やっぱり! シンシアから色々と話は聞いてるわ」
ユーフィアは何かを合点したのか、一人で話を続ける。
「ははん。なるほど。シンシアはこういう子がタイプなのね。なかなかいいセンスしてるじゃない」
ユーフィアはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「今日は二人でデート?」
その言葉にシンシアは照れるように下を向いて言った。
「そうよ」
「きゃー! やったじゃないシンシア! だからこの前私におすすめの場所教えてって聞いてきたのね。それで、デートは上手くいってるの?」
その言葉に俺はシンシアの方を見る。と、同時にシンシアもこちらを見てきたのか、互いの目が合う。
思わぬタイミングに自然と笑みがこぼれた。
「あらあら。ラブラブじゃない! もしかしてもう付き合ってたり?」
どきり。
その言葉に俺の鼓動が早くなる。
「俺なんかがシンシアと付き合うなんて―――」
「もう~。何言ってんのよ。シンシアがどれだけ君のことが好―――」
ユーフィアが何かを言いかけたところでシンシアが彼女の口元を抑える。
それから二人は俺に聞こえないように話をしたあと、二人は離れる。
「お邪魔者はここで失礼するわ。楽しんでね!」
そう言って数歩進んだ後、ユーフィアは振返って言った。
「頑張るのよ、シンシア!」
彼女は満足気に立ち去っていく。
「はあ。疲れた。ほんとユーフィアったら」
「面白い人だったな。二人の仲の良さがわかるよ」
「あ、そうそう。ユーフィア何歳に見えた?」
「何歳? シンシアと同じか少し上くらいじゃないか? だから25とかそんな感じか?」
「ぶっぶー。ぜんぜん違うわ。実は、ユーフィアはああ見えてさんじゅ――」
シンシアがそう言いかけたところで、叫び声が聞こえた。
「おい! 泥棒だ!」




