35話 第二奥義を放ちました
「なんとか間に合ったみたいだな」
俺が異様なオーラの元へ向かうと、そこにそれらはいた。
巨大な豚。巨大な鳥。超巨大な蛇。
「さすがフロアボスと言ったところか」
周りには冒険者たちが倒れていた。彼らもやられてしまったのだろう。
「さて、どれからやるか」
攻略方法がわかっている豚からやるのが先か?
俺がそのようなことを考えていると、怪鳥ラーガが襲ってくる。
キエエエエエ!!
バサリと大きな羽をはためかせ、突風のようなものを起こすと、喉袋についてる毒胞をこちらへと飛ばす。
ヒュン。ヒュン。
俺は全てを矢で遊撃する。
毒胞は空中で爆発した。
シャーーー!
危険を察知し、後方へ距離を取る。
瞬間、俺が元いた地点をブレスが通過する。
「予備動作なしでこの威力か。骨が折れそうだ」
大蛇ドヴェーシャのブレスに当たればひとたまりもないだろう。最も警戒すべきはこのブレスだ。
ブヒイイイイ!
次はモームがこちらへと突進をしてくる。俺はそれを軽くいなし、上空から掴みかかってくるラーガの攻撃をうまく躱す。
「速い。それに連携もなってる。厄介だな」
しばらく、3対1での攻防が続いた。
俺がとったのは基本的に回避に専念しつつ、チャンスがあれば細かい攻撃を放つヒットアンドアウェイ戦法。だがしかし、予想通りではあったが三体とも面倒な再生能力をもっているがために、こちらの攻撃も決め手にかけた。
「少し、身体が重いか?」
矢の補充は【武具召喚】を使えばできる。ジリジリ削れば勝てると思っていたが、どうやらここにきてモームの出す麻痺霧の効果が影響してきた。
「さて、どうするか」
モームさえやればどうにかなると楽観視してきたが、どうやら残基も3体で共有しているらしい。しかもあの蛇に関しては時間ごとに残基すら回復するという軽い鬼畜仕様だ。
「三体同時に倒すしかなさそうだな」
【春の雪】を放てば一体ごとは確実に葬り去ることができる。だが、それでは再生されるだけで意味がない。
「とうとう、第二奥義を使う日が来たか」
第二奥義。その技を爺ちゃんが放つ瞬間を直接見たわけではない。だが、爺ちゃんの話の中で第二奥義は最後の最後の切り札として登場し、幾度も爺ちゃんたちの窮地を救った。
いわばそれは爺ちゃんの、そして俺の必殺技だ。
打てば最後、全てを飲み込み破壊する。
その威力故に扱いが難しい。
「ここでやるしかないだろう」
かつてそれを訓練していた時、まだ実力のなかった俺は、技を暴発させ、山一つを消失させた過去がある。それ以来、夢の中で練習はすれど、現実で試したことはなかった。
「まずは距離をとるか」
巻き込みを防止するために、俺は倒れている冒険者からできるだけ離れた位置へと退避する。
三毒は俺に追撃をしかけようとついてくる。
「角度については問題ない。あとは溜めができるまでの距離を作る。【瞬歩】」
位置の誘導を終えると、俺は【瞬歩】により1kmほど離れた位置へと即座に移動した。
「ここで良さそうだな」
ゆっくりと俺は弓を構え、そしていままで使うことのなかった特別な矢を一本取り出す。
【春の雪】が一にして全の矢を放つ技なら、第二奥義は一にして善の矢を放つ技だ。
曲射。速射。連射。多重掃射。超速射。超連射。超多重掃射。
あらゆる矢の撃ち方をマスターし、その極地にて習得できるのが【春の雪】。
対し、正射のみを善とし一本の矢に全てを賭け、その無我の境地にて習得できるのが第二奥義。
俺はゆっくりとねじりを加えながら、矢を弓に装填する。
そして、時を待つ。
三体が直線上に揃った瞬間、そのときがこの一撃を放つときだ。
瞑目して弓を構える。心の眼でのみしかその絶妙なタイミングは計れない。
――――――――今だ!!
「【奔馬】」
静寂した世界。
空絶した無から、その有は生まれた。
秩序を破壊する一つの混沌。その波紋に世界は慄える。
巻き起こる暴風。全てを飲み込む嵐。
――――それはいわば、神風。
幾重もの無が重なり合い、夥しい混沌を内包した、一筋の光。
紅い閃光。否、それは赫奕と輝く流星。
神雷の如く駆け抜ける奔馬は、時空を切り裂き、全てを灼いた。
風が止んだ時、あたり一帯は焦土と化していた。
「【瞬歩】」
完璧な一撃を放てたことの自負を胸に、俺はミルキィの元へと戻るのだった。
「面白いかも!」
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