31話 やばそうな豚と遭遇しました
「ここが50階層か。少し暗いな」
50階層。湿地エリア。
じめじめとした空気。地面はぬかるみ、いかにもという感じの毒キノコが生え揃っている。
そこに続くのは薄気味悪い密林や沼地。息が詰まりそうになるほどの閉塞感を覚える。
通常、ダンジョンというのは上層の床にあたる魔力水晶が天井となり、下層を照らしている。
そのため、昼夜の概念は存在し、昼の現在は本来であれば明るいはずなのだが、ここ50階層ではエリア全体に薄い霧が蔓延しており、視界を悪くしている。
「エール様、丸薬は飲みましたか?」
隣りにいたミルキィが俺に言う。彼女は口元をスカーフで覆い隠している。
「ん? あぁ。飲み忘れてた」
「え! 大丈夫ですか? 早く飲んでください。この霧には微量ですが毒が含まれているんですから」
「あ、そのことなんだけど。どうやら俺は大丈夫みたいなんだ」
「大丈夫って何がですか?」
「理由はわからないけど、俺には毒が効かないらしい。俺の分の丸薬はもしものときにとっておこう」
「エール様が言うなら、そうなんでしょうね」
そう言ってミルキィは納得してくれた。
「しかし、嫌なところだな」
「記述によれば、ここの階層の植物や魔物はどんなものであれ、毒を持っているそうですよ」
「自然、あるいは神意によって作られた大規模な蠱毒か。その頂点に君臨する魔物こそ、三毒」
『貪』の異名を持つ怪鳥ラーガ。
『瞋』の異名を持つ大蛇ドヴェーシャ。
『癡』の異名を持つ狂豚モーハ。
魔力毒。遅効毒。麻痺毒。
そのどれもが凶悪なものらしい。
ビストラが言うには、先行した『炎獅子』と『紅蓮花』は大蛇ドヴェーシャに狙いを定めているらしい。俺たちが最初に狙うべきは狂豚モーハだ。
モーハの肝を手に入れた上で、怪鳥ラーガの肝を争奪する。それが今回のシナリオだ。
「あそこに何かが見えます!」
女が指し示す方向を見る。
2kmほど先の地点に紫色の濃霧がかかっている場所がある。
「あれはモーハの出す毒霧です。幸先がいいですね」
ミルキィ、ビストラ、曇天の霹靂の8人、そして俺はその方角へと歩みを進める。
「なんだ? これは」
シンシアとゴブリンロードを倒したときに覚えた違和感のようなものを察知する。
警戒しつつもゆっくりと俺たちは濃霧の中へと入る。大きなシルエットが徐々に鮮明に見えてくる。
「――――これが狂豚モーム、なのか?」
目の前に立ちふさがるそれは話で聞いていたものよりも数倍大きく見えた。
全長は20mをゆうに越しているだろう。
泥で汚れた分厚い皮膚は、だらしなく肥大化したその巨体を包み、ぶよぶよとしている。その背中のあたりにはフジツボのような幾本もの管が伸びており、濃い紫色の霧が噴出されていた。見るものを嫌な気持ちにさせるようなそんな見た目。
何よりも気持ち悪いのはその頭部だった。逞しい2対の牙。垂れ下がった耳。楕円形の鼻。そして額には、ぬらりと濡れた大きな5つの目。
あのゴブリンロードにどこか似ている。
そんな印象を俺は受けた。
この作品も書き終える目処がたったので、新作を書きはじめました!
いろいろな試みをしていて更に面白い作品ができあがる予感がしてます。今後とも応援してくださると嬉しいです。
あと20話ほどですが、よければ最後までお付き合いください。




