3話 弓撃手が廃れたのは爺ちゃんのせいでした
「そんなことがあったのか」
「あぁ」
俺はニッコウさんに爺ちゃんがどう亡くなったのか、どうして俺が冒険者を目指しているのかを話した。
「あの人らしい最期だ。俺も何度もランシズさんには命を助けてもらったよ」
そう言って、ニッコウさんは俺のスキルが書かれた紙を見る。
「『推奨職業なし』か。嫌な時代だな。エール、いまの冒険者がどういうものか知ってるか?」
「何も知らない」
「そうか。なら俺が説明するよ」
そう言って、ニッコウさんは説明を始めた。
「いまの時代、冒険者っていうのは安全な職業なんだ。俺たちの時代は未知を求め敵と戦い、冒険の中で死ぬのが理想だったんだが、今の若者は違う。彼らは死を拒んでいる。それが悪いことだとは決して言わねえ。だが、死ぬ覚悟もなしに新しいことを成し遂げるのは無理だ」
たしかに、婆ちゃんと出会うまでの爺ちゃんも冒険の中で死ぬことを夢見ていた。
「もともと形だけ国営だったギルドはいまや国の厳重な管理下にある。ギルドは地下迷宮で取れる資源を安定的に供給するだけの機関に成りつつあるんだ。昔の時代と違って、今はパーティーの多様性はなくなった。似たような職業でのみ構成され、システマチックに組まれたメンバーと安全に安全を重ねて冒険をこなす」
時が進むに連れ効率化が行われるのはこの世の摂理だ。
「人材の効率的な発掘のために30年前には冒険者を育成するための職業訓練所や、魔法学校も作られた。そこでは、本来自分たちで身につけるはずの地下迷宮の攻略法や、魔物に関する知識を教わり、定石に沿った編成を組むため、それに必要なスキルを学び、卒業したらそのまま冒険に向かう。今の冒険者を動かすのは好奇心じゃない。金だよ」
「弓撃手が要らなくなったのはどうしてだ?」
「魔法学校のおかげで、金持ちの家でなくても魔法使いになれる奴が増えた。更に魔法研究の発展で、攻撃魔法はより簡易化され威力も増していった。魔法耐性のある魔物にも物理的な攻撃ができる《マジック・アロー》が発明されてからは、わざわざ膨大な時間を修行に費やす弓撃手を目指す必要がなくなったってのが、一般的な解釈かな。まあ俺はそれだけが理由じゃないと思うが」
「他にどんな理由が?」
「半分くらいはランシズさんのせいじゃねえか。あの人とずっと過ごしてきた俺は弓撃手がどれほど重要な職業なのか、魔法使いと明確な差別化できることも理解してる。だからこそ、職業訓練所を作るとき、弓撃手も養成できる環境を作るように頼み込んだ。だが、それは棄却された。弓を教えられる人材がいなかったんだよ」
弓を教えられる人材がいない。どういうことだろうか?
「ランシズさんは圧倒的な強さをもっていた。それ故に俺たちの世代の弓撃手はみんなランシズさんの技を見て、自分の腕に絶望し、弓を持たなくなった。しかもランシズさんは引退したあと弟子を持たなかった。だから、ここ数十年の間は弓を扱える冒険者がいなかったんだ」
「そんな理由が......」
他の人がみんな弓を辞めるって。どんだけすごかったんだよ爺ちゃん。
「[その他]のスキル欄に本来なら弓のパッシブスキルが表れるはずなんだが、それがないのは何かの不具合だろう。お前が嘘を言ってるとは思わねえからな。しかし、俺も偉くなっちまった。ギルドマスターとして例外を許すわけにはいかない。だから、代わりに俺が職業訓練所にお前を推薦したいと思う」
「職業訓練所に?」
「あぁ。そうだ。お前が冒険者になるためにはどうにかして何かしらのスキルを身につけちまうのが手っ取り早い」
「しかし、俺は弓撃手として冒険者に」
「それはわかってるよ。だが、他の職業について学んだって損はないはずだ。お前の爺ちゃんだって[隠密者]や[武闘家]のスキルはかなり身につけていたぞ?」
確かに爺ちゃんは接近戦において体術を使っていた。弓撃手として力を発揮するためには敵と距離を取るための技術が必要だからだ。
「わかった。やってみるよ」
「おう。素直でいいな。それでこそランシズさんの孫だ。訓練所には寮もあるからそっちの手配もするな」
「何から何まで感謝する」
「いいってことよ。お前の成長を期待してる」
その翌日から、俺は訓練所に通うことになった。
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