27話 十本の矢で階層内の魔物を全滅させました
47階層。湿地エリア。
鬱蒼とした密林。底なし沼。腐臭の漂う泥炭地。
転がる魔物の亡骸。それを養分に成長した硬い木々。生と死の絶え間ない循環。魔物の数は多かった。
「出たぞ! スワンプウィザードだ!」
泥人形の魔物。数は20。
「スワンプウィザードは物理攻撃が効かない。弱点の氷魔法で――――」
シュタ。
ウィリアムが何かを言っていたが、それを無視して俺は20体の魔物を射る。
「どうして物理攻撃が効かない相手に矢が!」
「悪い。全部やっちまった。お前たちの分も残せばよかったか?」
「い、いや。別に良いんだ。よくやってくれた」
『曇天の霹靂』はいつまでたっても茶番を続けている。
大したこともない敵を前にして、いちいち陣形を組み、一人が一体ずつと言わんばかりに仰々しく魔物を倒す。
こいつらもおそらくビストラに命令されて、茶番を続けなければいけないんだろう。今みたいに全ての魔物を倒すのは彼らの仕事を奪うことになってしまったかもしれない。だとしたら悪いことをした。
だがしかし、俺はもう飽きていたのだ。
ミルキィの命令通り、地下迷宮に入ってからは全力で矢を放つことはない。常に手抜きをしている。後方で何もせず立ち尽くし、目の前で行われる茶番劇を見させられ、たまに俺のために残してくれた魔物がいれば、それを射るだけの単純作業。
そこには心踊るような冒険など何もなかった。
まだ街なかでミルキィを犬から救ったときや、シンシアとゴブリンを倒したときのほうが楽しかった。
「ニッコウさんはこういうことを嘆いていたんだな」
47階層とはいえ、魔物は強くない。
理由はいくらでも考えられる。俺たちの前を先行パーティーが強力な魔物は狩り尽くしてしまっただとか、隠密者が強力なスキルを使って弱い魔物のみを引きつけているだとか。
「あとはミルキィが言っていた通り、あの女の力か」
ミルキィは地下迷宮に潜る前、『曇天の霹靂』のメンバーについて調べたことを俺に教えてくれた。その情報によれば、ミストという聖職者は強力なデバフ魔法を使えるという。
現状、襲ってくる魔物がとてつもなく弱い以上、彼女が何かしらのデバフ魔法を常に発動している可能性は高い。
そんなことを考えると、隣りにいたミルキィが言った。
「退屈、ですよね」
どうやら、ミルキィは俺の内情を察したらしい。
「あぁ。すまない顔に出ていたか?」
「バレバレですよ。エール様はすぐに顔に出る人ですから。もう1ヶ月半も一緒に過ごしてればわかります」
地下迷宮に入ってから1ヶ月半が経ったのか。短いようで長いような。
「そうか。退屈なのはまあ仕方ないよ。ミルキィの作戦なら俺は従う。それが騎士の役目だろ?」
「ありがとうございます。でも、もう手加減をしなくてもいいですよ」
「本当か?」
「ええ。どうやらビストラお兄様の目的は私たちの足止めにあるみたいですから。明らかに遠回りするようなルートを通っています。ここ2週間の観察で目印を見つけました。おそらくシトラスお姉さまが下層への道筋を示したものでしょう。それをみて、ビストラお兄様はわざと迂回するような方向へと進んでいるんです」
「何の目的のために?」
「ビストラお兄様はシトラスお姉さま、フォーゼお兄様と手を組んでいる。先行する二人が三毒を全て倒した後、肝を譲り受ける目的でしょう」
「それだとミルキィはどうなるんだ」
「どうしようもありません。このままだと私の負けです。だから、そうなる前にエール様の力を使うんです。もう手加減なしで構いません。全部の魔物を倒して、すぐに追いつきましょう。目印の法則性はもうわかりました。下への道は私が案内します」
「わかった。じゃあ」
俺は弓を構え、10本の矢を番える。
「【全方一斉掃射】」
上空に向けた曲射。上層までの距離は十分だった。
十の矢は死の雨となり、47階層の魔物全てに降り注ぐ。
「さあ、先に進もう」
こうして俺たちは下層への歩みを早めるのだった。
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