25話 ビストラ様への謝罪と作戦会議
ウィリアム視点です。
「この前の宴会では随分と恥をかかせてくれたじゃないか」
「申し訳ありませんでした。ビストラ様」
頭を下げて謝罪する。
地下迷宮へ出発する1週間前、俺たち『曇天の霹靂』はビストラ様と作戦会議を開いていた。
ミルキィ陣営との宴会で、俺たちは立場をはっきりさせるために妨害工作をしろと命令されていた。
隠密者の名無しは毒薬をやつの酒に混ぜたが、効果がなかった。
槍騎兵のヤリモンドはやつの弓を折ったが、知らぬ間に返り討ちにあっていた。
俺は腕相撲で勝負を仕掛けられるも、全力を出した上で負けた。
ミルキィという小娘は馬鹿に見えて意外と頭は回る。半日のうちで何かしらの対策を練ってから、宴会に参加したのだろう。
あの日の屈辱は忘れることができない。
「本当に申し訳ありません。次こそはお役に立てるように」
謝罪を続ける俺たちをビストラ様は許してくださる。
「もういい顔をあげろ。予定通りに事は運んでいるんだ。次こそしっかりしてくれればそれでいい」
ビストラ様は狡猾な人ではあるが、ねちっこくはない。何か駄目なことがあればすぐに気持ちを切り替えて、次なる手を模索する。手段を選ばない悪い側面もあるが、それも全てはこの国のためを思ってのことだ。
俺はこの方こそが次の国王にふさわしいと心から思っている。
「アーサーのほうは最低でも2ヶ月以上のロスが出た。俺たちもどうにか理由をでっち上げ、1ヶ月以上の遅れをミルキィに取らせることができている。何も問題はない」
そのビストラの言葉に隠密者が笑う。
アーサー王子の率いるパーティー『宵の明星』から二人の欠員が出たのは偶然ではない。『紅蓮花』『炎獅子』のメンバーに隠密者はいないことを考えれば、暗部にも顔が利くこいつが何かしらの手段で「潰し」を行ったことは明白だ。
「地下迷宮ではどうなさいますか。予定通りミストを使って……」
『曇天の霹靂』の聖職者ミスト。彼女はこのパーティーの秘密兵器だ。
「ミストは温存していざというときに使う。一度、陰湿な作戦からは手を引こうと思っているからな。正々堂々と戦えばいい」
「正々堂々と戦う? 具体的には?」
「地下迷宮に入ったら、最初から全力で行動しろ。SS級パーティーの本気を奴らに思い知らせ、戦意を削ぐことが目的だ。どうせ45階層のフロアボスは先行する二人が倒してくれている。体力や消耗品に関しては余裕があるからな」
地下迷宮攻略は長期戦だ。常に7割程度の力で行動し、何か起きたときのために体力を温存しておくのが鉄則となっている。しかし、今回のように直近に先行するパーティーがいることさえわかっていれば、全力を出すことも可能になる。
1ヶ月という足止めは短いような気はしていたが、45階層のフロアボスがリポップする時間すらも計算していたのだろう。やはりビストラ様は恐ろしい。
「承知しました。では、ミストを使わずに俺たちの全力を見せつけましょう」
こうして俺たちは地下迷宮へと進んだ。
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