21話 腕相撲をしました
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「うおおおお!!」
大きな酒樽に肘をついて、二人の男が腕相撲をしていた。一人は巨体な守護者。もう一人は剣士らしい風貌の男。
どうやらその差はかけ離れているらしい。剣士が叫び声をあげ、全力を出しているのにも関わらず、守護者の男『曇天の霹靂』リーダーのウィリアムは涼しい顔を浮かべている。
「そろそろ終わりでいいか?」
そうウィリアムが言葉を発すと同時に、手が動き出す。
ドン!
そして一瞬のうちに勝負は終わる。勝ったのは当然、ウィリアムのようだった。
「今年も結局ウィリアムか」
「ヤリモンドがいないから準決勝は盛り上がらなかったな」
「実質2位決める戦いですよね」
「ウィリアムに小手先の手段は通じないってことだよな。せっかく身につけた武闘家系のスキルも無駄だったよ」
このような会話を繰り広げ、盛り上がっている輪の中に俺は入りこみ、ウィリアムの前に座る。
「俺も挑戦していいか?」
ウィリアムはこちらを一瞥すると、吐き捨てるように言った。
「そんなやわな身体で俺に勝てるとでも?」
ウィリアムの言う通り、体格差は歴然だった。だが、俺は訓練所で体術や基礎体力トレーニングを学んでからは、日々の修行に筋肉トレーニングも取り入れいている。
「勝てるとは思ってないさ。ただ、今までの努力の成果がどこまで通じるか、試したいだけだ。お願いできるか?」
それは本心だった。最初から勝てるなんて万に一つも思っていない。だが、自分がこの巨漢相手にどれほど戦えるのか興味があった。
「いいだろう。そこまで言うなら少しばかり、遊んでやろう」
こうして、俺たちは肘をつき、手を握った。
先程までの騒ぎは静まっていた。全員が俺たちの勝負に注目していた。
メンバーの一人が合図をとる。
「はじめ!」
その言葉と同時に、勝負が始まる。
ウィリアムはゆっくりと力を入れ、じわじわと圧力をかけ始める。
……あれ?
しかし、その力はすぐに止まってしまう。
「どうした? 遠慮しなくていいんだぞ」
「ふざけるなあ!」
俺の言葉に触発され、ウィリアムは更に手に力を入れる。が、それも中途半端なものだった。
俺はどうすればわからず、とりあえず手は中央で止めておく。
どういうことだろうか。しばらくの逡巡のあと、意味に気がつく。
――――そうか。ウィリアムはわざと手加減をしてくれているのか。
俺もミルキィに指名された騎士の一人だ。俺が勝負にあっさりと負けてしまえば、ミルキィの顔が立たない。故に迫真の演技で、表情を作り、あたかも全力を出しているのにも関わらず、俺の手がびくとも動かないという状況を演じてくれている。
「おい。ウィリアム嘘だろ」
「演技はよせって。早くそいつを倒してくれよ」
「なあ冗談だよな?」
他のメンバーもここまで大胆な演出には流石に気がついているようだ。
「そうか。手加減をしてくれてくれてるんだな? 気持ちは嬉しいが、大丈夫だ。正々堂々勝負がしたい。本気を出してくれないか。まだ3割の力しか出せてない」
「さ、3割!? そんなわけねえだろ。てめぇ何かスキルを使ってやがるな?」
「スキル? 何も使った覚えはない」
「おいウィリアム! 早く本気を出せ!」
「まじかよ!」
「嘘だろ! なんかの間違いだよな?」
「隊長、これ以上は笑えませんよ。十分ビビりましたかたら早くやっつけてください!」
「ウィリアム!! やれ! はやくやれよ!」
場は異様な空気に包まれていた。
『曇天の霹靂』のメンバーはまるで怪物を見るかのように俺を恐れている。
「もしかして本当にこれが全力なのか?」
思わずそう言ってしまう。演技ならここまで引き伸ばす必要もないだろう。もしかすれば、ウィリアムよりも俺のほうが強いのかも知れない。
――――さて、どうするべきか。このまま勝っても良いのだろうか。
そう俺が悩んでいると、ビストラが声を発した。
「ウィリアム! 俺に恥をかかせるつもりか! 早くそいつを殺せ! 鬼の力でもなんでも使えばいい! 早く殺せえええ!」
その言葉を聴いて、何かを決意したかのように、ウィリアムはスキルを発動した。
「【疾風怒濤】」
ミシミシミシミシ。
音をたて、ウィリアムの頭に小さな角が生える。
ドクン。ドクン。ドクン。
太鼓のような低音。それはウィリアムの心臓の音だった。
筋肉が隆起し、血管が浮き出て、体中がわずかな赤みを帯びる。その身体からはうっすらと蒸気すら上がっていた。目は充血し、歯が長く伸びた。その顔に理性は残っていない。目の前にいるのは鬼だった。
「ふんっ!!」
手に大きな力がかかる。力強い圧力。
――――これがウィリアムの本気。
じりじりと、俺の手は地面に近づいていく。
「くっ、強いな。やはり、今までは茶番だったんじゃないか」
そんな軽口を叩く余裕もないほど、俺は窮地に陥っていた。このままでは押し負けるのも時間の問題だ。
そんな時、俺の耳に声が聞こえた。
「エール様! 負けないで! あなたは私の英雄なんですから!」
―――――英雄。そうか、俺はこの子の英雄だ。負けるわけには、いかないッ!!
「うおおおおおぉぉお!」
突然、全身に力がみなぎってくる。
ズズズ。
あと少しで地面に付きそうだった俺の手は再び持ち直し、ウィリアムを押し始めた。
「おおおおお!!!」
徐々に、俺の手がウィリアムを後退させる。ゆっくりだが着実に、ウィリアムの手は地面へと近づいていく。
ドン!!
明快な音と共に、決着がつく。
勝ったのは俺だった。
「エール様!」
ミルキィが俺の元へ駆け寄り、抱きつく。俺はその身体を優しく受け止め感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとうミルキィ。お前の応援がなかったら負けてた」
俺たち以外の人間は皆、意気消沈していた。
唖然とした表情で、地面に伏したウィリアムを見つめていた。
「信じられない……ウィリアムが力で押し負けるなんて」
「一体、何が起こったんだ・・・・・・?」
ほとんどの人間な茫然自失としているなかで、いち早く気を取り直したビストラが言った。
「今日の宴は終わりだ。ミルキィ、後片付けはこちらでやっておくよ。先に帰ってくれ」
「今日はありがとうございました。お兄様。これからよろしくお願いしますね」
誇らしげにミルキィはそう言うと、俺たちは酒場を後にした。
*****
心地よい風に吹かれながら、夜道を俺たちは歩いていた。
「エール様、今日はお疲れ様でした。腕相撲だけでなく、他の面でも完璧なご活躍をされていたと思います」
「活躍? 腕相撲で勝った以外になんかしたか?」
「もう。そうやって恍けるんですね。本当はどうなんですか?」
「いや、何のことを言ってるのかさっぱりだ。俺はただ初めての宴会を楽しんだだけで」
「うーん。どうなんでしょうか。噂に聴く通り、本当に無自覚ということもありえるのかもしれませんね」
ミルキィはそんなことを呟いた。
「腕相撲のあれは、どの力を使ったんですか?」
「力? 俺はただミルキィの応援に励まされただけで」
「アクティブスキルを発動したわけでない。となると、パッシブスキルですか。シンシアが渡してくれたリストから参照するに、【窮鼠の反撃】【火事場の馬鹿力】【不撓不屈】【逆境補正】【大英雄補正】【救世主補正】あたりが、妥当でしょうかね……」
ミルキィは何かを言っているが、風に流され、その言葉はよく聞き取れなかった。
そんなこんなで話をしているうちに、ミルキィを城へ送り届けることができた。
「さて。今晩も修行だ」
俺は夜の森へ、修行をしにいくのだった。
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