2話 どうやら弓は時代遅れらしい
「卒業証書はありますか?」
「卒業証書? そんなものは持っていないが」
住み慣れた山を降りてから2日。俺はバビロニア王国の王都バビロンにたどり着き、ギルドを目指した。国営の巨大ギルド「バベル」はかつて爺ちゃんが世話になったギルドでもあり、バビロンの経済、政治、様々な面でその中枢を担う重要な組織だ。
地下迷宮を囲うように造られたギルドは、街の中心に位置しており、その場所へはスムーズに到達することができた。しかし、受付で冒険者の登録をしようとしたときに、美人な受付嬢に言われた言葉がこれだった。
「フリーでの登録ですね。わかりました。スキルチェックを行うのでこちらにお願いします」
そう言って受付嬢は装置を取り出す。
「こちらの水晶に手をかざしてじっとしていてください。紙にスキルが表示されます」
装置は水晶玉と、水に浮かべられた一枚の羊皮紙で組み立てられていた。
俺は言われたとおり、水晶に手をかざす。
・・・・・・。
「完了です。どれどれ……えっ、これは!」
受付嬢は紙を見るなり驚いたような表情を浮かべる。そして恐る恐る俺に紙を渡した。
俺は内容を確認する。
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〈スキル鑑定結果〉
[剣士]:なし
[槍騎兵]:なし
[斧操者]:なし
[守護者]:なし
[武闘家]:なし
[隠密者]:なし
[魔術師]:なし
[聖職者]:なし
[その他]:なし
[推奨職業]・・・・なし
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「お聞きしますが、《魔法》の習得は?」
「ひとつも魔法は使えない」
「そうですか……となると、残念ですが当ギルドでは冒険者としてエール様を認めることはできません」
そんな。どういうことだよ。冒険者になれないって。
「待ってくれ。俺は今まで弓の修行をしてきた。その腕ならある程度力になれると思う」
「弓、ですか?」
「あぁ。弓だ。ここには書かれていないが俺は弓が使える。それなら」
「お言葉ですが、弓を使えるとしたら[その他]の欄に弓撃手に特化したパッシブスキルが表れるはずです」
「ならどうして何も書かれていない」
「それはわかりません。こちらの不具合かあるいは」
そう言って受付嬢は疑うような視線を俺に向けてくる。
「それに、もしあなたがスキルを外れた力をもつ弓の達人だったとしても、冒険者として成功することは難しいでしょう。そもそも今の時代、弓撃手を入れるパーティーなんて聞いたこともありません」
「どういうことだ?」
「弓は“時代遅れ”ってことですよ」
時代遅れ? 弓が?
予想外の言葉に放心する俺に受付嬢は言った。
「次の方がお待ちしているので、これで対応は終了とさせていただきます」
受付前で立ち尽くす俺に、ギルド内にいた冒険者たちは馬鹿にした笑いを浮かべる。
「なあ、あいつ見ろよ。背中に弓を背負ってるぜ」
「まじか。やべえな。弓なんて何十年前の冒険者だよ。田舎から来たのかな」
「かもしれねえな。田舎じゃまだ弓使うのかよ」
「いや、俺もそこそこの田舎出身だけど弓は使わないな」
「じゃあ相当ど田舎に住んでたんじゃね」
「かもな」
「ねえ、見て。まだ弓なんて売ってるんだね」
「ねー。私も驚いた。魔法の発達した現代で弓を使うなんて面白い人だよね」
「昔は、《マジック・アロー》がなかったから一応需要はあったらしいね。それでもマイナーな職業ではあるけど」
「えー? でも遠距離攻撃なら他の魔法使ったほうが強くない?」
「私もそう思うけど、別の理由があったんじゃない? 魔力が温存できるとか。まあでも弓を習得する時間があれば魔法をひとつでも多く覚えたほうがいいけどね」
なあ。どういうことだよ。俺の今までの努力は無駄だったのか?
弓が時代遅れ? そんなわけない。弓には弓のメリットが有る。
「すまない。もう一度だけでいいからスキルチェックをさせてくれ。確かに俺は弓の修行をしてきたんだ」
俺は受付嬢の元へ駆けつけ、頼み込む。
受付嬢は渋々といった様子で再び俺にテストをさせる。しかし、結果は同じだった。
俺はなんとか受付嬢に頼んで冒険者に登録したいと説得する。
「すみません。これ以上はお相手できません」
「そこをどうか」
「規則ですので。ごめんなさい」
「頼む。冒険者になるって爺ちゃんと約束したんだ」
「お引き取りください」
俺は何時間も粘り続けた。だが、受付嬢はそれを頑なに拒んだ。
「おいおい。何の騒ぎだ」
すると、そこに強面の老人が現れる。
「マ、マスター! 助けてください。この方がしつこくて」
マスターと呼ばれた人物は俺のことをジロジロ見る。そしてニカっと笑った。
「面白いやつじゃねえか。今どき弓なんて時代錯誤もいいところだ。だが、それがいい。お前、名前は何て言うんだ」
「エールだ」
「エールか。いい名前だ。すまないな。うちの若い奴らが迷惑かけた」
「いや、勝手がわからず迷惑をかけたのはこちらだ。申し訳ない。だが、俺はどうしても冒険者にならなきゃいけない理由があるんだ。それだけは譲れない」
「いいねえ。志は十分ってところか」
マスターの視線が俺の弓に移る。
「ん? エール、その弓を少し見せてくれ」
俺はマスターに弓を渡す。マスターは目を見開きそれを確かめる。
「間違いねえ。〈蒼穹エリシオン〉じゃねえか。どこでこれを手に入れた?」
「爺ちゃんから譲り受けたものだ」
「爺ちゃん?」
マスターは俺の顔をじっと見つめる。そして何かに気がついたかのように言う。
「お前、まさかあのランシズさんの孫か?」
「あぁ。爺ちゃんの名前は確かにランシズだ。知ってるのか?」
「知ってるも何も長年冒険を共にしてきた仲間だよ。あいつの二の腕のほくろの数だって知ってる。俺の名前はニッコウって言うんだ」
ニッコウ。爺ちゃんがよく話していた仲間のうちの1人だ。『聖刀』の名で知られている大陸最強の刀使い。それがまさかバベルのギルドマスターをしてるとは。
「ランシズさんの孫が冒険者になる時代か。感慨深いな。エール、俺が話を聞こう」
『自分が「なろう小説の主人公」だと自覚して異世界転生した俺は、【作者を操る】最強のチート能力で無双して、負けヒロインたちと異世界ハーレム生活を謳歌します』
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