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18話 少しだけキレました。その裏側



17話の別視点です。この話だけでも楽しめます。








「さて。ミルキィは我々の罠にハマってくれるだろうか」


 今回の作戦は全て我が騎士ウィリアム率いる『曇天の霹靂』のメンバーには伝えてあった。


「わかりません。ですが、あの小娘はああ見えて理知的です。乗ってくる可能性は十分にあるでしょう」


「まあ駄目なら元のプランでいくだけだ。大体たった一人の男にそこまで警戒する必要はないと俺は思っているんだが」


「シトラス様は慎重なお方です。私もあの男は大したことがないと感じていますが、保険をかけるに越したことはないでしょう」


「それもそうか」


 そう言って、俺は盃に入ったワインを味わい、しばし物思いに耽る。



 元々の予定は、シトラス、フォーゼ、俺の3人で手を組み、アーサーを打倒するという単純なものだった。アーサーが王になれば、他の王子や王女の立場はなくなる。しかし、俺たち三人の誰かが王になれば、それぞれが協力しあって国を治めることができる。


 思慮深いシトラスは内政、駆け引きの上手いフォーゼは外交、計算高く信頼も厚い俺は軍の統制。完璧な分立による理想の国家。そのためにアーサーとミルキィは邪魔だった。



 元々、ミルキィの『白の薔薇』は余りとしてあてがわれただけで、大した実力者もいなかった。そのため、警戒するのはアーサーの率いる『宵の明星』だけでよかった。だが、状況は変わった。エールという謎の男が特例でミルキィの騎士として選ばれたのだ。



 エールについての噂を俺たち三人はかき集めた。

 ギルドマスターとのコネがあるだけとか、大した能力をもっていないとか、才能がないただの詐欺師だとか、ほとんどの情報はエールを警戒するに当たらない人物だと示唆するものだった。だが、エールがとんでもない実力をもつという噂も稀にあった。


 シトラスは万が一の場合を危惧した。そして、当初の予定は変更され、俺には別の役割が当てられた。


 俺の役割はミルキィとエールの妨害だった。


 妨害工作は俺の十八番だった。エールの後ろ盾であるギルドマスターも今では大した権限も持っていない。それなら、妨害するという意思を隠す必要もない。


 俺は『曇天の霹靂』のメンバーに露骨な嫌がらせをしてもいいと指示をした。


『曇天の霹靂』のメンバーは実力者揃いだったが、陰湿なやつが多い。俺が妨害を指示したとき、反対したのは魔術師のエマだけで、他の奴らは喜ぶ素振りを見せた。もちろんリーダーのウィリアムも例外ではない。




 ―――全てが上手くいく。ミルキィさえ、今晩の賭けに乗ってくれれば。



 と、そんなことを考えているうちに、酒場の戸が開いた。


「お、来たか! もう宴は始まってる。よろしくなミルキィ」


 馬鹿め。まんまと罠に入りやがって。



 心のなかでそう呟きながら、俺は二人を迎えた。




 *****



「よう新人。ちゃんと酒は飲んでるか?」


 先陣を切るのは俺しかいないだろう。隠密者。暗部で育ち名前を持たない俺は、今日のために例のブツを用意している。


「酒か。実は成人したのが最近でな。一度も飲んだことがないんだ」


「もったいない。ほら、一杯やれよ」


 そう言って酒を勧める。警戒もなく、エールは受け取った。


「私は構いませんよ。飲んでみてください」


 王女が勧めるのも滑稽だった。お前が勧められているのは、裏ルートでセガル共和国から入手した強力な毒の入った酒だ。飲んで10秒後、こいつの全身に激痛が走るだろう。


「そうか。じゃあ遠慮なくいただくよ」


 エールは酒を飲む。


 あと数秒で、激しい痛みを感じるはずだ。


「どうだ? 美味いか?」


 思わず笑みが漏れてしまう。俺も一度経験したことがある。あの痛みにはたまらず叫び声を上げるに違いない。


「あまり、俺の口には合わないかもしれないな」


 ん? 何が起こってる。確かに毒は混ぜた。しかし、目の前の男に効いている様子はない。


「まあ最初はそんなもんだ。体調はどうだ? 全身がビリビリしないか?」


 思わず直接聴いてしまう。しかし、男は強がっているわけでもなさそうだった。


「全身がビリビリ? まるで毒を飲んだみたいな言い方だな。何も問題はないよ」


「そ、そうか。ほな。またあとで」


 まずい。理由はわからないが、失敗した。


 逃げろ。


 俺はその場から一目散に退散するのだった。




 *****




「やあ。お二人さん。俺は槍騎兵ランサーのヤリモンドだ。よろしく」


弓撃手アーチャーのエールだ。よろしく頼む」


 俺はタイミングを見計らってターゲットに声をかける。どんな手段を使ってもいいとビストラは言っていた。ならば絶望する姿を間近に見れるほうが楽しい。


弓撃手アーチャー? 珍しいな。おぉ。その背中のがもしかして弓か?」


「そうだよ。これは俺の愛用品だ」


「へー。初めて見る。少し貸してもらってもいいかな?」


 警戒することもなく、エールは弓を渡してくる。



 馬鹿め。お前はいまから俺の目の前で絶望し、地面にへばりつきながら泣き喚くことになるというのに。



「面白い形をしてるな。どうやって使うんだ。どれどれ」


 俺は無知なふりをして弓を調べる素振りを見せる。そして、両手で端をもった弓を振り下ろすと同時に、片膝で弓をへし折る。


 バキ。


 綺麗に真っ二つに弓は折れた。


「あっれぇ? おっかしいなぁ。ミスって弓折っちまった。ごめんごめん」


 ―――さあ絶望しろ! クソガキ!

 そうして、弓を差し出す俺の前には、死神がいた。



「なあ。お前、舐めてんのか?」



 全身を悪寒が突き抜ける。身体中を棘で刺されたかのような痛み。


 ――――これが、死!!!


 剣が俺の首を落とす。

 槍が俺の心臓を穿つ。

 斧が俺の頭をかち割る。


 絞殺。溺殺。毒殺。撲殺。殴殺。爆殺。圧殺。焼殺。


 あらゆる死の感覚が同時に俺を襲う。



「ぁあ……ああ! ああ!!」


 身体が言うことを聞かない。頭がバグって、まともな思考ができない。


「おい。何に怯えてんだ? しっかりしろ」

 ――――この程度でビビるなよ。


 そんな悪魔の囁きが聞こえる。


 身体が崩れ落ち、胃が悲鳴をあげ、収縮する。


「ぅおええ!!」


 謝罪をするしかない。目の前の死神に全身全霊で許しを乞わなければ、地獄をみることになる。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


 身体全体が死神を恐怖していた。





 俺の記憶は、ぷつりと途絶えた。










「面白いかも!」

「続きが気になる!」


と思われた方はブクマ、評価などしていただけると嬉しいです。

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