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15話 ここにいる誰よりも俺は弱い





少し話が複雑なのであとがきで簡単な解説をしてます!







「第四の試練は、50階層のフロアボス『三毒さんどく』のきもを持ち帰ることとする。一つでも持ち帰れば、最終試練の資格を手に入れることができる。それぞれで手を組むのもよし。ここで他を蹴落とすのもよし。誰かを雇うのもよし。己の好きなように試練に挑むが良い。なお、期限は一年以内。裏口の使用も条件付きで許可する」


 それだけ述べると、ミルキィの祖父は姿を消した。


 いま俺は、バビロン王国の城の玉座の間にいる。はっきりいって状況はよくわかっていないが、周りには大勢の冒険者がいて、何やら厳粛な顔で話を聴いているので、俺もその真似をしていた。


 話には頷いてみたものの、意味がわからないことだらけだった。

「三毒」「最終試練』「裏口」どれも何のことを指しているのか検討もつかない。



 王様が姿を消してしばらくすると、場の緊張が解け、ところどころで話し声が聞こえた。俺はその間に目の前にいるミルキィに話しかける。



「ここにいる奴らは何なんだ?」


 すると、ミルキィは答える。


「あ、説明がまだでした! ここにいるのは私も含め王位継承戦に参加した3人の王子と、2人の王女です。そして、その周りにいるのは各々が選んだ騎士とその仲間です」


「なるほど。一応、競争相手の名前と特徴は知っておきたい。さらに詳しいことも教えてくれ」


「まず、あそこの一番奥にいるのが、第一王子のアーサーお兄様です。率いているのはお兄様がリーダーを務める最強のパーティー『宵の明星』。先月、地下迷宮ダンジョンの85階層を踏破し、到達記録を50年ぶりに塗り替え、史上初のSSS級パーティーとして認定されました。アーサーお兄様は自信家なので、この試練で他と組むことはないでしょう」



 爺ちゃんが地下迷宮を踏破した記録が、つい最近俺の知らぬ間に塗り替えられていたのか。となると、爺ちゃんたち以上に強い相手に違いない。覚悟しなければ。



「次に紹介するのが、第一王女のシトラスお姉さまです。率いているのはSS級パーティーの『紅蓮花ぐれんか』。バランスの良いパーティー構成で、最優のパーティーだと言われています。お姉さまは慎重な性格をしているので、継承戦後も安定した立ち位置にいられるようにするのが最大の目的だと考えられます」



 シトラスはたしかにミルキィと顔は似ているが、どこか冷徹だ。腹の底では何を考えているの測りかねる。



「次は、第二王子のビストラお兄様です。率いているのはSS級パ―ティーの『曇天どんてん霹靂へきれき』。実力者揃いのパーティーで、『宵の明星』に次ぐ強さを誇ると言われています。50年ぶりの75階層踏破に関しては『宵の明星』よりも先に成し遂げました」


 小太りなミルキィの兄。その周りには8人のパーティーメンバー。巨大な盾を持った屈強な男。陰湿そうな隠密者らしき男。不気味な笑みを浮かべた槍騎兵。不吉なオーラを放つ女。その4人が目につく。



「最後に、第三王子のフォーゼお兄様。率いているのはS級パーティーの『炎獅子えんじし』。シトラスお姉さまの率いる『紅蓮花』の姉妹パーティーです。その2つはメンバー同士の交流もあるので、おそらくシトラスお姉さまとフォーゼお兄様は手を組むでしょうね」


 爽やかな青年。俺と同年代くらいか。


「なるほど。覚えておくよ」



 ミルキィの会話が終わるとちょうど、第二王子ビストラと、その騎士である『曇天の霹靂』のリーダーらしき盾を持った屈強な男がこちらに近づいてくる。



「ミルキィ。久しぶりだな」


「お久しぶりです。ビストラお兄様。何か御用ですか?」


 ミルキィは少しだけ緊張したような顔をしている。


「おいおい。あまり警戒しないでくれ。別に悪い誘いをしに来たわけじゃないんだ」


「はい。何でしょうか」


「単刀直入に言おう。俺と手を組まないか?」


「私がお兄様と手を組む? どういう風の吹き回しでしょうか」


「深い理由はないよ。君が惚れ込んだエールくん、随分と腕の立つ冒険者らしいじゃないか。短期間でF級からA級まで昇りつめんたんだっけ? それが真実ならすごい才能だ。だが、もしそうなら別の問題も生じてくる。冒険者としての経験が少ないせいで、彼には横の繋がりがないんじゃないか。他に誘える仲間がいないというのは、今回の試練を乗り越える上であまりにも大きいデメリットだ。まさか、いくら強いからと言って君とエールくんの二人だけで地下迷宮に潜るわけはないだろう?」



 その分析は正しい。俺が仲間と呼べるのはシンシアくらいで、他の冒険者との関わりはほとんどない。



 しかし、ミルキィはビストラに対し、はっきりと自信を持ってこう言った。


「私は、エール様と二人で地下迷宮ダンジョンに潜るつもりですよ」



 静寂が訪れる。このミルキィの返しはビストラも予想していなかったのだろう。面食らったような顔で開口している。


地下迷宮ダンジョンに単身で乗り込む? 冗談はよせよ」


「冗談ではありません。本気です」

 自信をもった表情でミルキィは答える。




「だって―――」




 ここにいる誰よりも、エール様は強いんですから



 ミルキィの強気な発言。もちろん俺がこの場にいる()()()()()()のは明らかだ。だが、彼女は俺のプライドを傷つけないように配慮して、俺のことを立てようとしてくれているのだろう。その優しさは素直に嬉しい。



「ははは。第二王女様はやはり面白いお方ですね」

 突如、ビストラの横にいた盾の男が喋りだす。

「でも、この男の実力も実際には大したことはないんでしょう? 今回A級に異例の早さで飛び級したのも、政府の手回しがあってのことだ。騎士はA級以上の者でなければならないという基準を満たすために無理やり昇格させた。違いますか?」



 ミルキィは少し考えたあと、言葉を発する。


「確かに、私の口添えのおかげもあってエール様が昇格したことは認めましょう。ですが、その実力はA級以上、いえ、SSS級以上のものだと私は確信しております」



 再び話合いは膠着状態になる。しかし、ビストラがまた別の切り口で話を始めた。


「そうか。うちのウィリアムが失礼なことを言って申し訳ない。ミルキィがそこまで言うのならこの男の実力は確かなものなのだろう。だからこそ、俺たちに力を貸してくれないか?」


 考え込むミルキィにビストラは言葉を続ける。


「元々、俺はシトラスとフォーゼに手を組まないかと誘われていたんだ。だが、それは断った。アーサーを一人にするのは構わない。しかし、ミルキィを一人にするのは公平フェアじゃないんじゃないかと思ってな」



公平フェアじゃないから私を誘った? そんな理由ではないでしょう。あの結束の強い二人と手を組んでも、のけものにされるから私を誘った。違いますか?」


 ミルキィがそう言うと、ビストラは笑みを浮かべた。


「何もかもお見通しってわけか。そうだよ。それがお前を誘った本当の理由だ。気に食わないなら別に良い。お前がダメなら仕方がない。あの二人と手を組むことにするよ。だが、そうする前にもう少しだけミルキィに考える時間をあげよう。今日の夜、酒場で宴会を開く。俺と手を組む気になったら、エールくんと一緒に参加してくれ」


 そう言い切ると、ビストラとウィリアムは去っていく。




 ―――なるほどな。だいたいの話はわかった。

 論理的に考えれば、ビストラと組むのが最善だろう。俺みたいな弱い人間では力不足だし、利害の一致した仲間がいるに越したことはない。


 だが、ミルキィは俺のことを立ててしまった手前、自ら意見を覆すのは難しいはずだ。ならばここは俺の方から提案をするべきだろう。



「ミルキィ。もし断れば三人が手を組むと脅してきた以上、ビストラと組むのもありなんじゃないか」


「いや、でも」


「大丈夫だ。俺に気を使わなくてもいい。ビストラと組もう」


 ミルキィはしばらく考え込んだあと、渋々といった様子で言った。


「エール様がそこまでおっしゃるなら、そうしましょう。もしかして何か作戦でもあるんですか?」


「作戦か。作戦と言っていいのかはわからないが、秘策は用意してあるぞ」


 ゴブリンとの戦いを経て、俺は新しい技を2つ編み出している。


「やはりそうですか。わかりました。少々不服ではありますが、ビストラお兄様と手を組むことにしましょう」



 王位継承戦は既に始まっている。













解説

エール視点では、自分は誰よりも弱いと勘違いしているので、ミルキィが自分をたてるために気を遣って他とは組まないと言っていると思いこんでいます。そのため、自分の口から手を組むように提案しないと駄目だと思い、そうしました。最後の「作戦」に関しては新しい技を開発したという意味で話をしています。

ミルキィとしては、エールの実力を目の当たりにしているので、他がどれだけ手を組もうとも、絶対にエールと一緒なら大丈夫だと信じています。しかし、そんな強いエールがわざわざ他と手を組むべきだと提案しているので、何かしらの深い意図、何か作戦があるのかと思い、ビストラと手を組むことを決めました。

ビストラの思惑に関しては、次回以降の投稿でわかるようにしてます。




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― 新着の感想 ―
[一言] 勘違いものというより、主人公は無知なのに学ぼうとしない馬鹿という印象しか持てない。 見る力を学んだはずなのに何一つ見れていない矛盾した設定が気になる。 それと謙虚では誤魔化せないくらい自己評…
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