12話 第一奥義を完成させました
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「さて、どう倒せば良いのか」
2分間ほど、攻防が続いた。
敵の攻撃は速いものの、躱しきれないことはない。
6本の腕と1本の触手からなされる攻撃は手数が多いため、全てを捌き切ることは不可能だが、大きな一撃さえ気をつけていれば、こちらがやられることはまずないだろう。
俺は隙を狙っては矢を放つ。
一本一本にそれなりの力を込めている。矢は貫通し、ゴブリンの身体に穴を空ける。しかし、すぐに再生が始まる。このまま消耗戦を挑んで良いのだろうか。
「いや、そろそろ決着をつけないとまずいな。どうやらあの目が残りの残基みたいだ」
ゴブリンが致命傷を負い、身体を再生するたびに、脳にある目の一つが黒く染まっていた。おそらく、目の数だけ再生ができるということだろう。
現在、俺の手元に残っている矢は5本。対して、残りの目は大小合わせて40弱。
このままのペースではこちらの矢が先に尽きる。
「【奔馬】を使うか? いや、それはないな」
倒す方法はある。第二の奥義【奔馬】を使えば、確実にこいつを屠ることはできるだろう。だが、ホブゴブリン一体を殺すのに、森一つを消滅させるのは笑えない。
「距離さえ取れれば――」
【春の雪】を放つことができる。だが、それで矢の数は足りるのだろうか。
ゴブリンの攻撃は激しさを増していく。どうやら、再生するごとに少しずつではあるが強くなっているようだった。
右フック。体捌きで躱す。
左ストレート。これは軸をずらせば問題ない。
左アッパー。手で受け流せ。
右のジャブ。これはフェイントだ。
背後から触手。横にジャンプすることで回避。
右のストレート。これは受けるしかない。
瞬時の判断で、攻撃を受け切る。
「徐々に俺の速さに適応してきたか」
大技を放つのには溜めが必要だ。平常心は保てている。ゼロコンマ1秒の時間があれば精神的な準備はできる。だが、問題は物理的な時間の確保だ。
二本の矢を使って、両足を負傷させれば時間は稼げるだろう。しかし、そうすると残り三本の矢ではこのゴブリンを仕留めきることはできない。
「爺ちゃんならどうするんだろうか」
俺は爺ちゃんが語ってくれた物語を思い出す。自分よりも強い敵と出会ったとき、爺ちゃんはどうやってそれを乗り越えたのか――――。
「そうか。限界を破ればいい」
【春の雪】が一にして十の矢を放つスキルだと誰が決めた?
「十で足りないなら、百にすればいい」
俺は素早く二本の矢を放ち、ゴブリンの膝を砕く。
動きが止まった。今がチャンスだ。
「【春の雪】」
しんしんと、粉雪が舞う。淡い桃色の光を帯びるそれは、咲き乱れる桜のようでもあった。
「綺麗......」
シンシアがそう呟くのを合図に、俺は弦を限界まで引き絞る。
―――今だ!!
俺が矢を放つとともに、あたりの雪が光の矢となり、ゴブリンに向かって放たれる。
一にして百の矢。
その全てがゴブリンを切り裂き、消失させる。
「これが本当の春の雪か――――」
俺は自らの成し遂げたことの大きさを実感する。
魔法の素養を身につけたことで、新たな着想が生まれ、技を昇華することができた。
今までの努力は無駄ではなかったんだ。
「エールくん」
シンシアが俺の元へ駆けつけ、抱きついてくる。
「大丈夫だった?」
シンシアは上目遣いで俺のことを見つめながら、頭をなでなでしてきた。シンシアの胸の温もり。ふわりと甘い匂いがする。
「俺は平気だ。そっちこそ怪我はないか?」
「ええ。大丈夫」
「そうか。なら良かった」
こうして俺の初めてのゴブリン退治は終わったのだった。
「面白いかも!」
「続きが気になる!」
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