11話 私の認識は間違っていた
ヒロイン視点です。
「いまのは?」
「何かあるな」
洞窟を進んでいる途中、明らかな違和感があった。
身体がゾワゾワする。もしかしたら、この先には―――。
「光? 出口か」
洞窟を抜けた先は、森に続いていた。が。それはただの森ではない。
「ここは・・・・・・」
魔結界が張られている。となると、この先にいるのはゴブリンロードなんかじゃなく。
「エールくん、これ以上は危ない。私が先行するわ」
『八聖』の一人としてどんな存在がいるのかを確認する必要がある。エールくんの実力を探るのは二の次だ。それよりも身近な危険がすぐそこにある。
「いや、俺が先に行く」
しかし、エールくんは私を差し置いて前へ出ようとする。
彼にはわかっていないのだ。これほどの魔結界を展開する敵。簡単に太刀打ちできる相手じゃないだろうに。
ガサガサ。
音がした。
そして、それはそこに現れた。
「……こ、これが!」
何者かによって生み出されたとしか考えられない異形の存在。知性が感じられないということは、魔人じゃないだけまだマシか。
エールくんが矢を放つ。しかし、傷口はすぐに再生される。
心のどこかで、何かの勘違いではないかと期待していた私が馬鹿だった。
「ゴブリンロードのはず、ないわよね」
――――それは、ゴブリンロードを素体とした“使徒”だろう。
さて、どうするべきか。
魔王は魔人を生み出し、魔人は使徒を生み出すことができる。強い魔人が作った使徒ならば、並の魔人の力を上回ることもある。
見たところこれを作った魔人の系統は〈獣〉。
私じゃ手の打ちようがない〈蟲〉や〈吸血鬼〉でないだけまだ勝ち目はある。
―――しかし。
魔結界を張ることができるということは上位の魔人がこれを作ったに違いない。状況から見るにかなりの生命力を既に吸い取り蓄えている。再生速度を見ても、それがただの使徒ではないことは明らかだ。
こんな敵を相手に戦闘職でない私が勝てるだろうか?
いや、不可能だろう。
そう思い、私が撤退を決めたところで、エールくんは言った。
「ゴブリンロードじゃない? そうか。ならここで逃げるわけにはいかないな」
「いくらあなたでも無茶よ!」
思わずそう言ってしまった。確かに彼には才能がある。だからといって、ここまで強い使徒に単独で勝てるほどの能力があるとは思えない。今後の成長のためにも、一度ここは退いて―――。
「あぁ。確かに無茶かもしれない。だが、この程度の敵すら倒せないなら俺は冒険者をやめる」
“この程度の敵すら”たしかにエールくんはそう言った。
目の前の敵はただの使徒ではない。『八聖』が全員で戦ってようやく勝てるような相手だ。それを彼は、“この程度の敵”と言い切った。
それはただの強がりかも知れない。だけど、彼が戦う意思を見せた以上、先輩の私が逃げるわけにはいかない。
「【刹那爆殺】」
クナイを取り出し、投擲する。それは普通のものではない。『魔聖』ユーフィアの魔法が込められた最高級の一品だ。
これが現時点での私の最高火力。消耗戦で勝ち目がないなら、一気に殺しきるまでだ。
しかし、私の攻撃を使徒はやすやすと受け切る。
「嘘、でしょ」
胴体に魔法耐性が付与されている。〈獣〉の魔人から作られた使徒は魔法が弱点のはずなのに。
ブン。
風の音がした。気がつくと目の前には使徒がいた。
「シンシア、危ない!」
エールくんはそう言って私を突き飛ばすと、その攻撃をもろで受ける。
音速のラッシュ。
私の目でもそれを追うのが精一杯だった。常人なら全身の骨が砕けてもおかしくはない猛攻。即死は免れないだろう。
――――あぁ、私のせいで。
私の心の中の嘆きは、しかし否定された。
「訓練所で学んだ成果は出ているようだな」
何事もなかったかのようにエールくんは立ち上がる。
「どうして。どうして、平然と立ち上がれるの?」
目の前の事実が信じられなくて私は叫ぶ。
「【受け身】をとった。訓練所で覚えたんだ」
違う。そういうことじゃない。
【受け身】はあくまでダメージを分散させ、大きな負傷を避けるための技。攻撃をなかったことにできるわけじゃない。あれほどの攻撃を受けて、彼はなぜ立ち上がることができるのか。
「シンシア、危ないから下がってろ。こっから先は俺が一人でやる」
――――あぁ、そうか。この男は私の想像よりも遥かに強いのだ。
次話で2章最終話となります。順調にブクマが伸びてきて、モチベに繋がっています。
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