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Kim's ハットグ

イルカを出て、再びポイントをいくつも通り抜けながら列車は加速していく。

「この先どうやって行くの?」

隣の結音が聞いてくる。

「とりあえず、終点まで乗ってそこで乗り換えて、港北まで行ってチーズハットグ??」

「そうだね、でその後パン屋さん?」

「そのつもりだけど、またおいしそうな店見つけたら寄ってもいいんじゃない?時間あるし」

「うん!あ、さっきね隼人待ってる時に見てたんだけど、春音はるねっていうところに、牧場があって、そこに牛とか見れる足湯カフェみたいなのがあるんだって」

「牧場ってことはソフトクリームみたいなあるのかな」

「今調べてるけどあるっぽいよ?!」

「じゃあそれ最後に持ってくるか」

「そうしよ!」

というわけで、


港北、で「チーズハットグ」

 ⇓

伊北、で「パン」

 ⇓

春音、で「ソフトクリーム」


というような行程に決まった。ふう。決まってよかった!そんなことを話しているうちに、列車は地下区間を抜け、俺にとってはさっきぶりの明日葉に止まった。

「この駅、懐かしいよね!」

結音が話しかけてくる。

「一年前もそういえばここ通ったもんね!」

「その時はまだ駅前そんなひらけてなかったのに、今マンションすごいよね」

そう。一年前に結音と出会って、2人で北イルカの彼女の祖父母の家に行ったっけ。その時の記憶は今でも覚えている。

「やっぱイルカまで近いし、それじゃない?」

明日葉からイルカまでは、普通列車で12分、快速で11分だ。

そんなこんな、話している間にも列車は終点の北イルカに向かって北上を続ける。さっき通った人の海水浴場や国道3号線などが、逆再生しているかのように目の前を過ぎていく。

そして

『まもなく、北イルカです。伊北線、新緑線、地下鉄衣北線は、お乗り換えです。出口は、右側です。列車とホームの隙間が広く開いているところがございますので、足元にご注意ください。本日も、いるてつイルカ線をご利用いただきまして、ありがとうございました。』

例の伊藤萌祈(もえぎ)さんの放送が、北イルカへの到着を告げる。

「着くね!ここで乗り換えするんだよね??」

「そう、伊北線に乗って、チーズハットグだよ」

「私伊北線乗るの初めて!」

「でもそんな本数無いから、港北で降りたら時刻表確認しなきゃね」

「そうだね」

列車はポイントを通過し、そして静かに止まり、ドアが開く。9時57分、北イルカに到着した。結局、北イルカに着いた頃には俺と結音が乗っていた車両には10人も乗っていなかった。

「行こっか」

俺は結音の先に立ち列車を降り、そしてホームの先っぽ寄りにある階段を2人で進む。

「あ、次の電車、10時だって!ねえ隼人今何時?」

「57分、だからあと3分しかないよ」

「ヤバいね!!急がなきゃ」

2人で伊北線のホーム、1、2番線に繋がる階段を駆け下りる。そこにはもう伊北行きの普通列車が止まっていた。

「ねえ見て1両しかないよ!」

結音が言う。この車両は8000系で、イルカ鉄道唯一の1両編成(単行)の電車だ。

「ね!普段学校行く時は6両編成ばっかだから珍しいよね」

「それ!しかも赤い帯がかわいいね」

ということで、発車まで時間がないのでドア横のボタンを押してドアを開けて乗り込み、また閉める。安定の暖房が聞いている車内で良かった。車内を見回して乗っている人の数を数えてみると、15人くらい。この車両の車内はボックスシートといわれる、座った時に相手と向い合せになれるもので、グループとか家族での旅行だとロングシートと違って話しやすいし車窓もよく見えるから、今日みたいなデートの日にはうってつけな車両だ。やったぜ。

「結音どっち座る?」

「じゃあこっちにする!」

結音は進行方向を向く向きに、そして俺は後ろを向く向きに座ると、ほぼ同時に「ガクッ」という衝撃とともに列車は伊北に向かって動き出した。

『ご乗車ありがとうございます。普通、伊北行き、ワンマン列車です。次は、衣北港です。すべてのドアが開きます』

そう、この列車は車掌がいないワンマン列車なのだ。だから運転士は車掌の仕事、例えば切符の確認やドアの開け閉めも一人でしなければいけないから大変だ。


伊北は30kmほどここから北の都市で、人口は約3万2千人のちいさめの市であるが、伊北地方の合同庁舎が置かれている。なお、ここには都道府県の概念の代わりに地方ごとに「合同庁舎」を置き、それをその地方内の行政機関としている。ちなみに、今から結音と向かう港北駅は、北浜きたはま郡港北町にあり、町の人口は約4万7千人で、合同庁舎の置かれる伊北より人口が多い。

そして動き出したと思ったらすぐ衣北港きぬほくこう駅である。ということで結音に話しかけてみる。

「今衣北港駅じゃん?」

「そうだね」

「ここ前までイルカ港駅だったんだよ!」

「えっ!ってことは、おじいちゃんの家この辺ってことじゃん!」

「そう。ってことは、、、?」

「あ。なんか隼人に言ったのもこの辺ってことか」

「そうだね。っていうか懐かしいな。あれから1年半くらい?」

「早いね!なんか思い出したら恥ずかしくなっちゃった笑笑 なんであんなことしたんだろうね」

「わかんないけど、俺はめっちゃうれしかったよ?」

「私も。後悔はしてないよ」

そう、結音に告白されたのはまさにこの辺りなのだ。

列車は衣北港を出発した。早いことに次がもう港北である。「港北」の港の字は、言うまでもなく衣北港から来ている。だから

「結音、次だよ」

と伝える。

「えっもう着くの?」

「そう。すぐすぎるよね」

時間にして4分、距離にして1.7kmの短い乗車だったが、港北駅に到着した。

「降りよっか」

「うん!」

そして後ろのドアから降りる。同じ列車から降りたのは大体5人くらいだろうか。

「相変わらず寒いね」

「寒い~!」

「でもそのもこもこマフラーとか首を守るだけでもだいぶあったかく感じない?」

「わかりみ深い!そうなのなんか私が今巻いてるみたいなもこもこ系だとさ、首周りに空気が入らないからさ、あったかいんだよね」

港北駅は、一つの島のような短いホームの両側を線路に挟まれたいわゆる1面2線の構造で、北イルカ駅と同じような橋上駅。人口5万人弱の町の玄関にふさわしい駅舎だ。改札はホームの一つ上の階にあるから2人で並んで階段を上り、切符を取り出し改札機に通す。結音も俺に続いて改札を抜けた。

「俺場所知らないからさ、案内してくれない?」

「いいよーとは言うものの私地図読めないから代わってよ。やっぱり王子様はお姫様をリードしてくれるんじゃないの??笑」

「そういわれたら断れないんだけど」

「よっしゃ決まりね!」

ということで結音からその店の名前を教えてもらい、スマホの地図アプリで検索してみる。

「だいたい歩いて10分だって」

「意外と近いね!」

「あ、行く前に時刻表見てから行かない?」

「そうだった!めっちゃ待たされるところだったじゃん!セーフセーフ」

次の列車は10時24分発の普通列車の穂高ほだか行きだけど、これは今いる港北と、パン屋さんのある伊北の中間あたりにある穂高までしか行かないから、、、。

「次は10時43分の快速だね」

「ってことはあと40分くらいしかないってこと?急がなきゃね」

「でも1日5本しかない路線とかじゃないからさ、そんな焦んなくてもいいかもね」

「そうだね。でも後半に何かあったら面倒なことになっちゃうからなるべく早く遠くに行きたくない?」

「じゃあ、、、、急ごっか!」

「うん」

ということで西側、つまり海と反対側の出口から出る。さすがに町の中心駅だけあって、ショッピングセンターとかはないけど、スーパーや飲食店、公共施設などは比較的そろっていて、人もちらほらいる。駅前のバスやタクシーの小さなロータリーを抜け、俺たちは線路に対して垂直に山側に延びていく道路(港北大通り、と呼ばれるらしい。)をしばらく進み、地図アプリに従って交差点で左折、割と細めの住宅街の路地に入る。

「ねえあってるの?なんか私不安なんだけど」

「結音が教えてくれたやつちゃんと入れたから大丈夫、なはず」

「はず笑笑」

そしてそれは突然現れた。小さなカーブを曲がった先に10人ほどの列。住宅街のど真ん中にチーズハットグ専門店の暖簾のれんが!!

「「あった!」」

「いや同時かよ」

「私が先に見つけようと思ったのに!!」

「いや俺がアプリ使ってるから最初に気づけると思ったんだけどなあ」

「まあ、いいから並ぼ並ぼ」

そういって袖を引っ張る結音。可愛すぎるああー幸せ。


「Kim's ハットグ」と書かれた暖簾、そしてちょっと白い壁と植栽、ガラス張りの店内で、カフェのような店内外で有名だというが、俺はチーズハットグなるものを食べたことがない。

「結音はチーズハットグ食べたことあるの?」

「一回だけある!イルカにある違う店に友達と食べに行ってさ!!!おいしかった」

「俺ないんだよね」

「じゃあ楽しみは買う時まで待っとこ」

ということで並ぶことおよそ10分、俺は一番人気だという「ポテトモッツアレラチーズハットグ」を、そして結音は二番人気の「モッツアレラチーズハットグ」を注文し、受け渡し列に並び変える。そして待つこと5分、自分たちのハットグ達が完成したみたいだ。というわけで、箱のような入れ物に乗っかった、アメリカンドッグがゴツくなったような外観のが俺ので、まさにアメリカンドッグのようなのが結音のだ。きれいな店内は割とお客さんで埋まっており、空いていた壁側の2人向い合せで座れる席に座った。

「写真撮ろっか?」

「あ、じゃあお願い!」

俺のチーズハットグをテーブルに置き、ポケットからスマホを取り出しカメラを起動する。

「準備オッケーだよ」

結音は箱からアメリカンドッグ、失礼、チーズハットグを持ち上げ一口かじり、

「ハイっチーズ」

シャッターを切る。画面越しに見る結音の笑った顔が最高すぎる。

「あっついあつい!」

中のチーズがどうやら激熱らしい。

「撮れたよ!」

「ありがと!後でLINEで送ってよ」

「もちろん」

「隼人のも撮るよ?」

「いやでも俺の場合顔面崩壊するよ?」

「いいからいいから!」

ということで結局撮りあうことになってしまった。人生初チーズハットグはめちゃめちゃ美味しかった。アメリカンドッグの中がソーセージじゃなくてチーズになっていて、これがめっちゃよく伸びる。上にはマスタード、ケチャップのほかに砂糖もかかっている。これは意外だったけど思ったよりマッチしてる。俺もInstagramとかで見たことあるけど、新鮮な感覚で面白い。

「おいしかったね!」

「めっちゃ!私ね、この前イルカで友達と食べたときは隼人が頼んだみたいなポテトがついてるやつ食べたたから今日はついてないの頼んだんだけど、こっちも美味しいよ!」

「今度試してみるね!?」

「ぜひそうしてよ。損はないから」

そうやって話しながら、ハットグを食べ終えた。

「あっ!隼人さ、気づいたらもう10時45分だから乗ろうとしてた電車乗れないね、、、」

「ま、こういうのってそういうのが付き物だよね」

「確かに!記憶に残りそうなデートになりそうだね」

「じゃあ、食べ終わったことだし」

「「ごちそうさまでした!」」

手を合わせて小さな声で言った後は、ゴミ箱に捨てて置いてある布巾でテーブルを拭いて店を出る。結音が

「外もだけどさ、中のチーズ、あれ熱すぎて身体燃えるかと思ったよ!」

「本当!熱すぎてヤバかったね!でもおいしかったから良しかな」

「うん。お陰であったまれたしね」

個人経営のメッチャ美味しいチーズハットグ屋「Kim's ハットグ」を後にし、来た道を駅の方向へ戻る。次は伊北のパン屋さん!楽しみだ。

今日、これを書くにあたってチーズハットグを食べたことのない3色かき氷はいろいろネットを調べてたんですが、これまでチーズハットグって周りに立方体の形をしたジャガイモがくっついててゴツゴツしたやつのことをチーズハットグというと思ってたんですけど、実際はないものもあるんですね。ちょっと驚きです。今度友達と食べに行きたいです!

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