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叫び

シアの様子がおかしい。ここがどこなのか。その答えを知ってから間違いなく何か焦り始めている。しかも、外に出たいと言ったと思ったら、今が昼と知った途端に「やっぱりもうちょっと休んでます…」ととんぼ返りをする様である。

さすがに怪しい。部屋に戻ったら戻ったで何かに怯えるようにベッドの上で部屋をキョロキョロと見渡している。見渡しているのではなく見えない「何か」を探している、という方が近しいかもしれない。

「どうしたの?」ソロンは心配になり優しく声をかけた。その声にシアは体をビクッと小さく震わせた。気が張っている。なぜだかわからないが極度に緊張している。

「あ…。ごめんなさい。大丈夫です。」見るからに嘘を吐くシアの目を見るとうっすらと瞳が震えている。

「いや、大丈夫じゃないよ!もしかして持病とか持ってるの?発作的なやつ!?」

何かを必死に隠そうとしている彼女にソロンはだんだんイライラしてきた。シアは何かを隠している。そう確信しているソロンはうやむやにする彼女に少ししつこい感じで、己の身を感情に任せて、うざったらしく訊いてみた。

「あ、いいえ。大丈夫ですから。なんともないですから」

「ホントに?冷や汗かいてるし、挙動不審だし、じっとしてられないって感じだよ。やっぱり何か病気なんじゃない?ばあさんが帰ってきたら見てもらった方がいいよ!せっかくさ目が覚めたんだし!」

「あの、本当に、本っ当にに大丈夫ですから!」

彼女が語気を強めてもソロンは引かない。その後もいくつかの押し問答が続き二人の言い合いが終わったのは、ワイホが村長と共に帰って来たときである。

「なんだい、騒がしいね」そう言ってワイホが部屋に顔を見せた。

「おぉ、目が覚めたのかい!すごいねぇ、ひとまずの点滴をしただけだったのに」

ワイホが来たとたんに黙っていたシアは「おかげさまで。このご恩は一生忘れません。それと申し訳ないのですが、私は今お金を持っていないんです。助けてもらったお礼に何かできることはありませんか?何でも致します」と見事にき感情を切り替えた彼女は、律儀な挨拶をして感謝の旨を伝えた。なかなか大人である。

「おぉ?そうかい。まぁ、お金持ってないのは見れば分かるからもらう気はなかったけれど。そうだね、じゃあ、お前さんがこのじいさんと話してる内に考えておくよ。わたしはあっちで料理を作ってるからね。何かあったら呼んでくれ」

そう言ってワイホは村長にバトンパスした。

「へ?」話すとは、どういうことだろうか。挨拶を交わす程度のことだろうか。急に村長と話してろと言われたシアは少し混乱した。

「じいちゃん、どうしたんだよ。出向くなんて珍しいじゃん?」

「何。珍しい客人が訪れたと聞いて顔を見に来たんじゃ。悪いか?」

村長──ソロンの祖父でもあるセイロンは笑いながら答えた。

「そこで客人さんよ。お主はどこから来たんじゃ?ここいらの人間とは容姿がまったくちがうが?」

「わ、わたしは…」シアは俯いてしまい何も話そうとしない。時計の針がこういう時だけはだけうるさく聞こえる。

「…ん。わかった。言いにくい事情があるなら無理に聞こうとは思わん。だから、まずはわしの話を聞いておくれ」

実は、とセイロン。

「今朝、都市の兵士たちが村に来おっての。お前さんと同じような姿の娘を探しているから見つけたら差し出すようにと手配書をもらったのじゃ。あまりにも急な事だったのでな、何故か?と問うたんじゃ。しかし、理由など聞いても意味がない!と言い残してさっさと帰ってしまってな」

ソロンはなんとなくシアの事情を悟った。シアは追われている身なのだ。そんなシアは俯いたまま微動だにしない。いや、よくみると小さく震えている。

「しかし、わしは、理由も分からぬまま、人を捕らえ、差し出すことができるほどできている人間ではなくての」

シアはピクッとして目線をセイロンに合わせた。

「そんな時、ワイホから珍しい人間が川から流れてきたらしい、ということを聞いてな。これはもしかしたらと思ってここに来た、という訳じゃ」

セイロンは話終えると「ふぅ~。話すのは疲れるわい」といって近くの椅子に座り込んだ。

シアは自分がどうすればいいのか迷っているみたいだ。ある一点を見つめながら唇を軽くぎゅっと噛んでいる。

シアが、実は…と切り出した切り出したのはそこから一分ほどたってからだった。






シアは、自分の素性、これまでの経緯を話した。セイロンは目を丸くして驚いているのに対し、ソロンは頭に?マークご浮かんでいる。

「お願いします。どうか私を匿っていただけませんか?何でもします。どんな重労働でも、汚いことでも、何でもやります。お願いします。どうか、お願いします!」

シアは泣きそうになりながらもギリギリのところで堪えて必死にお願いした。

「そうか…パシオか…。まさか実在していたとは…」

そう言ったのは村長セイロンである。パシオ───幻の種族とされてきたそれが目の前に居ることに驚きながらも少女の言葉をしっかりと受け止めていた。

そんな中、話がいまいちわかっていないソロンは

「パシオってなに?じいちゃん」とセイロンに訊ねた。

「パシオ族。遠い昔、自らの血を渡す代わりに物をもらい国を渡り歩いていたとされる種族でな。しかし、パシオ族はあるときから、パタッと姿を消してしまい、幻の種族となったのじゃ」

へぇーとあまり分かっていない返事をしたソロンはある疑問が浮かんだ。

「え、何で血を渡すの?」

何も知らないソロンには当然の疑問である。

「私たちパシオ族の血には傷を癒す力があるんです。飲めば、病気も治せると聞いたことはありますが、その血を大陸の国々に提供する代わりに技術や物をもらっていたのです」とシアが答える。

ソロンは、まだ納得できていないようで「へぇー。じゃあ、何で急に消えちゃったの?パシオ族は?」とこれまた当然の疑問をぶつけた。

「なぜかは、わからないが、ある噂によるとヨーグの都市で自分達の血ではなく、獣の血を渡したとして、捕らえられそのまま皆死んでしまったらしい」とセイロン。

「獣の血を与えられ、それを使った人々は獣の血に混じっていた細菌に感染し死んでしまったらしい。そこからパシオ族は獣の血で人を殺す『獣血の悪魔』として人々に恐れられた、という事を聞いたことがある。」

「そんな!違います!」声を大にしてシアは言った。セイロンとソロンはびっくりしてシアの方を見た。シアは怒りで泣いてしまっている。

「そんな噂は嘘です!私たちの祖先であるパシオ族は、その力に目をつけた帝国、ヨーグに拉致されたんです!拉致を逃げ延びた人がその事を祖国に伝えて拉致されたパシオ族は助けの来ないままずっと、ずっと地下牢で血を抜かれながら、拷問に耐えながら種族を残してきたんです!」顔は悔しさと怒りでくしゃくしゃになっている。

「 『獣血の悪魔』 なんかじゃありません。私の母は、私たちは神様から特別な力を授かった 『女神の血族』 だっていってました!死ぬ間際にも、誇りを忘れないで、と言い残して!」

あまりもの叫びにセイロンとソロンはあっけにとられていた。叫び声が聞こえて料理を中断してやって来たワイホは、どうしたんだい!?とシアに慌てて近寄った。

「あんたら、何したんだい!男二人で女を泣かせて!大事な用があるとかいうから会わせたってのに!」

ワイホはカンカンである。大丈夫かい?とシアを抱きしめシアも泣きながらワイホを抱きしめる。ワイホの小太りの体型が生み出す包容力に包まれ、シアは一層涙を流した。

「ここは、私が見とくから。あんたら、途中の料理どうにかしてきな!」

ソロンは「わ、わかった」と言って「わ、わしもか!?」というセイロンの腕を引っ張りキッチンへ向かった。

礼儀正しく、おとなしかったシアの叫びにソロンはなんだか心が痛くなった。気を紛らすために早く料理でもしよう。そう言って「も、もっと優しく引っ張ってくれ!」と事の原因、セイロンを引っ張って行った。



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