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出会い




ソロンはいつものように家を出た。いつも通る道を歩き、いつも会うおばあさんと挨拶を交わし、いつもの釣りスポットへ向かっていた。最近は物騒な話も良く耳にするからいつも通りということ安心できる。そう、いつも通りであれぱ。



少し違和感を感じる。心のモヤモヤが晴れないままでなんだか気持ち悪い。このモヤモヤをどうにか解消したいところだが、なにがそうさせているのかわからない。

いつもならもう十匹は超しているころだが、まだ一匹も釣れないしイライラしてくる。こういう日もあるか、と無理やりに自分を納得させて、帰ることにした。

「モヤモヤするなぁ。いつもみたいにバケツは重くないし、なんか調子狂うな」

なにがこんなにモヤモヤするんだか。いつも通りじゃないからか?いや。釣り以外はいつも通りだったでしょ。前にもあるはずだ、こういうことは。うん。いや、釣れない日はなくないか?うーん。ん?なんかあるな。なんだ?わ、女の子だ。来たときはいなかったな。今上がってきたのかな。……女の子!?

考え過ぎていて通りすぎるところだった。危ない。死んでないよね。

すぐに近寄ってまず生死の確認をするために首に手をやった。がすぐ手を引いた。冷たい。冷たすぎる。死んでるのか?

しかし、よく見ると浅く呼吸をしている。ひとまず医者へつれていかなくては。すぐにバケツを置いて少女をおぶる。軽い。女子の軽さとかではなく、人として軽すぎた。こうしている間にも死んでしまうかもしれない。ソロンは全力で走った。趣味の釣り竿を忘れるほどに。




ワイホは、お茶を飲みながら平和というものを噛み締めていた。大戦が終わったばかりの頃、この部屋は痛々しく血生臭い、まさに死の空間であった。ベッドの上では苦しい、助けて、殺してくれ、という呻き声が響く、見るのも耐えられない場所だった。血で真っ赤なシミができたシーツを毎日毎日百枚以上は洗い、死ぬものがいればシーツでくるんで火葬する。そんな地獄のような日々が続いた。それも最近はようやく影を潜めて医者の仕事も余裕が出てきた。

「やはり平和が一番。私の仕事が忙しくなくなったのも平和の象徴というこt「「がたたたん!!!!!」」 な、なんじゃ!?」

入り口に目を向けると大きく呼吸をしているソロンが立っていた。背中には少女が抱かれている。

「ばあさん!この子、やばい。死ぬ。死にそうだから。あの。え、助けてやって。助けてくれ!」

半ばパニックのソロンに少女をベッドに寝かせてもらい、少女の様子をみる。

「これは…!」

少女は全身が傷だらけで痩せこけている。酷い環境に置かれていたことは想像に難くない。少女はとてつもなく冷たい。川に流されて冷えたにしては冷たすぎる。肌も白く、金髪である。ここの人々は肌は、黄色で、黒髪だからずいぶん遠くから流されてきたみたいだ。

「ソロン毛布を取って来てくれ」

わかった、と返事をしてソロンが毛布を取りにいっている間に少女の服を着替えさせる。服はワンピースらしきものであり、ボロボロで左の脇腹と両肩に大きな穴が開いている。ソロンが帰って来る前に患者服に着替えさせ点滴を打つ。体を触り重症がないか確かめているとソロンが毛布を持ってきた。

「よし、まず体を暖めてひとまず点滴をして様子を見ることにする。ソロン、毛布をあと2枚持ってきたら見ておいてくれ」

「わかった!」

通路の奥の部屋からソロンの返事を確認して、ワイホは家を出た。




毛布を掛けて、少し落ちついた。改めて女の子を見ると今はすやすやと寝息をたてながら気持ち良さそうに寝ている。心なしか少し微笑んでいるようにも見える。さっきまで瀕死の状態だったというのに回復が早い。いや、早すぎる。点滴をしただけだというのに。人は死にそうになるとこんなに回復が早いのか?いや、そんなはずはないだろう。自分も一度川に溺れて死にかけたことがあるが4日は目を覚まさなかったそうだ。

「ここいらじゃ見たことないな。こんな人」

こんな人、とは彼女が金髪で肌が白いという見た目のことである。改めて観察したときに初めて気づいたが彼女はなかなかの美人だった。頬はげっそりとして唇もカサカサだがそれでもまだ美人の部類に入るだろう。こんな系統の美人は、見たことがない。

かわいい。感想を求められたら誰しもがこの言葉を使うと思う。万人が見てもかわいいと言われる、これについてはなんだか変に自信がある。女の子と寝たきりとはいえ二人きりの空間がそう思わせるのか。

そんなことを思っていると彼女の目がピクッと動いた。そして、ゆっくり瞼を上げた。

ソロンは、この少女の瞳を初めて見た。細かくいえば、瞳の色を。紫の瞳をベースとして、所々薄く赤い斑点が散りばめられている。

少女と目があった瞬間頭の中に何かがスッと入り込むような感じがした。次にはこの瞳に引き込まれ、我を失ったかのように少女の目を見つめてしまっていた。自分で制御が効かない。動こうとしても、体は動くことを許さない。まるで、操られているかのような錯覚に陥るほどにからだの自由が効かない。頭もそれを異常事態とは見なしてはいない。

ソロンは少女の美しい瞳にに魅入ってしまったのである。




「あの…すいません…。ここってどこですか?」怯えた顔で少女は訊ねた。

少女は自分がなぜこんなところにいるのか、なぜこんな贅沢に毛布を掛けられて寝ていたのか、そして何よりなぜ少年がこちらに恨みでもあるのかというくらいに目を見開いて凝視しているのか。しかも目があっているというのに動かない。

暖かいベッドの中で目が覚めたときはいつもと違うという違和感こそあったもののなんだか安心できた。

しかし、見覚えもない場所で少年がじっ…とこちらを見ている。これは彼女に恐怖を与えるには十分だった。冷や汗が背中をすぅと垂れてきたのが嫌でもわかる。

少年はこちらに声を掛けられてハッとして急に改まって「はいぃっ!」と裏返った声で返事をした。

「あの、ここはどこなんですか…?」もう一度訊ねて見ると少年は、あ、そうだったみたいな素振りを見せて事の顛末を説明した。

「君は、川で倒れていたんだよ。体がものすごく冷たくてもしかして死んでるんじゃないかって思ったけど息をしてたみたいだから知り合いの医者につれてったんだよ」

少女は「川」という言葉を耳にしたとき、自分が崖から飛び降りたことを思い出した。

「まさか…助かるなんて…」

少女はボソッと呟いた。正直生き延びることを諦めていたので、自分が助かった安心と喜び、それ以上のなぜ助かったのかという疑問が頭を駆け巡る。

少年を見ると困った顔をして「もしかして…、あの、死ぬために川に飛び込んだの?」と少し気まずい感じにこちらを見ていた。

「いや、あのー、なんだ。えー、いや!うん。助かったことをさ、まず前向きに考えて、ほら、ね?もう死にたいなんて思わないような新しい人生というものを自分で掴む、いや、なんだ。うーんと。だから、ほら、もう死のうなんて思わない方がいいよ?うん。もったいない。もったいないから。ね?」

手をカクカクさせながら少年は、焦りを押さえ込みながら、いや、焦りながら言った。

少年がどうにか気持ちの切り替えをさせようと必死に自分を励まそうとして。それがどこか安心して。嬉しくて。自然と緊張が溶けて、フフッと笑ってしまった。

未だに「人生というものは一回きりででしてね。やりなおしがきかぬものなのですよ。」と少女を諭そうとしていた少年は少女が微笑んだことに安堵して。つられてハハッ…、と苦笑いした。





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