エピローグ
ゼンは、シアと一緒に村長宅の自分の部屋にいた。もちろん事の顛末をシアに話した。シアは驚いていていたが、ゼンの気持ちを聞いてゼンを許すと言ってくれていた。
「本当にすまない。すべては私が仕組んだことだったんだ。」
「もういいよ。大丈夫。ゼンがどんな気持ちだったのかすごく伝わってきたから」
「そうか…」
ゼンはふと思い出す。そういえば、あの絵描きは無事だったのだろうか。
「ゼン?どうしたの?なんか暗い顔してるよ?」
ゼンはその理由を答える。
「私がシアにあげた絵があるだろう?あれは、実は買ったんじゃなくてわざわざ描いてもらったんだ。城の絵描きに、ちょうどあの高台でな。その人が無事だったのかちょっと思案していてな」
「そうなんだ……あ!私、そこで絵を描いてる人を見たよ!もしかしてその人?」
「そうなのか!?まぁ、そうだといいんだがな」
「その人はね、あの戦いを描いてたの。子供達と一緒にずっと見てたの。なんか迫力がすごくて魅入っちゃった」
「そうか…」
もしかしたらその絵を描いていた人物が例の絵描きかもしれない。そうであってほしいとゼンは願った。
「そうだ。その絵描きにはシアにあげた二枚の絵に加えて、 もう一枚絵をもらってな。シアには必要ないと思ってしまってたんだ。ちょっと待っててくれ」
そう言ってゼンはクローゼットの奥に隠してあった夜景の絵をシアに見せた。
「うわぁ!すごく綺麗…!お昼の絵とはまったくかわって見えるね!」
「そうだな。私も初めて見た時、綺麗と思わず口にしてしまってな。それを聞いた絵描きがその絵を私にくれたんだ。『絵は誰かに見られなければ芸術にならないから』と言ってな」
シアはまだ絵に魅入っている。両手で絵を持って穴が空かんばかりに絵を見つめている。
「シア。お前は太陽のある世界を見ることが出来ないかもしれないが、太陽がいない世界もこんな美しいんだ。みんなもその美しさがわかるはずだ。だから、昼に外に出れないからといって寂しがる必要はない。こんなに美しい世界をみんなと共にできるんだからな」
ゼンの言葉を聞いてシアは少し微笑んだ。
「そっか……そうだよね。私には見れない景色があるけど、みんなと一緒に見えるこんなにきれいな景色があるんだもんね。知らなかった。夜がこんなにきれいだったなんて……ありがとう。ゼン。やっぱりゼンは優しいね」
「そ、そうか。いや…そうか?」
少し照れてるゼンをシアが「ゼン照れてる~」と笑って茶化す。
「そ、そんなことないぞ?」と強がるゼンもそんなシアにつられて笑う。
この国は変わる。以前よりもっと良い国に。ゼンはそんなことを確信しながら、今あるシアとのささやかな幸せを噛み締めていた。