9 .二人乗り
(一体なんなんだ…あの子……!?)
奏士はさっきの美雨の下着姿が頭から離れない。
(大体高校生にもなって、下着の付け方が分からないとか、あり得ないだろ!!)
自分をからかっているのか……?
何のために………?
奏士は分かるはずのない問題を、布団の中で悶々と考えるのだった。
「奏士! 奏士起きなさい!!」
優子の大声で、眠い目をこすりながら起き上がる奏士。
「やっべぇ……あれからそのまま寝ちまった……」
夜もう一度みゅうを探しに出ようかと思っていたのに、カーテンを開けるとすっかり朝日が奏士を迎えていた。
「美雨ちゃんは、早起きして朝食作ってくれたんだから!」
優子は『ありがとう』と彼女の背中をポンと叩く。
「今日から、美雨ちゃんも奏士と同じ学校行くんだから、ちゃんと連れてってあげてね」
母の一言に耳を疑う奏士。
「は? 何でおんなじ学校なんだよ! ここの地区に近い高校、他にもあるだろう?」
焦りを隠せず食いかかった。
「美雨ちゃんが通うのは一ヶ月位だから……、短い期間で受け入れてくれるところが、奏士の高校しかなかったのよ。帰国子女だし、色々一人じゃ不安でしょう? 私がいつも側にいてあげるわけにもいかないから、学校でのことは奏士、あなたにお願いするわね!」
優子は後ずさりする奏士の手を、強引に握り思いを託す。
「まったく、いきなりこんな年頃の男女がおんなじ家に住んでるなんてバレたら、なんて噂されるか……」
頭を抱える奏士。
「いいじゃない、短い間なんだし。私はいつまでも、居てもらっていいんだけどね!」
美雨の顔を見てニコッと笑う。
「母さんが良くても俺が困るんだ!!」
しつこく反論する奏士を一喝するかのように、
「奏士! 往生際が悪いぞ!! 一ヶ月位面倒みてやってもいいだろう!」
父、浩介がピシャリと言い放った。
「……ったく!! さっさと食べて行くぞ!!」
トーストにかぶりつきながら目も合わせずカバンを手に取る。
「うん!!」
美雨はいつも奏士を見送るばかりだったのに、行動を共にできることが、なによりも嬉しかった。
支度を終えて玄関の扉を開ける。
一面に広がるキラキラと輝く海に、
「おはよう!!」
と大きな声で挨拶する美雨。
浩介も優子もそんな美雨の姿に笑みが溢れる。
「美雨ちゃんに来てもらって……本当に良かったな」
浩介は優子がずっと奏士がみゅうを失った悲しみから抜け出せないこと心配して、日夜彼の気持ちを包み込むように見守っていたことを知っていた。
「本当にそうね。美雨ちゃんのお陰で本当に救われてる」
改めて感謝の眼差しで美雨を見遣る。
「ところで、お前、自転車は……?」
いつも自転車通学している奏士は嫌な予感がした。
「あぁ、母さんの貸してあげるわ」
庭から可愛らしいピンクの自転車を転がしてきた。
「わぁ、本当にこれ借りていいんですか?」
美雨はたまにこのカゴに入れてもらって、外を散歩に連れて行ってもらったことを思い出す。
「えぇ、いいわよ! 喜んでもらえて嬉しいわ」
そんな優子の言葉を背後に聞きながら、早速跨ってみる美雨。
ペダルを大きく踏み込むと、
「うわぁ!! ……ひゃぁ〜!!」
いきなりバランスを崩して三メートルも進まないまま倒れこんだ。
「だ、大丈夫?!」
急いで駆け寄り起き上がらせる浩介と優子。
「いたたた……」
涙目になる美雨を凝視する奏士。
「お前……まさか自転車乗れないんじゃないだろうな……?!」
呆れた眼差しを向ける。
「あの……、なんか……乗れなかったみたい……」
『てへ』と舌を出して照れ笑いをする美雨に、
「じゃあ、母さんに送ってもらえ!! 俺は遅刻するからもう行くぞ!!」
カバンをドシンと前かごに積み込み、自転車の鍵を解除する。
「ちょっと、奏士、今日は近所の集まりがあって行けないから、美雨ちゃん後ろに乗せてってあげてよ。そんな遠い距離じゃないんだし」
優子は時間を気にして家の中に入ろうとする。
「ち、ちょっと待ってって! 無理だって!!」
慌てて優子を追いかけた。
「お前、女の子一人乗せて自転車も漕げないのか?」
呆れたように浩介が口を開く。
「そういう問題じゃない、父さん……分かるだろ?!」
必死に抵抗する奏士。
「じゃあ問題ないじゃないか。毎日ってわけじゃないんだから、とにかく今日は美雨ちゃんの事頼んだぞ!」
そう言って浩介も仕事の時間が迫っているので、そそくさと家の中に入っていく。
「ったく!! マジでなんなんだよお前!! 早く乗れ!!」
スマホの時計を確認するともう時間ギリギリだ。
奏士の自転車の荷台に、ちょんと両足を揃えて乗り込む。
「急ぐからな、しっかり掴まってろよ!!」
そう言って海沿いの急な坂道を勢いよく下り始める。
「うわぁ……気持ちいいっ!!」
海風を全身に受け大きく深呼吸する。
どんどんスピードが上がって行く奏士の乗った自転車は、朝の眩しい太陽に押されるように、二人は包み込まれる様な暖かい日差しを感じていた。
振り落とされないようにしっかりと奏士のお腹に手を回し身体を近づける。
久しぶりに感じる奏士の匂いに美雨はたまらず彼の広い背中に顔を埋めた。
「おい、あんまりくっつくな!!」
背中に当たる美雨の柔らかい胸が、昨日の衝撃的な下着姿を脳裏にチラつかせ、高鳴る鼓動を隠し切れているか心配になる。
「だって、奏ちゃんの匂い、大好きなんだもん……!」
そんな美雨の言葉になぜか赤面してしまう奏士。
「……まったく、簡単に好きとかいうなよ」
好きと言われて悪い気はしないが、学校でそんなセリフを言われたら一気に噂が広まるに違いない。
「学校では出来るだけ俺に話しかけんなよ! まぁ、同じクラスになるとは限らないしな」
美雨はきょとんとした顔で聞いている。
遠くから予鈴が風に乗って聞こえてきた。
「ヤバイ! 飛ばすぞ!!」
ほんわか香る奏士の汗の匂いに、美雨はこんな居心地のいい場所、他にはないわ……そう浸るように目をつぶった。




