プロローグ〜海の見える家〜
2020年9月22日、全面改稿しました。
旧『女の子になりたい猫』のタイトル変更してます。
※特に内容は大きく変わってはおりません。
自分的には大好きな作品で、完結した後にも、唯一何度か読み返している作品だったのですが、どうもとっつきにくいと思われてしまっている様なので(ストーリーの背景まで伝えたいと思ったらこうなってしまいました……)せめて読みやすい様に若干ですが改稿しました。
美雨と奏士の一緒に居た空間、色や温度が少しでも感じとっていただけたら、作者としては泣くほど嬉しいです(笑)
どうぞよかったら読んでやってくださいませ(*´꒳`*)
私はみゅう。
きっと、この世で最高に幸せな猫。
今日もご主人様である奏ちゃんの膝の上で、ふんわりとしたピアノの音色を聴きながら、彼の優しさに包まれている。
◆◇◆◇
少し開いた窓の隙間から入っていくる風は、ほんのり潮の香りがする。
五月の暖かい太陽の匂いが、穏やかに入り込んで来るのだ。
みゅうの飼い主である波来奏士の家は、少し高台になった海沿いに、ひっそりと五軒ほど並んでいる中の一角にある。
一度見ればすぐに覚えてもらえるような、洋風の可愛らしい明るいオレンジ色の面構えだ。
彼は今日もいつものように柔らかな風を感じながら、私を膝の上に乗せて、流れるようなキラキラと輝くピアノの音色を惜しげもなく放ち続ける。
父である浩介の仕事で6歳までイギリスの美しい街コッツウォルズに住んでいた事もあって、家族は父、母、奏士の三人暮らしだが、全員が緑に囲まれる生活を望んでいた。
隣同士が離れた場所にあるので、大きなゆったりとした庭にはマリーゴールドや、ペチュニア、ラベンダーなどが其処彼処に色取り取り植えられていて、夫婦で休みの日は仲良くガーデニングを楽しんでいる。
みゅうはそんな美しい庭に出ては蝶を追いかけ、爽やかな潮風にゆらゆら揺れる花々と興味深そうに戯れていた。
奏士の家の目の前のなだらかな坂を徐々に下っていけば、住宅街が広がっているが、海の好きだった彼の母、優子の希望で、多少の不便さはあったが緑に囲まれ、窓からは海が一面見渡せるこの場所を選んだ。
奏士はイギリスに住んでいた当時3歳の時からピアノを習い始め、今では結構な腕前で毎日のように自分の頭の中で思い描いた音色を指に伝えて、奏士の家の前を通りすがる人達を楽しませている。
高校二年生の彼は、学校から帰ってくると一目散にピアノに向かう。
みゅうは猫であるがずっと奏士に恋していた。
彼が弾くピアノの音色が大好きで音が聞こえると片時も離れず聞き入り「みゅう」と鳴き出す。
「みゅうは本当に歌が上手だな」
クスクスと笑いながら次々と作り出される煌めく音たちをみゅうと共有する。
時には鍵盤の上で踊るように舞う奏士の指をじっと眺め、そんなみゅうを奏士は恋人のように優しく撫でる。
こんな些細な出来事がみゅうにとって最高に幸せだった。
穏やかで愛されている毎日が永遠と続くと彼女は信じて疑うこともなかったのだ。
近い未来に、まさか自分の命と向き合う事になるまではーー