黄金の一週間
世間ではまっとうな職場ならお休みできるGWがやってきた。
ブラックな職場では連休がとれないそうだがその点うちは……
「お兄ちゃん! 今日は映画! 明日はお墓参りですよ! 休んでる暇なんて無いですからね」
超ブラックだった。
「中学最後のGWですよ! 分かってますか!」
「分かったから、よーく分かったからもうちょいのんびり行こうよ」
「ダメです! 急ぎますよ! 来年の夏にはお兄ちゃん高校生じゃないですか、夏期講習行っちゃうじゃないですか!」
「そりゃ勉強はするよ……というか受験もあるから頑張らないと、桜のためにも、な」
「私のために頑張ってくれるのは確かにうれし……ごまかされませんよ! お兄ちゃん、ちゃんと休日をエンジョイしてもらいますよ」
楽しむのに苦しい、矛盾の見本みたいなことしてるな。
「お前自分が楽しみたいだけだろ」
「そんなことはないですよ、ちゃんとお兄ちゃんが楽しめるようにイベントに配慮してるじゃないですか」
それに、と桜は付け足した。
「お兄ちゃんだって可愛い私と一緒なら楽しいでしょ?」
疑問ではなく確認だった。
こういうこと言えるほど自分の容姿に自信があるってすごいな、とは思うのだが。
自分のことは案外分かっていないと言われているが桜には当てはまらないようだ。
「ああ、かわいいよ」
「ふぇ!?!? ええ、うん! そうだよ!」
俺がそう返すとうろたえてる、もしかして桜は自分のことは分かっていても俺のことは案外分かってないのだろうか。
「じゃあ映画な、行くぞ」
「はいっ!」
俺たちは照りつける太陽光の中自転車を駅まで走らせた。
「そういや電車ってあんまり乗らないな」
「そうですね。自転車がメインでしたからねえ」
「あ! どうするかなあ……」
「どうかしましたか?」
桜の問いに俺は目の前の機械を指さす、そこには券売機があった。
「これがどうかしたんですか?」
「いや、ICカード買った方がいいかなあって思って」
そう、この駅はICカードが使えるのだ。
じゃあ買うかというと最低2千円からで返却時に返金されるデポジットも含まれているので、めったに乗らない電車のために作る必要があるんだろうか?
「買えばいいじゃないですか、コンビニでも使えますよ」
それもそうか……
別に乗車のみに使うわけじゃないもんな、買っとこう。
そうしてカードをタッチして電車に乗り込んだ。
まだ5月とはいえ多少暑いのでプラットフォームから電車に乗ると心地よい冷気が流れてきた。
「お兄ちゃん、生徒手帳はちゃんと持ってますか? 学割はお得ですよ」
「持ってるけど、小学生ならともかく中学生以上はそんな大幅には安くならなくないか?」
「ちりつもですよ。学割なめてると痛い目見ますよ。クソ高いソフトが8割以上安いアカデミック版とかが世の中にはざらにあるんですから」
「学割すげーな」
学割とかスマホ代くらいしか気にしてなかった。
窓の外を景色が流れていく、田舎特有の山の中を走っている。
「それにしても……こうして二人だとこう……禁断のカップルがすべてを捨てて愛の逃避行してる感ありますね、わくわくします」
「ワクワクはしなくないか? そのシチュエーションだと悲壮な覚悟の方が似合いそうだが」
「お兄ちゃんが隣にいるのに悲しいわけないじゃないですか?」
俺さえいればいいのか……健全な考えではないのかもしれないが……正直うれしい、必要とされるのは気分がいいことだ。
人は誰でも自分に価値があると思いたがるものだと思う。
だから例え兄妹でも「必要だ」の一言に頑張れちゃう生き物なんだよな。
我ながらチョロいなあ……変えようとも思わないけどさ。
そうこうしているうちに電車が目的地の駅に着く、ドアが開くと熱気が吹き付けてきた。
駅からバスに乗って映画館に行く。
シネコンは駅から少し離れたところにあるのでバスが必要だ。
ちなみに駅前にも大きめのモールがあるがこちらに映画館はない。
映画館でチケットを買って入場する、見るのはホラー映画だ。
-----上映後
「腕が痛い」
「どうしたんですかお兄ちゃん?」
「お前がずっと腕に抱きついて締めてたからだろうが」
こいつはずっと怖い怖いと言いながら俺の腕に抱きついていた。
デートでホラー映画のお約束的なイベントだが、こいつは上映開始後すぐに抱きついていた。
まだ日常パートなんだが……ここまでで怖いキャラって映画泥棒くらいしかいないんですけど……
抱きつくのはまあいいんだが……露骨に胸を押しつけるのは……うん、堪能しました。
しびれた腕をさすりながら映画館を出る、隣には満足そうな桜がいた。
「今日は充実してましたね! この調子でリア充兄妹目指しますよ!」
この後もいろいろ連れ回されてGW明けの小テストは悲惨な目に遭ったのだった。
余談だが俺と一緒に遊んでいたはずの桜はまったく問題なく小テストをクリアしたらしい……世の中って理不尽だなあ……