あと一年あります
中学に入って三度目の春、俺の妹は泣いていた。
「なんで泣いてんだよ」
「だって来年はお兄ちゃん卒業しちゃうんですよ、せっかく同じ中学に入ったのに……」
ヤンデレだなあ……
はたしてこれは恋心なのだろうか? 独占欲と愛や恋のどこが違うというのだろう?
夢は欲望を言い換えただけとはまったくよく言ったものだな、これもその類いの言い換えじゃないだろうかと思う。
「お兄ちゃん! ちゃんとうちから通える高校に入ってくださいよ!」
「分かったって。できるだけ偏差値高いとこ狙うよ」
「うんうん、あ! でも私たちのこと誰も知らない町で二人きりで暮らすっていうのもいいので半端に遠いとこよりすごく遠いFランにしてくださいね」
桜はそれは名案だみたいなしたり顔をしているがそんな暮らしをさせるわけにはいかない。
俺の頭には自分以外の一人分の将来がかかっているようだ、真面目に頭が重いぞ。
クラス分けの掲示板の前に来る、なぜか桜も一緒だ。
「なんでお前こっちにいんの? 二年のクラス分けはあっちだぞ」
桜はさも当然の権利を主張するかのごとくこう言った。
「お兄ちゃんと同じクラスの女子は全員覚えておきます。あくまでも念のためですがね……」
やだこの子怖い……
その声に邪教崇拝者のごとき禍々しさを感じて俺はびびる。
あれ? でもこの場合その例えだと邪心は俺か!?
うん、妹のことを悪く考えるのは辞めよう……
「じゃあまた一緒に帰ろうね! 下駄箱前で待ってるから!」
1年前ならこの場面を見られてやいのやいの言われたり、関係を詮索されたりしたものだが、そこは一年間毎日クラスに来ていた桜である、誰も気にしてない。
好奇の視線がないことに少し感動しつつ行動で始業式をやる。
そして帰宅しようとしたとき、なぜ桜が「迎えに行くね」ではなく「下駄箱で待ってる」のか理解した。
そう、この中学は学年は階ごとに分かれているが下駄箱は一カ所に集まっている、つまり……
俺は気になるけど上級生なので聞くに聞けないという視線を一身に浴びながら下駄箱を後にした。
そりゃそうか、新入生は俺たちのこと知らないもんな、わかるよ、あんなカップルいたらそういう視線を向けたくなることはさあ……
「はかったな桜」
「さーて、なんのことですか?」
俺の恨み言を何でも無いように受け流されてしまった。
こいつメンタル強すぎだろ、勝てません、はい。
こうして俺は新入生から始業式からイチャつくバカップルという称号をいただいたのだった。