ゆーとぴあ
夏休みというと講習こそあるが楽しみなものだ。
その前日に桜が突然こんなことを言った。
「お兄ちゃん! 夏休みは私以外と出かけないでくださいね!」
「それは無理じゃないか? いろいろ用事もあるし……」
「いーえダメです。入学式の時から私の勘がお兄ちゃんを一人にしてはいけないとささやいているんです。だから夏休みはどこへも行かせませんよ」
「なんでそこまで……」
「『愛故に』ってやつです。私がお兄ちゃんを愛しているんだからお兄ちゃんも私を愛してください」
「愛と束縛は違うと思うぞ」
「なら欲望と呼んでもらっても結構です。とにかく! お兄ちゃんは私のものです、絶対誰にも渡しません」
「いよいよ開き直ったな!」
「そうですとも、私はお兄ちゃんを愛しています、どこに引け目を感じることがあると言うんですか!
誰かを好きになるのに悪いなんてことはないんです!」
なにやら演説が始まってしまった……どこまで真面目なのかわかんなくて困るんだよな……
「そう! 兄妹愛と男女間の愛情に違いなどないのです! つまりこれは純愛と言っても過言ではないでしょう。これこそ次世代のラブストーリーの見本です!
そもそも同じ親から生まれたと言うだけで恋仲になってはいけない理由などあるだろうか? いや、決してそんなことはない!」
「お前は兄妹をなんだと思ってるんだ?」
「それは切れることない永遠の絆、つまりは愛です!」
「それとも……」
「お兄ちゃんは私を愛してないんですか?」
「桜は可愛い妹だと思うよ、それ以上はない」
桜はショックを受けたらしく膝から崩れ落ちる……ちょっとかわいそうだけど一線を越えるよりはずっといい。
すると桜が俺の手を握りしめてこう言った。
「今はそれでも……いつか必ず、お兄ちゃんを私に惚れさせますよ、ええ手段なんて選びません……でも……ほんとはお兄ちゃんが自分から行ってくれる方が理想ですよ?」
上目遣いはずるい……妹を悪い道から遠ざけてるのになんか悪いことしてる気になってくる。
「ま、まあ、兄妹としてなら仲良くできるぞ」
「言いましたからね! これからどんだけやらかしても兄妹の絆だけは切れませんよ! 一蓮托生ですよ!」
さっきまでの様子が嘘のように勢いづいている。
「お兄ちゃん! 約束ですよ」
桜が小さな手を差し伸べる、俺はその指を絡めて言った。
「ああ、やくそくだ」