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ルキフェルの一族  作者: 秋内 宏騎
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勃発3

名将とは明確な目標を持ち、達成すれば執着せず、すぐに離脱するものだ。それは執着すれば無益な損益がでるからである。

兵は無限にわいてこないし、有限なのだ。また、兵士は駒ではない。一人一人、個としての人格を持つ。その個はそれぞれに目的を持ち、軍に従う。ローランドの兵士の大半は軍役として働く農民である。故に、国、ひいては家族のために働きに出ている者が大勢いる。

よって、指揮するにあたり、大義名分が必要となる。家督争い程度で済むなら、兵士たちは従う。家督争いとは他所の家の話であるからだ。知ったことではない馬鹿馬鹿しい話であり、命令がなければ関係ない問題である。

しかし、国を売ることは、家族を捨てることになりかねない。

他国と戦争中にも関わらず、家督争いしているバカに付き合うならまだしも、国を売ることに加担することとは話が別なのだ。

そこをアイバクは理解していなかった。

「私をどうする気だ!」

縄で縛り付けられた、アイバクは前に立つフィルを睨んだ。

「殺しはしない。あなたには働いてもらう」

「何をさせる気だ」

「簡単なことです」

フィルは不敵な笑みを作り、杖で身体を支えながら、膝をおり、アイバクに耳打ちした。

「アザール兄さんに伝えてくれ、この売国奴が、エトルリアに魂を売った武人の恥さらしめ、次出会う時はあなたの最後の時であると。じゃあ任せたから」

私はすっきりした笑顔でこの場を立ち去ろうとした。アイバクはそれを呼び止めた。

「おい! 縄解け!」

「え、何故でしょうか?」

私は白々しく、疑問符を作り、アイバクを挑発した。

「この状態では伝えに行けないではないか!」

私は故意にため息をつき、アイバクを諭すようにその理由を述べた。

「何わがままを言っているのか。命は助ける。後は自力でなんとかしてくれ。いいかい。私はあなたの命に興味はないし、取るつもりもないが、自由を保障するのも面倒になりそうだから、こうしているのだ。あなたも武人なら敵にお願いするよりも自力でなんとかしなさい」

「この役立たずのボンボンが!」

悪態をつくアイバクをよそに、私は兵士に指示を出した。

「伝令だ。これより出立し、首都に向かう。まだ間に合うはずだ。王を救い、ローランドの再起を図る。エトルリア帝国は略奪を平気な顔して働くことで有名だ。追い返すぞ!」

私は杖をつき、右足を庇って、歩きながら、アリアたちの元へいった。

「族長と話がしたい、どこにいるだろうか」

それに対してアリアは、

「さっき来た伝書鳩によると、あなたの話に族長も乗り気みたいよ」

「そうなのか?」

「族長はあたしの兄がやっているんだけれど、兄も隠れ住むのが性に合わないみたいでね、今回の話はすごく魅力的なようよ」

なるほど、保守的な族長だったなら今回の話はなかったことだろう。

「しかし、迫害してきた人間に対して、協力することにきみら自身抵抗はないのか?」

これは私自身の疑念でもある。

兵士たちは彼らが何者か次期に気がつくだろう。さぁどうしたものか。今は私に協力してくれる強い集団くらいにしか考えてないだろうが、青の瞳に気づけばどんな反応になるのか。差別意識とはなかなか根深いからな。

「あなたが人間であるにもかかわらず、私たちに土地を与えてくれるってことは、じゃあ何なんでしょうね」

「ヒューマンエラーだ」

とにかく、王族を発見すること、そして後ろ盾を得ること。ルキフェルの存在を王権によって認めさせること。

全てはそれからだ。

私は堕天使に魂を売り、精霊を敵に回しているのかもしれない。国を売るよりも人道とやらに反しているかもしれない。

しかし、何故だろうか。面白いのだ。

精霊を是としたこの世界が相手になるかもしれない。なんと強大な相手か。

打ち間違えないように、慎重に事を運ぼう。まずは、基礎から。

「兄はいまローランドの王族の消息を探してるみたい。そのために首都アレクブルクにいるって」

「よく気づかれないな」

「田舎町だと、私たちは目立つし、気づかれたら、石を投げられることもあるけど、都会は色んな人がいるから、案外気づかれないものよ、東方の国には赤い瞳の人たちもいるらしいからさ」

「木を隠すには森という発想か」

「そうそう。だから目にもこれ、入れてるの」

アリアが懐から取り出したのは、小さな色のついた丸いガラスであった。

「これを目に入れて、瞳の色をごまかすの」

「レンズというやつか、初めてみた」

「単価は高いから一族みんなは持ってないけど、人に紛れる時には便利ね。ただずっと目に入れてると目が痛くなるから、1日中はつけてられない」

「なるほど、なかなかストレスがたまりそうだな」

ルキフェル族の長年にわたる工夫。その道程にはいかほどの苦労があったのか。私の貧弱な想像力では推し量り切れない。

「まぁ今回の事で、私たちに安住の地ができたら、そのストレスともおさらばね」

アリアの言い様に少し心が軽くなった私は、覚悟を決めた。

国が相手だ。グラデルの家督争いなど陳腐な問題に思えた。長兄を助けようとも考えたのだが、長兄を救っても何も家の事情や私の評価は変わらないだろう。長兄の裏で知恵を使っても、長兄の武勇に皆目を奪われる。ならば、私は単独で行動し、国を救うように見せる方がアピールできる。

私は様々な打算をめぐらし、ルキフェルを利用している。罪悪感もあるが、これはお互いの利益のために行なっている。

私はまだまだ策士の器量ではなさそうだ。


こうして、フィル率いるローランド兵800人とルキフェル族の共闘が始まった。

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