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ルキフェルの一族  作者: 秋内 宏騎
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勃発2

アイバクは焦っていた。

一度祖国を裏切った以上、成功しなければ逆賊として死が待つのみだったからである。

死にたくはない、だからこそ、フィル=グラデルを見つけ、首を取るため、アイバクは兵士たちに付近の森林に入らせ、くまなく探していた。アイバクはフィルの副司令官として従軍していた。今回のアザールの反乱に加担した一人として、彼は任務を遂行させねばならなかった。

しかし、森林に入ってからアイバクは違和感を感じ始めていた。

「なぁ、なんだか人数が減ったと思わないか?」

ある兵士がそう言った。最初1000人近く仲間がいた。だが、本当に今1000人いるのか?

「おかしい」

フィルは負傷し戦える状態ではないことは、兵士たちの報告で聞いていた。しかし、森に突入してからというもの、兵士たちの数が減っている。抵抗受けているのか? それならばフィルが抵抗できていることになる。負傷し、動けないはずなのに。もしくは我々の中から離反者が出て、フィルを庇っている可能性もある。

アイバクは思考を巡らしたが、答えは出なかった。

「あまり散らばるな、固まって動け、攻撃されている可能性がある」

彼は兵士たちに伝令したが、それが、混乱の始まりとなった。

「敵襲!」

誰かが叫んだ。

「何!?どこからだ!」

周囲がざわめきどよめいた。

「何を言っている! 敵はこっちから来ているぞ」

今度は違う方向から誰かが叫んだ。

「罠か、惑わされるな! 固まれ! 円陣隊形!襲撃に備えよ!」

アイバクもバカではない。これは敵の罠であると瞬時に判断した。しかし、敵は誰だ。言い知れない悪い予感にアイバクは包まれた。見えない敵を相手に、アイバクは心理戦を仕掛けられていた。

すると後方より、陣が完成する前に石が複数、断続的に投げられてきた。

「後方より投石!!」

兵士の報告にアイバクは

「こしゃくな! 矢を構えよ、後方に一斉斉射、誰かは知らぬが追い返せ!」

アイバクの指示に兵士達は弓を構え、矢を斉射した。

投石が止まり、静寂が訪れた。

「やったか」

しかし、手応えを感じない。何故だ。

焦りが募り、兵士たちを不気味な不安感が支配した時、それは起こった。

「かかれ!」

それはアイバクたちが振り向いた方向とは逆方向からの号令だった。

「何、どこの軍だ!」

軍ではなかった。数人の敵が突撃を仕掛けてきている。

「たった数人で何ができるか! 射よ!」

しかし、もう崩壊は始まっていた。

「後方より投石!!」

そう伝令が届いた。

「何!? 」

止んだはずの攻撃に困惑するアイバクにまたも一報が届く。

「左翼より敵襲!」

「くそ! どうなっている!?」

事態を把握しきれない。

そして、左翼に襲撃をかけてきた者達も数人程度であった。しかも、

「なんだこいつら! 矢が当たらない!」

彼らが射る矢はことごとく、敵の得物に落とされ一つも当たらないのだ。

「ぐあ!」

「ぎゃあ!」

左翼の襲撃者達に、次々と兵が倒れていく。

「なんだこいつら!」

兵士たちは動揺した。彼らは数人なのに誰一人として勝てないどころか、押されている。

後方より止まぬ投石を防ぎつつ、左翼、前方からの襲撃に兵士たちは囲まれるような陣形になり、彼は右方向へ次第に移動していった。しかし、

「これ以上下がるな崖だ!」

兵士の一人が気付いて叫んだのだが遅かった。

「うああぁ!!」

「助けて!!」

数人、足を踏み外し崖から落ちてしまった。かなりの高さである、助からないかもしれない。何者ともわからぬ襲撃者と崖に挟まれ、完全に兵士たちは恐怖し、戦意を失っていた。

すると、

「投降せよ。命までは奪わぬ」

それは見知った者の声が響いた。

「私を裏切ったことを許そう兵士たちよ。今なら命は助けよう。しかし、従えぬならこの場で死を選ぶがよい」

その声の主に兵士たちは気付いた。

「フィル様の声だ」

その声は続く。

「助かりたい者は首謀者を捕らえよ。その者は敵国に国を売った者の一人だ。祖国の兵士たちよ、売国奴を捕らえよ。首都が陥落した今、貴公らの助けが必要である」

「何! 首都が落ちた!」

「どういうことだ!」

兵士たちはただ命令に従っていただけなのだ。家督争いで、不要の将と呼ばれたフィルを殺すことだけしか彼らは知らなかった。

「我が兵士たちよ。今なら挽回できるぞ。共に家族を守るのだ! 先ずは裏切り者を捕らえよ!」

兵士たちはその言葉に突き動かされるかのように、アイバクを取り囲んだ。

「何をする! 敵はやつではないか!」

アイバクは兵士を説得しようにも、兵士たちは止まらなかった。

「黙れ! 敵国に国を売りやがって!」

「俺たちには家族がいるんだ!」

「この売国奴め!」

兵士たちが職業軍人であるならば、この方法は通じたかはわからない。だが、この兵士たちは農民である。軍役として兵士をやっているだけであり、家族のために働いている者ばかり。そのため、祖国を裏切るまではできないのだ。

こうしてアイバクは捕縛された。

「本当に詐欺師みたいな人ね」

私にアリアは人の悪い笑みを浮かべ、人聞きの悪いことを言う。

「何を言うか、事実しか伝えていない」

私にとっては国などどうでもいいことかもしれなかった。

しかし結果的には救うことになる。それは間違いない。

ルキフェルの総意がどうなるかはわからないが、とにかく兵を得た。

ここからだ。そう思えた。

そして、自分の感情の変化に私は驚いた。

変だな、少しワクワクしていた。

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