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ルキフェルの一族  作者: 秋内 宏騎
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勃発1


事実は小説より奇なりという言葉がある。私が知った事実とはまさにそれであろう。

「グラデルの家督争いさ、次男のアザール様が長男アドリュート様を打倒するため、軍師役に抜擢されるであろうフィル様、あなたを先に暗殺すること。それが我々の目的でした」

アリアが捕らえた兵士はそう自白した。

全くもって、甚だ検討すらしなかった可能性である。

「何故だ、次兄が私を相手にするはずがない。いない者として扱われてきた私を暗殺する必要などないのではないか?」

「あなたはわかっていないようだ。グラデル家は武には特化しているが、知略に富む者は少ない。知略に精通しているのは、アザール様かあなたでしょう。あなたとアドリュート様が組むと、アザール様にとっては厄介な相手となります」

長兄アドリュートは武芸においてはグラデルのトップ。父より次期当主の座は約束されていた。次兄のアザールは長兄の武勇に及ばないが、知略を以って、長兄を圧倒していた。

なるほど、その図式ならわかる。わかるのだが、

「長兄と次兄は憎み合ってはいなかった。むしろお互いの欠点を補い合い合っていたぞ。今回この様な形でローランドに仇をなす形になったのは何故だ」

納得できなかった。

「そこまでは我々も聞かされていない。後は、この一件は敵軍の襲撃により、あなたが戦死したという形で終わることぐらいです」

兵士はここまでペラペラと喋ってくれた。

本当かどうかはともかく、辻褄は合う。

「あなた、自分が思っているよりも周りは高く評価していたみたいね」

アリアの言う通り、自己評価が低すぎたため見えなかった解答である。

しかし、

「次兄は失敗した時のリスクは考えなかったのか? 私が生還した場合、この一件は明るみでるぞ」

そうなれば、この計画はローランド全体から潰されるであろう。

不可解に思ったその時、

終わりの始まりが告げられた。

「おい、大変だ! 」

騒々しく、慌てた様子で、アリアの前にルキフェル族の者が1人、我々のところに駆け寄ってきた。

「仲間からの伝書鳩だ。首都が、ローランド王国の首都アレクブルク、陥落!」

驚愕した。一瞬、何を言われたのかわからなかった。

「まさか!! ローランドの親衛軍はどうしたんのだ!?」

「どの軍隊にやられたんだ!?」

「クーデターでも起こったのか?」

ルキフェルの者達にとっても衝撃だったようだ。口々に驚きの声を漏らしている。

「まだ、手紙には続きがある。エルトリア帝国軍、北方の山岳地帯より領内に侵入とのこと、抜け道を発見されたのか、何者かが手引きした模様、誰だ、手引きしたのは」

私は手引きした人間に心当たりがあった。

まさかと思った、そんなことをするわけがないと。武の誉れ高い名家の出が国を裏切るのか、次兄よ。あなたは誇りにしていたのではなかったのか。

「これは、内乱どころか、存続すら危ういのではないか、ローランドは」

アリアの指摘は的を得ていた。このクーデターとエトルリアの進行が呼応したもので、綿密に計画されたものなら、このままではローランドは沈む。

「あなたはどうするの?」

アリアは尋ねた。

「このまま放っておくか、それともローランドの危機を救うのか。私たちには関係ないことではあるけれど、助けた以上あなたをこのままにはできないし、目的地があるなら送るからさ」

今後の方針について、アリアは私の胸の内を聞いた。

「どうせこの足だ、私1人が何かをしても無駄だ。このまま放置せざるを得ない。しかし、、、君たちこそ、情報を集めているようだが、何の目的なんだ?」

「私たちは昔から迫害されてきたからね、軍が来るとか、敵が攻めてきたとか、情報はいち早く掴んで、対処しないといけないのよ」

「今回はどうするのだ?」

「まぁ、逃げることになるだろうね。エトルリアはローランド以上に私たちのことを嫌っているから、見つかったら石を投げられるとかじゃすまない。とにかく、長の判断がくだらないことには身動きが取れないけれど」

「なるほど、、、」

石を投げられることが普通のことのように話すアリアに、私は親近感を覚えていた。

私自身、家から迫害されて来た身だから。

「逃げるにしてもあてはあるのか?」

「ないね、そこでだ。あなた、何か知恵はないの?」

私は怪訝な顔をしたことだろう。顔をしかめていた。

「急になんだ?」

「あなたなら、この部族を率いていたら、どうしてた?」

「どうしていたか、、、」

私は少しの間押し黙り、頭をめぐらし、そして、一つ思いついたことを口にした。

「いい土地を見つけて独立する」

「「!!??」」

私の言葉に、ルキフェルの一族たちは皆、言葉を失った。

「何故そんなことを?」

アリアは私の解答の意図を聞いた。

「ローランドはまだ首都が陥落しただけであり、王族の生死も定かではない。もし一族の誰かが生きていた場合、命を助けてやる。これを機にローランド王家に恩を売ってはどうか? そして安住の地を見つけて、定住する。しかし、ローランドに約束を反故にされないよーに、常に弱味を握る必要がある。ローランドを守りつつ、ゆすり、たかり、ローランドから一部土地を奪う」

ついでにエトルリアの領土も取れたら尚よし。

「そんなに簡単に上手く行くの?」

「やってみねばな」

「というか、あなたはいいの? そんなことして、ローランドの人なんでしょ?」

「何を言っている。俺はローランドを助ける話をしたつもりだが? 助ける上に、戦うために必要な土地を借りるだけだ」

「詐欺師ね」

「面白い!」

不意に会話に入ってきた人物がいた。

「ルキフェル族は今まで隠れるだけだったからな。君の発想はなかったんだよ。それやろう!」

足を治療してくれた、イーブはすごくこの案に乗り気だった。

「何にせよ、ここから脱出しないと始まらないわね。敵がけっこう残ってるから、蹴散らすよ」

「そうですね。そして、族長と合流して、今の話を聞いてもらいましょうか」

アリアとイーブは仲間たちに出立を促した。

こうして、ルキフェル族とフィルとの共闘が始まった。

そしてこれは内乱勃発の序章に過ぎなかった。

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