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ルキフェルの一族  作者: 秋内 宏騎
3/6

逃亡3


軍が瓦解した。

思わぬ襲撃に、横腹をつかれた形で騎馬軍団は統率を失い、軍は混乱に支配され、

「左翼の隊が裏切ったぞ!」

「いや、右翼の部隊だ!」

「何をいっている! 前方から敵襲だ!」

指示系統の混乱はまさしく軍の崩壊。

私の軍に何があったのか。

後でわかったことであるが、事実は左翼部隊が裏切り、軍中枢に一斉斉射した結果、右翼

部隊にも命中し、右翼は中央部隊の攻撃と勘違いし、中央部隊は挟撃された状態となったのだ。そこを本来の敵国の部隊が前方より崩壊した軍の留めを刺しに来たという図式である。

私直属の軍ではなく、借り物の軍であったため、統率しきれていなかったことが災いしたと言っていいだろう。右翼部隊の裏切りの段階で軍の崩壊を止めることができたならば、活路を見出すこともできたかもしれない。

しかし、グラデル家の中で迫害されている私の言葉は、指示は、何と脆弱なことか。

兵からの信頼はそもそもなかった。

遥東方の国に伝わる、勝利の条件の1つ、人の和がこの軍には圧倒的に足りなかった。


私がその事実を知ったのは、アリアの仲間たち、ルキフェルの一族たちからの情報でわかったことだった。

ルキフェル族と合流した私とアリアは彼らが野営しているところに連れられた。

そこで私は、右足の治療を施された。医学に精通したイーブ=ルシュードという男があちこちにできた傷の治療を手際よくやってくれた。

しかし、やはり私の右足は元に戻らないようだった。イーブは申し訳なさそうにそのことを告げた。

武の道などとっくに諦めていたが、完全に武の道が閉ざされた瞬間でもあった。

縁がないものはないのである。

私がうつむいて、落ち込んでいるように見えたからか、アリアは私に質問をした?

「あんたは何故追われている?」

「知らない。敵将だからという理由は考えられるが、私は君に発見されるまで、執拗に追われていた。そこまで追う必要が敵国にあったのかはわからない」

「追っ手の目的はわからないか。なら、、、捕まえた方が手っ取り早い」

アリアはそう言うと、自分の得物を取り、野営地を抜け出した。

焚き火を囲み、休んでいる彼らを横目に、私は自国について考えていた。

私がいなくなっても、あの国はあの家は困らないということ。今回何故私が出陣することになったのか。

グラデル家が所属するローランド王国は敵国エルトリア帝国と戦争中だった。

きっかけはローランド王国の王位継承問題であった。エトルリア皇帝であるテオドラスの妃はローランドの先王アルフレッドの妹で、現ローランド王エドワードにとっては叔母にあたる。エドワードが結婚し、子を成せばよかったのだが、エドワードは誰とも結婚しなかったため、世継ぎが決まらなかった。そこでエドワードは後継に、先王アルフレッドの外戚の家にあたるカールを養子に迎え、王太子とし、王位継承者とした。

それに異議を唱えたのが、テオドラスであった。

王位はアルフレッドの血を継ぐ者でなければならない。カールはアルフレッドの血を引いていない。よって、アルフレッド王の妹君と結婚したテオドラスがローランドを守護しようと言い出したのだ。

そうして、ローランド王国とエトルリア帝国との戦争が始まったのだ。

この開戦により、武の誉れ高いグラデル家は重宝され、前線には必ずいたが。フィルには陣頭に立つようにというお声はかからず、相変わらず無視されていたのだ。

ところが、グラデルの人間が全て出払っている中、事件が起きた。

エトルリア帝国の境界線付近に領地を持って

いた、フリードリヒ辺境伯が無謀を起こし、エトルリアと呼応する動きを見せているとのことだった。

グラデルの人間はエトルリアとの戦の前線に出ているため、身動きが取れない。そこで白羽の矢が立ったのがフィルだった。

そうして、中央政府より部隊を預かり出陣

したのだが。

こうして考えると仕組まれていたのではないかとも思えてきた。

グラデルの名声を妬む者は多い。私に失敗させ、グラデル家の顔に泥を塗りたかったということも考えられる。

しかし、敵と戦っている最中に自勢力を弱体化させる必要があったのか。

不可解なことが多すぎるのだ。

誰が得をするのか、見えないからだ。

敵国である可能性は大きいが、私を執拗に探していたことが不可解なのだ。名声もなく地位もない私を捕らえても意味はない。人質

としての価値もないのだ。身代金を要求しても兄弟たちは私を役立たずだの、恥知らずだの言うであろう。そして見捨てる。


「そんなところで考えても仕方がないよ」

不意に思考を止められて、止めた主に視線を移した。

そこにはアリアと縄で縛られ身動きの取れない兵士がいた。兵士は歯ぎしりをし、悔しさと恐怖で顔を歪めていた。兵装は我が軍のものだった。

「そいつは我が軍の者ではないか、一体どうして?」

「こいつらはあんた探していた。殺すつもりでね。理由も聞いてあるよ、ほらいいな、あんたの口から、さもなければ、仲間と同じところに送ってあげるよ」

何があったのか、アリアが何を彼らにしたのか。恐ろしさを感じた。

アリアは槍を兵士の首に突きつけ、脅す。

そして、兵士は真実を語る。


その真実とは、フィルにとって思いも寄らぬものであった。

そしてこれより、ローランド王国は、内乱により滅亡する狼煙が上がった。


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