いつもの放課後……?
最後の授業が終わり、帰りのHRも終える。
今週は掃除当番でないため、帰宅部である俺は颯爽と教室を出る。
学校を出る頃には、顔がニヤケ始めていた。あぁ、早くあの子犬や他の子たちを愛でたい。
いつも通っているペットショップでは、自分以外のうちの生徒をよく見かける。そのため、向かう途中の道中で見かけることもあるが、今日は全く見かけない。自分が早すぎたのかと思うが、少し嫌な予感がする。
それは見事に当たった。例のペットショップのドアにかけられたプレートに書いてある「本日休店」の文字。
肩を落としながらその場から離れる。どうしよう。今日はこのまま、あの可愛い子たちに癒されるはずだったのに。
このまま家に直帰しようか悩むところ。そういえば、春侑に買い物を誘われて断ったんだっけ。まだ間に合うかなあと思いながら、鞄から携帯を取り出そうとして、一緒に出てきた教科書を地面に落としてしまう。
「おっと。……ん?」
しゃがんで教科書を拾い上げ、顔を上げると、「ペットショップ開店」と書いてあるチラシが電柱に貼られているのを発見する。
駆け足でその電柱の傍に行き、チラシを見る。どうやら本日開店したらしく、矢印が指す先、ここから入れる裏道にあるらしい。
「行かなくちゃ」
開店して間もないということ、子供がいっぱいいるに違いない。胸を躍らせながら、裏道に入っていく。
裏道の少し進んだ先に、それはあった。しかし、それは決して新設とは思えないもので、所々にサビが付いているガレージの中に作ったようなものだった。
じめじめとした、外界とは断っているかのような暗さの中に入っていく。すると、そこには一つのケージがあった。
「これは……」
しゃがみ込んで中を覗く。そこには、とても綺麗な白い毛を持ったウサギが一羽いた。
「いらっしゃい」
「えっ!? あ、あぁ、どうも」
先程まで気づかなかったが、椅子に腰をかけている浮浪人のような風貌の男性が、店の片隅にいた。
さらに周りを見渡すが、ケージはこれ一つで、ガラリとしている。本当にここはペットショップなのだろうか。
「どうだ。そいつを飼う気があるのか」
例の男性が話しかけてきた。この男性は、ここの店員なのだろうか。
「いいえ、俺は飼う気は……」
「抱いてみるか?」
「是非!」
男はのそりと椅子から立つ。今まで座っていて分からなかったが、百九十ほどあるくらいの高身長だった。すこしギョッとしてしまった。
男はガレージを開け、少し乱暴にウサギを掴み、俺の前に差し出してくる。優しく抱き上げると、ウサギは俺の胸のあたりに鼻をつんつんとくっつけてきた。とても可愛らしい。
ゆっくりと毛を撫でると、指に絡むことなくスーッといった。だが、指には少し汚れが付いた。改めて、この店の環境に不満を抱く。
首輪がつけられており、それは決してオシャレとは言えないものだった。
「どうだ。気に入ったか」
再び椅子に座った男が聞いてくる。それが店員の態度なのだろうかと思いながら、抱いたままのウサギの感想を言おうと口を開ける。
「そうか、それじゃあ頼むぞ」
「……へ?」
まだ何も言っていない。しかし、男はそう言って立ち上がり、俺の背中を押して店から出す。
「ち、ちょっと、何なんですか!? ていうか俺、まだウサギを抱いたまま――え?」
店を出たところで後ろを振り向くと、今まで自分がいたはずの店がなくなっていた。サビ臭いガレージにシャッターが閉まっている。シャッターが閉まるような音など一切しなかったはず。
「えっ……どうなってんだよ、これ。どうすんだよ、これ!」
例のウサギを抱いたまま、俺は吠えた。