オシャレ
翌朝、起きると、携帯に『起きたら連絡ちょうだい』というメールが春侑から来ていたため、返信してやると数分後にドアホンが鳴った。出ると、小さい靴と紙袋を手に持った春侑がいた。
「はよーっす! うわ、すごい寝癖だね。はい、これっ。昔、私が来ていた服だよ。つきちゃんに着せてあげてっ」
「おぉ、ありがとう」
今、卯月は俺のシャツと下着一枚というなんとも危険な姿をしている。まあ、幸い卯月は年少者の姿なので、あれといった危険が俺を襲うことはなかった。
受け取った紙袋の中身を取り出す。よく見かけるようなデザインのシャツと、スカート、それとソックスが入っていた。
「ち、ちょっと。あんまり見ないでよ……」
顔を赤くして身をよじらせる春侑。昔着ていたものを見られるのは恥ずかしいものなのか。少し悪戯してみたくなる。
「昨日借りたスカートを見たときも思ったんだが、リス公がスカートを思っているなんて意外だな。しかもすごい可愛らしいやつ」
今の春侑の姿は完全に私服で、下はデニムパンツだというやつだ。
「な、なによ。私には似合わないって言いたいの!?」
「いや、似合うとお思うぞ。ただ、いつも元気なリス公がスカートみたいな可愛らしいものを着ているって、なんかギャップがあっていいなって」
「なっ……あぁ、うぅ……リス公って、言うなぁ……」
「今頃かよ」
顔を更に赤くしてしおらしくなる春侑。いつもと全く違う春侑の姿見れて、何故か胸が踊る。
「……良辻さん。なにをしているんですか?」
気づけば近くに卯月が来ていた。光のない目で、俺を見つめてくる。どうしたことだと春侑を見ると、春侑は卯月を見て口を震わせている。
「な、なんて格好しているの、つきちゃん!? いっちゃん! どういうこと?」
「え、いや……卯月! これ、服を借りたから、これに着替えてくれ! いますぐに!」
「……良辻さんがそう言うなら、分かりました」
卯月は服が入った紙袋を俺から受け取り、トテトテと奥に戻り、途中で立ち止まって振り返る。
「良辻さん……もしよろしければ、着替えるの手伝ってくれませんか?」
その瞬間、後ろから鋭い視線を感じた。
「ご、ごめん。一人でやってくれるかな?」
「……はい。わかりました」
少し活気をなくした卯月の背中を見て、ごめんと口の中で呟く。
気づけば、後ろからの鋭い視線は感じなくなっていた。振り返ると、笑顔を浮かべた春侑がいた。俺は苦笑を浮かべた。
洗面所へ行き、顔を洗い、寝癖を直す。春侑と卯月が、一緒にいて恥ずかしくないような格好にする。
洗面所を出ると、着替え終えた卯月が立っていた。歳相応な可愛さがあるいでたちだ。
「可愛いね。よく似合ってるよ」
「そ、そうですか? えへへ……」
照れる卯月の頭を撫でて、横を通る。
その後、俺も着替えて、朝食を済ませ、出かける準備が完了したところで、一旦自室に戻っていた春侑が来た。
「おっ。つきちゃんかわいいー」
「あ、ありがとうございますぅ」
「なあ、リス公。卯月の髪結んでくれないか?」
「いいけど、なににするの?」
「二つ結びでよろしく」
それを聞いて春侑は、はぁと息を吐く。
「どうせ、うさ耳に見立てようっていう魂胆でしょ」
「ど、どうしてそれが……」
「分かるよ、そのくらい。でも、立たせることは不可能だよ?」
「ウサギの耳には垂れ耳というのもあってだな」
「はいはい、わかったわかった。卯月ちゃんはそれでいいの?」
「は、はいっ! 良辻さんが望むなら、わたし構いません!」
春侑は「そっか」と言って、鞄からヘアゴムを取り出した。自分で頼んだのもなんだが、春侑がヘアゴムを持っているとは驚いた。最近の新発見から、春侑は実は女子力高いのではないかと思えてきた。
春侑は部屋に上がり、洗面所に卯月を連れて行き、手馴れた手つきで卯月の髪を櫛でとき、結っていく。そしてものの一分で、卯月の頭に可愛らしい耳ができた。
「ど、どうですか、良辻さん……?」
結ってできた、二つの短い髪の束を手で弄りながら、卯月がそう聞いてきた。俺はもちろん親指を立てて「可愛いよ!」と答える。卯月は顔を赤くして「やった」とその場でぴょんと跳ねる。
「……私も、それにしようかな」
「リス公には似合わねえだろ」
「な、なにをー!」
「そうだな、ポニーテールが似合うんじゃないか? 髪を結うとしたらだが」
「えっ……そ、そうかな」
春侑はおもむろに、自身の髪を器用に後ろで結ぶ。春侑の髪も長いわけじゃないので、短いポニーテールが出来上がる。
「ど、どうかな?」
「うん、似合ってるよ」
「ほ、ほんと!? じ、じゃあ私、今日はこれで行くね!」
満面の笑みでそう言う春侑に、俺は「あぁ」と返す。
そんなやり取りをしていると、また卯月が体を俺に擦り付けるように密着してきた。頭を撫でてやると、その力は和らいでいく。
こうして、いつもとは違った二人と、俺は町へ出かけた。




