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神を飼い始めました  作者: 土車 甫
第三章 ペットのご機嫌
13/22

オシャレ

 翌朝、起きると、携帯に『起きたら連絡ちょうだい』というメールが春侑から来ていたため、返信してやると数分後にドアホンが鳴った。出ると、小さい靴と紙袋を手に持った春侑がいた。


「はよーっす! うわ、すごい寝癖だね。はい、これっ。昔、私が来ていた服だよ。つきちゃんに着せてあげてっ」


「おぉ、ありがとう」


 今、卯月は俺のシャツと下着一枚というなんとも危険な姿をしている。まあ、幸い卯月は年少者の姿なので、あれといった危険が俺を襲うことはなかった。


 受け取った紙袋の中身を取り出す。よく見かけるようなデザインのシャツと、スカート、それとソックスが入っていた。


「ち、ちょっと。あんまり見ないでよ……」


 顔を赤くして身をよじらせる春侑。昔着ていたものを見られるのは恥ずかしいものなのか。少し悪戯してみたくなる。


「昨日借りたスカートを見たときも思ったんだが、リス公がスカートを思っているなんて意外だな。しかもすごい可愛らしいやつ」


 今の春侑の姿は完全に私服で、下はデニムパンツだというやつだ。


「な、なによ。私には似合わないって言いたいの!?」


「いや、似合うとお思うぞ。ただ、いつも元気なリス公がスカートみたいな可愛らしいものを着ているって、なんかギャップがあっていいなって」


「なっ……あぁ、うぅ……リス公って、言うなぁ……」


「今頃かよ」


 顔を更に赤くしてしおらしくなる春侑。いつもと全く違う春侑の姿見れて、何故か胸が踊る。

「……良辻さん。なにをしているんですか?」


 気づけば近くに卯月が来ていた。光のない目で、俺を見つめてくる。どうしたことだと春侑を見ると、春侑は卯月を見て口を震わせている。


「な、なんて格好しているの、つきちゃん!? いっちゃん! どういうこと?」


「え、いや……卯月! これ、服を借りたから、これに着替えてくれ! いますぐに!」


「……良辻さんがそう言うなら、分かりました」


 卯月は服が入った紙袋を俺から受け取り、トテトテと奥に戻り、途中で立ち止まって振り返る。


「良辻さん……もしよろしければ、着替えるの手伝ってくれませんか?」


 その瞬間、後ろから鋭い視線を感じた。


「ご、ごめん。一人でやってくれるかな?」


「……はい。わかりました」


 少し活気をなくした卯月の背中を見て、ごめんと口の中で呟く。


 気づけば、後ろからの鋭い視線は感じなくなっていた。振り返ると、笑顔を浮かべた春侑がいた。俺は苦笑を浮かべた。





 洗面所へ行き、顔を洗い、寝癖を直す。春侑と卯月が、一緒にいて恥ずかしくないような格好にする。


 洗面所を出ると、着替え終えた卯月が立っていた。歳相応な可愛さがあるいでたちだ。


「可愛いね。よく似合ってるよ」


「そ、そうですか? えへへ……」


 照れる卯月の頭を撫でて、横を通る。


 その後、俺も着替えて、朝食を済ませ、出かける準備が完了したところで、一旦自室に戻っていた春侑が来た。


「おっ。つきちゃんかわいいー」


「あ、ありがとうございますぅ」


「なあ、リス公。卯月の髪結んでくれないか?」


「いいけど、なににするの?」


「二つ結びでよろしく」


 それを聞いて春侑は、はぁと息を吐く。


「どうせ、うさ耳に見立てようっていう魂胆でしょ」


「ど、どうしてそれが……」


「分かるよ、そのくらい。でも、立たせることは不可能だよ?」


「ウサギの耳には垂れ耳というのもあってだな」


「はいはい、わかったわかった。卯月ちゃんはそれでいいの?」


「は、はいっ! 良辻さんが望むなら、わたし構いません!」


 春侑は「そっか」と言って、鞄からヘアゴムを取り出した。自分で頼んだのもなんだが、春侑がヘアゴムを持っているとは驚いた。最近の新発見から、春侑は実は女子力高いのではないかと思えてきた。


 春侑は部屋に上がり、洗面所に卯月を連れて行き、手馴れた手つきで卯月の髪を櫛でとき、結っていく。そしてものの一分で、卯月の頭に可愛らしい耳ができた。


「ど、どうですか、良辻さん……?」


 結ってできた、二つの短い髪の束を手で弄りながら、卯月がそう聞いてきた。俺はもちろん親指を立てて「可愛いよ!」と答える。卯月は顔を赤くして「やった」とその場でぴょんと跳ねる。


「……私も、それにしようかな」


「リス公には似合わねえだろ」


「な、なにをー!」


「そうだな、ポニーテールが似合うんじゃないか? 髪を結うとしたらだが」


「えっ……そ、そうかな」


 春侑はおもむろに、自身の髪を器用に後ろで結ぶ。春侑の髪も長いわけじゃないので、短いポニーテールが出来上がる。


「ど、どうかな?」


「うん、似合ってるよ」


「ほ、ほんと!? じ、じゃあ私、今日はこれで行くね!」


 満面の笑みでそう言う春侑に、俺は「あぁ」と返す。


 そんなやり取りをしていると、また卯月が体を俺に擦り付けるように密着してきた。頭を撫でてやると、その力は和らいでいく。


 こうして、いつもとは違った二人と、俺は町へ出かけた。


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