だだ甘
帰り道、やたら卯月が密着してきて歩きにくかった。すれ違う人に不思議そうな目で見られたのが少し苦しかった。
アパートの自室に入ると、卯月は倒れこむように俺に抱きついてきて、そのまま寝息を立てて寝てしまった。色んな人と出会って疲れたのだろう。
寝ている卯月を敷いた布団の上に寝かせ、制服を着替え、卯月が前に来ていた服と一緒に洗濯機へ放り込んだ。
洗濯機に入れる際にズボンから取り出した携帯を開く。するとメールが一通来ていた。春侑からだ。『どういたしまして』という簡素な返事だった。顔文字もない。この軽くやり取りがとれる感じが、俺は好きだ。
布団の隣に座り、卯月の寝顔を覗き込む。気持ちよさそうに寝ている卯月の顔を見ていると、悪戯心が芽生え、写真を撮ってやろうと思った。携帯のカメラアプリを起動させ、画面に卯月の寝顔を映させる。ピントを合わせようと画面をタップしようとした瞬間、卯月の表情が苦悶なものに変わった気がしたが、タップしてしまい、画面はピントを合わせようとボヤけてしまう。ピントが合ったときには、さっきまでと同じ寝顔だった。
携帯が一度だけカシャッと鳴り、可愛い寝顔が俺の携帯に保存される。無性にこの可愛さを自慢したくなり、大神の連絡先を開くが、なんとなくその画面を閉じ、春侑の連絡先を開いて画像を送った。すると、『やっぱりペトコンだー』という返事が返ってきた。
「違うっつうの」
俺はそう呟いて携帯をスリープモードに移行させ、床に置いた。
夕食を終え、卯月に手伝ってもらって後片付けも済ませ、居間でのんびりしていると卯月がふわぁとあくびをした。恥ずかしかったのか、卯月は焦って口を手で抑える。
「眠たいの?」
「は、はい……なんだか、力が出なくて……うぅ」
「じゃあもう寝ようか。っとその前に、風呂に入らないとな。どう? 昨日、春侑と一緒に入って、分かった? 一人では入れそうかな?」
すると卯月は「はいれ……」と口にして固まり、しばらくして顔を赤くして激しくかぶりを振った。
「わからなかった、ですっ。だから、良辻さん、一緒に入ってくれませんか?」
「えっ!?」
眠たいはずの目を輝かせて言ってくる卯月。どうしよう。卯月は今、普通の人間と同じ姿だ。そんな卯月と俺が一緒に入ることが許されるのだろうか。
「わたしは……良辻さんのペット、ですよね?」
その問いを聞いて、俺は卯月と一緒に入ることを決意した。というより、決意させられた。ここで入らないというと、卯月は俺に存在を拒絶されたと思い込んでしまう可能性があったからだ。
「……あぁ、わかった。一緒に入ろう」
「や、やった」
その場でぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ卯月。
まあ、風呂の中で寝てしまったら危険なので、これでいいのかもしれない。仕方のないことだ。俺はそう自分に言い聞かせた。




