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(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第六章 完璧な(勘違いと、思い込みが)激しすぎる闘神
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Part.87 神などいる訳がなかろう

 何やってんだ、チェリア…………? すっかりキララと仲良くなったのか、心なしかキララも表情が柔らかい気がする。


 スケゾーも、俺の知らない間にチェリア側に付いていた。


「キャラクター、と?」


「はいっ…………実はぼ…………私、最近影が薄いなあ、と感じる事が多々ありまして…………」


 誰に何の相談してんの!? やめてくれよ、チェリアがキララみたいな性格になったら泣くぞ、俺。


 いや…………それにしても。今、チェリアは自分の事を『私』と言い直した。恐らくそれは、自分の性別を偽る為なんだろう。キララはまず間違いなく、チェリアの性別を誤解しているからな。そこを敢えて、女だと主張しているのかもしれない。


 それは何故か。…………この様子だと、やっぱり俺の予感は当たっているんじゃないか? 女湯しかない風呂場、「男が大嫌いだ」と主張するキララ。このギルドには、もしかして本当に――――…………。


「いや、妾の気品は、天性のものであるからな。人が真似する事は難しいであろう」


「そうなんですか…………残念です」


「強いて言うなら、良い子にしていなければならぬ」


 俺は、天井を思い切り叩きそうになった。ヴィティアが咄嗟に気付いて、俺の背中を撫で摩る。


「落ち着いて、グレン。ねっ?」


「お、おおう…………」


 誰が良い子なんだ、誰が。終いにゃ怒るぞ、俺も。


 しかし、チェリアは一体何を考えているんだ? この会話を聞く限りでは、キララとの仲を育んでいたように思えるが…………俺が居ない状況で、そんな事をして何か意味があるのか? いや、要はアイテムを譲ってくれれば良いんだから、意味はあるのか。


 いや、待てよ。その方向だと俺が女の姿のまま、元に戻れないという問題が残るんだが。…………おーい。


「ところで、『夜の顔』というアイテムは、城のどこにあるんですか?」


 おっと。チェリアが急に、確信を突いた質問を投げ掛けたぞ。


 ヴィティアと俺は、下の会話に神経を集中させる。…………これさえ聞く事ができれば、仮にチェリアが譲渡作戦に失敗したとしても、俺達の方で盗んで逃げる、という手が発生する事になる。ここは慎重にいくんだ、チェリア。慎重に…………!!


「あれは、妾達が認めた者でなければ、見る事さえ叶わない。…………悪いが、今のそなたには教えられぬな」


「ええ、キララさんと私の仲じゃないですか。そう言わずに、教えて頂けませんか?」


 おお、チェリアの『下手に出る』作戦は、少し効果を発揮しているように見えるぞ。キララは少し嬉しそうにして、表情を緩めている。


 そうか、全く気付かなかったが…………もしかして、キララ・バルブレアも寂しい女なのかもしれないな。あの様子では、ギルドの中にも心を許せる人間が居ないのかもしれない。モーレンにも、命令してばかりだったし。


 チェリアのように、人当たりの良い人間が現れれば、少しは仲良くやれるのかもしれないな。


「ねっ、キララさん!!」


「断る」


「えーっ…………」


 …………と、一筋縄では行かないようだな。チェリアは少しばかり、ショックを受けているようだ。


「親愛なる空の国の友人達のため、妾はいつ何時も警戒していなければならないのだ。…………これは、少し仲良くしたからどう、という話ではない。妾には血縁が居ないが、仮に居たとしても余程の事がなければ、教える事は無いであろう」


 ふむ。


 キララは、スカイガーデンの人達との関係を大事にしているようだな。やっぱり、互いに認め合った、という歴史が何か、あるのだろうか。そうでなければ、地上の人間をスカイガーデンに連れて行く権限なんて、キララが持っている筈が無いもんな。


 いや、しかし…………そうすると、困ったぞ。仮に『夜の顔』を盗んで逃げたとしても、キララに認められていなければ、スカイガーデンに行った所で追い出される可能性もあるんじゃないか。ちょっと見て帰る程度の用ならそれでも良いかもしれないが、俺達の目的はリーシュの奪還だ。少なくとも、宿には泊まれなきゃ困る。


「やっぱり、キララを説得するしか道は無いかもしれないな」


「えーっ、せっかくここまで来たのに…………」


 ヴィティアは残念そうにしていたが。俺は小声で、ヴィティアに言った。


「何言ってんだ、お前が脱走してくれなきゃ、この事情だって分からなかったんだ。感謝してるぜ、ヴィティア」


 そう言うと、ヴィティアは少し照れていた。耳まで真っ赤にして、膝を抱える。


 …………こういう所は、すごく可愛いんだけどな。調子に乗って、変な事をしなければ良いのに。


「あのう、そう言わずに…………少しだけで良いから、見せて頂けませんか?」


 いや、それはちょっと押し過ぎじゃないか…………? チェリア。


 キララの表情が、少しだけ硬くなった。チェリアはあざとい上目遣いを見せていたが、急に変化したキララの態度に表情を戻す。


 そりゃ、そうだろう。『夜の顔』はそう簡単に見せられるアイテムじゃないって、言ったばっかりなんだ。唯でさえあのキララ・バルブレアだ、言葉は慎重に選ばないといけない。


「妾の前でそのような、発情した雌の顔を見せるな。死にたいのか」


 いや、そっち!?


「ご、ごめんなさい!! 少し、甘えてしまいました」


「…………今回は見逃そう。…………チェリアよ、態度には気を付けるべきだ。我々のように女らしくない者は、色香など求めた所で焼け石に水なのだから」


 …………ん?


 なんか今の会話、変じゃなかったか…………? キララの言葉に、どうにも変な違和感を覚えた。


 いや、気のせいだろうか? 俺はヴィティアの表情を盗み見た。真剣な様子で、キララとチェリアの会話に聞き入っている。この場に居る誰も、キララの言葉を意識してはいないようだ。


 これがおかしいと、はっきりとは言えなかったけれど。どうもなんか、引っ掛かるんだよなあ。


「じゃあ、これから少しずつ、信頼を勝ち取って行ければと思います」


「うむ! 妾とて鬼ではない、危険な人物ではないと分かれば問題ないのだ」


 何だか、チェリアとキララの仲は進展しているようだった。


 何と言うか。俺は顔の時点で毛嫌いされてしまったから、何も出来なかったのだが。上手いことやっているな、チェリアも。


 キララは俺には決して見せない笑顔で、チェリアの手を取った。こうして見ると、仲の良い子供のように見えるが。




「汗をかいたのう。チェリアよ、妾と共に汗を流しに参ろう」


「――――――――えっ」




 おお…………!?


 一緒に風呂、だと!? そんな馬鹿な…………チェリアは急に狼狽えている。やっぱり、女だって言ってあるんだ…………!! チェリアめ、考えたな。しかし、この状況では…………!!


「そなた、昨日から水も浴びておらぬではないか。この『ギルド・グランドスネイク』の城で、汚い者は許さぬ」


「あー!! そうですね、そしたらキララさんの後に、入らせて頂きますよ」


「うむ? …………さてはそなた、気付いておらんな?」


「えっ?」


 チェリアのやや詰まったような言葉に、キララは少しにやついた顔で言った。


「この城には、温泉が引いてあるのじゃ」


 裸の付き合いってやつか…………!! やばいぞチェリア、逃げるんだ!!


 この状態で、もしもチェリアが男だなどとバレたらどんな事になるか、俺にも予想が出来るぞ。牢屋行きは必死…………!! ここはどうにか嘘を隠し通して貰わなければ困る!!


 この調子でチェリアがキララと友達になってくれれば、なし崩し的に俺の目的は達成されるかもしれない訳で…………多分チェリアも、それを作戦として考えている筈だ。


「良いではないか、関係を深くするにはこういう事が、何より大事であるぞ。それとも、そなたは妾と共に入るのは嫌か?」


「あー、えっといえ、そのですね、そういう訳では…………」


「では参ろう!!」


「キララさんっ…………!! あの実は私、人前では素肌を見せられない決まり事がありまして…………!!」


 きょとんとして、キララが首を傾げた。滝のように冷汗をかいているチェリアだが、どうにか踏ん張れるか…………!?


「決まり事?」


「あーいえ、あのですね、ぼ…………私の登録している教会では、聖職者は聖水の池で、一人で身体を清めるという風習がありまして、ですね!!」


 俺達と風呂に入っていた時点で完璧な嘘だろうが、上手いぞチェリア…………!! それなら、キララもおいそれとチェリアを誘う事は出来ないはずだ!!


 キララは澄んだ瞳で、チェリアの事を見ている。チェリアはどうにか人差し指をあっちこっちに振りながら、謎のジェスチャーを交えて説明していた。


「…………そうなのか?」


「そうなんです、そうなんですよ!! いや、私も一緒に入りたいのは山々なんですが、『聖職者は常に、神様に見られている』という教えがありまして、ですね!! これは教会の教えなので、私にはどうする事もできなくて、ですね!!」


「神様に見られている?」


「そうなんですよ!! いやー、残念だなー」


 押し切るのか…………!! すごいぞチェリア、咄嗟の思い付きにしては、かなりよくできた作り話だ!! 確かに神の教えという事なら、セントラル大陸に生きている以上、譲歩しなければならない所だろう…………!!


 キララは首を傾げたままで、チェリアに言った。




「妾以外に神など居る訳がなかろう」




 斜め上だァァァァァ――――――――!!




「はっ…………!? …………えぇっ!?」


「よし、これで解決したな。参ろう、チェリアよ」


「い、いやっ!! そういう訳には行かないんですよ本当に!! ご、ごめんなさい!!」


 ついにキララは頬を膨らませて、怒りを露わにした…………!!


「しつこいぞチェリア。そなたは妾と一緒に温泉に入りたくないのかっ!?」


 どう考えてもしつこいのはお前だよ!!


 キララはどうにか、チェリアを風呂に連れて行きたいみたいだが。チェリアは拒む姿勢のままだ、って当たり前なんだけど。随分と強引なキララ、勝手にクローゼットから二人分の着替えを出してチェリアに投げ付ける…………!!


「ほれ!! 主の分じゃ!!」


「こっ、困りますっ!! 聖職者として、私は…………」


「うるさいうるさいっ!! せっかく友達ができそうなのに!! 妾の言う事を聞けえぇぇぇ――――っ!!」


 思いっ切り、ただの子供じゃねえか…………って、やばっ!?


 上に向かって叫んだキララが、通気口の上を覗いた。俺を発見すると、驚愕に顔色を変える!!


「逃げるぞ、ヴィティアッ!!」


「え、ちょっと、グレン――――」


 咄嗟に、通気口を上から踏んでしまった。瞬間、身体の重心が崩れる。


 留め具が外れ掛けていたのか…………!? 外れる通気口の蓋、下にはキララ…………って、この状況はやば過ぎるっ!!


「おわああああああっ――――――――!?」


「のわあぁぁぁぁぁ――――――――!?」


 俺とキララが叫んだのは、殆ど同時だった。


 一瞬、自分がどんな状況下に居るのかが分からなくなる。頭は真っ白になり、その場に埃が舞った。


 …………そして。


「いてて…………悪い、だ、大丈夫か!?」


 避ける事もできず、キララに激突してしまった。通気口の蓋は咄嗟に蹴ったから、そこまで酷い事には――――…………


 …………首筋に、傷?


「んん…………な、何じゃ、もう…………」


 キララが、目を開いた。俺は丁度、倒れたキララの上に乗って、四つん這いになって身体を起こした所だった。


 これでは。…………誰がどう見たって、組み伏せているようにしか見えない。


 さあ、と血の気が引いていく音がするようだった。俺は笑みを浮かべたまま、ただ、キララの表情が驚愕のそれから、羞恥のそれに変化して行く様を、眺めていた。


 俺は黙って、キララの上から離れた。


「ヴィティアさん!? 何で上に!?」


 チェリアから、当然の疑問が飛んだ。


「ご主人!! それはやばいっス!!」


 言われなくても分かっているよ、スケゾー…………!! 俺はすぐに立ち上がり、スケゾーと合流した。遠くから、足音が聞こえて来る。今の物音で、騒ぎを聞き付けたギルドメンバーが集まって来ているんだ…………!!


「ど、どうしよう!? どうしようグレン!!」


「悪い、まさか蓋があんなに脆いなんて思わなかった!! こいつはもう、戦うしかないかもしれないぜ…………!!」


 チェリアとヴィティアと、三人で固まる。扉は勢い良く開き、その向こう側にはモーレンを筆頭とする、『ギルド・グランドスネイク』の連中が武器を持って駆け付けた。


「何事ですか!? キララ様!!」


 キララは茹で蛸のような顔で頭から湯気を出し、何も言えない状態になっているようだった。


 モーレンの鋭い眼差しが、俺に向かう…………!!


「待てっ!! これは事故なんだ!! そう…………計画的事故のようなモノなんだ、落ち着け!!」


 と言いつつ、俺はスケゾーと魔力の共有を始めた。こんな状況では、攻撃されたっておかしくはない…………!! チェリアとヴィティアを、どうにかして護り切らなければ…………!!


 俺は、スケゾーと『十%』の魔力を共有し――――


「あ、ご主人。魔力共有、できねえみたいっス」


「へ…………?」


「身体が女の子だからっスかねえ」


 嘘おぉぉぉぉ――――――――!?


 キララが起き上がった。両の拳を握り締め、目尻には涙まで浮かべて…………俺を睨んでいる。恐ろしい凍て凝るような視線ではなかったが、明らかに怒りの意思の込められた、ある意味最も恐ろしい視線が――――…………




「この痴れ者をっ!! 捕らえろおぉぉぉぉぉ――――――――!!」


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