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(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第六章 完璧な(勘違いと、思い込みが)激しすぎる闘神
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Part.86 脱獄少女!!まじかる☆グレンちゃん

 まさか、失敗したのか。


 俺の予感は、既に全力で嫌な方に振れていた。……しかし、ヴィティアは服を脱いでいない。魔法に失敗した訳では、ない……よなあ?


 ヴィティアは特に何事もなく、俺を見て首を傾げている。


「どうしたの、グレン?」


「いや、開かないんだよ。この扉」


 俺がそう言うと、ヴィティアは俺の所まで歩いて来る。扉のノブを確認して、閉まっている事が分かり、そして…………頷いた。


「うん、ちゃんと閉まってるわね」


「…………うん? いや、そうじゃなくてさ。扉を開けないと外に」


 そのように、俺が言い掛けた瞬間だった。


 視界が反転した。ヴィティアに服を引っ張られたのだと気付いた時には、俺は既に地面に組み伏せられていた。ヴィティアは俺の腰辺りに馬乗りになって、俺の胸を触っている。


 …………な、何が起こった…………!? ロクでもない事になっているのは確かだ。ヴィティアの様子が明らかにおかしい。


「ご、ごめん、グレン。…………私、なんか身体が、あつくて…………」


「お…………おう? ど、どうした…………?」


 ヴィティアの顔は、急に風邪でも引いたかのように熱っぽい。潤んだ瞳が、真っ直ぐに俺を捉えている。


 何だ…………!? ヴィティアが妙にエロい。吐息が顔に掛かると、俺までどきりとさせられてしまう…………!!


 いや俺、今は女なんだけど!?


「落ち着け、ヴィティア。どうしたんだ…………!?」


 いや、待て。冷静に考えるんだ、俺よ。【エレガント・マスターキー】だぞ!? スティールの時は確か、自分にスティールが掛かって、ヴィティアの服が脱げたんだ。


 ってことは…………!! そうか、分かったぞ!!


 ヴィティアが自分の服を引っ張ると、すらりとした鎖骨が見えた。細い身体が、俺に押し付けられる。


「グレン…………もう私、我慢できない…………!!」


 そうだ!! そうに違いない!!


 ヴィティアの心の鍵が――――――――外れたんだアァァァァッ――――――――!!


「まあ待て、ヴィティア!! ほんとマジ待って!! 今そんな事してる場合じゃないから!! っていうか俺、女の身体だから!!」


「わ、私だって分かってるわよ!! でも、止まらないの!! 身体が止められないの!!」


「良いか、何としても止めろ!! いや服を脱ぐな!! この状況で人が来たら色々と人間的にヤバいっ!!」


 ヴィティアは恍惚とした表情で、俺に微笑んだ。


 微笑みがかなり怪しい。ぎらりとした瞳に、荒い息遣い。俺は思わず、喉を鳴らした。


「み、見せ付けちゃうとか…………どう?」


「頼むから正気に戻れえぇぇぇぇぇ――――――――!!」


 瞬間、勢い良く扉が開いた。今の今まで、俺達が開けようとしていた扉…………開くと否応無しに、その姿が視界に飛び込んで来る。ヴィティアは半分服が脱げた状態のままで、後方を振り返った。


 思わず、背筋が凍った。外見としては愛らしいちんちくりんの小娘が、身長からは考えられない程の強烈な威圧感を放ち、俺達を見下していたからだ。


 ――――死ぬ。


 俺は直感的に、そう思っていた。




 *




 ガチャン。


 鍵が閉まる音がして、俺達は再び牢屋の中へと閉じ込められていた。思わず、牢屋の柵に手を掛けて、絶望に浸る俺。


「貴様等は何だ? …………妾を馬鹿にしておるのか?」


「いや、今のはほんと申し訳なかった!! わざとじゃないんだ!! たぶん!!」


 ある意味、わざとに近いような気もしなくもないが。いや、毎度の事だが、俺はただ単に巻き込まれただけだぞ。


 キララ・バルブレアはもはや、家畜を見るような目で俺達を見ていた。牢屋に入れられたんじゃ、もう本当にただの家畜かもしれない。それか奴隷か。


「所構わず発情しおって、愚かな豚共が!! 同性でもお構い無しか!! 屑が!! 死に晒せ!!」


 俺は心に、深刻なダメージを受けた。


「あああ、どちらも女にしてしまえば大丈夫だと思った妾が間抜けだったわ!! モーレン、後でこいつらの罰を何か、考えておけ!! あと、ちゃんと鍵は確認するように!!」


「かしこまりました」


 ヴィティアの暴走があったせいで、牢屋の鍵が開いていた事についてはお咎め無しだったが。……まあ、アレじゃ俺達が開けたとは思うまい。偶然開いていて、そこを出たと考えるのが自然だろう。


 俺はもはや何も言えず、牢屋の柵を握り締め、呆然と立ち尽くしていた。モーレンは後に一人残り、キララが地面をどすんどすん踏み付けて去って行った後、俺達に振り返った。


 モーレンは、頬を赤らめていた。


「…………あの、グレンオード様、ヴィティア様」


「おー」


「そういうのは…………もう少し、人の来ない所でお願いします」


 俺は思わず、目尻に涙を浮かべていた。


 モーレンがその場を離れると、再び静寂が訪れた。ヴィティアは牢屋の隅で膝を抱え、何も言う事が出来ずにいる。


「…………おい、ヴィティア」


「何も言わないで」


「…………また牢屋に戻って来てしまった訳だが」


「私が悪かったからあぁぁぁ!! もう何も言わないでえぇぇぇ!!」


 余程、羞恥心に悶えているようだ。風呂場で『全裸よりも恥ずかしい姿を何度も見られている』と言っていたが、これでまたヴィティアの名前がひとつ、汚れてしまったのではないだろうか。


 あわれ、ヴィティア…………。


 あれ? 牢屋の窓から、光が少しだけ差し込んでいる。…………そうか、ここには時計が無いから、時間の感覚がすっかり無くなっていたけど、もう夜明けが近いんだ。キララが起きたのも、そのせいか。


 皆が寝静まってから風呂を貸してもらったり、そこで倒れたりしていたからな。


 と、いうことは。少なくともまた夜が訪れるまでは、俺達はここから動かない方が良い、という事だろうか。


 俺は牢屋の床に寝転んだ。牢屋と言えど、そこまで汚い訳でもないのは救いだな。


「まあ、少し寝ようぜ。もうすぐ、皆が起きて来る時間だろ。朝食があるのかどうか、分からねえけど…………」


「仕方ないわね。…………こうなったら、正攻法で行くわよ」


 …………なんだって?


 一度は寝転んだ身体を、俺はまた起き上がらせる。ヴィティアは既に手錠まで掛けられて、為す術無さそうな雰囲気だが。


「…………まだ何かやるつもりなのかよ」


 魔力を封じる錠だぞ。そんなものまで、【エレガント・マスターキー】で開けられるって言うのか?


 ヴィティアは両手が繋がった状態のまま、頭の髪留めに手を伸ばす。それを外すと、細い針金を出して髪留めを口に咥え、鍵穴に突っ込んだ。


「いやおい、そんなもんで開く訳――――…………」


 ガチャン、と音がして、ヴィティアの手錠は地に落ちた。


 マジか。


 俺は何も言えず、ヴィティアの様子を眺めていた。まず、髪留めから針金が飛び出す、というのも不思議だが。どうやら、サイドの部分から出せるようになっていたらしい。


 ヴィティアは牢屋の錠を今度は手に取り、同じように鍵穴へと針金を突っ込んだ。…………何がどうなっているんだ。魔法を使っているようにも見えないのに…………。


 錠が外れ、ヴィティアは牢屋の外に出た。


「グレン、そこの通気口から上に出て、キララの部屋を目指そうと思うけど、どう思う?」


「お、おう。…………そんなことできたのか」


 ヴィティアは溜息をついて、首を振った。


「初めから、こうすれば良かったのよね。ほんと、馬鹿みたい」


「ほんとだよ」


「…………少しはフォローとかないの?」


「フォローする要素がないだろ」


「カッコ良く決めたかったのよ!!」


 本当に、こいつは無駄な目立ちたがり根性を発揮しやがって…………。まあ、俺に良い所を見せようとしてくれたんだろう。そう考える事にしよう。


 ヴィティアが俺に、手招きをしている。


「…………なんだよ?」


 ヴィティアの髪飾りから、プラスドライバーが飛び出た。…………何だこれは。十徳ナイフか何かか。


「手が届かないから、肩車してよ」


「えっ」


 唐突だが、ヴィティアはショートデニムパンツ等の、めちゃくちゃ丈の短いズボンが好きだ。奴隷根性か盗賊根性か、スカートは一切履かない。当然、今日も例に漏れず、ヴィティアは生足を露出している。


 俺に、この太腿を肩車しろって言うのか。




 *




「ちょっと、お尻に顔、突っ込まないでよ!!」


「急に止まるからだろ!!」


 部屋の上にある通気口は、四つん這いになってようやく通れる程度の高さしかない。


 身体を伸ばす事ができる箇所も少なく、いい加減に身体がだるくなってきた。ヴィティアの技術のお陰で通気口は元のままのように見えるから、連中が牢屋の様子を見に来た時は、さぞ驚く事だろう。


 今の自分が小柄で良かった、と思う所だ。これが男の身体のままだったら、どこかで身動きが取れなくなっていたかもしれない。


 もうかなりの時間、ヴィティアの尻しか見ていない。外はそろそろ、明るくなっている頃だろうか。


「…………ヴィティア、どうだ? 今俺達、どの辺に居るんだ?」


「もう少し、我慢して。…………立ち上がったら、すぐ右の窪みに隠れるわよ」


 お。どこかを抜けたようで、ヴィティアは立ち上がっていた。空が見える…………空?


「…………なるほど、そういう事か」


 城の外側まで辿り着いてしまったようだ。ヴィティアは反対側の通気口の蓋を、内側から外して外に出た。人ひとり分は歩くことが出来そうな柱があり、割と高さがある。地上には、グランドスネイクのギルドメンバーと思わしき女達が徘徊している。あまり長居をすると、すぐに見付かってしまいそうだ。


 右の窪み…………おお、あれだな。確かに、身を隠す事はできそうだ。


 俺は通気口から出て、右の窪みに走った。向こう側には、既にヴィティアが待っている。


 合流すると、ヴィティアは笑みを浮かべた。


「なんだか、大泥棒みたいね」


 俺は苦笑して、答えた。


「実際、泥棒やるつもりなんだろ。…………今度はヘマするなよ?」


「とにかく、キララ・バルブレアの部屋がどこか、見付けないとね。………この様子だと、まだ連中は気付いてなさそうね」


 モーレンが俺達に気を利かせて、放置してくれているのかもしれない。何にしても、これはチャンスだ。


 でも、仮に盗み出したとしても、チェリアとスケゾーと合流しなければならない、というもう一つの問題があるのだが。今頃、どこに居る事やら。


「入れ」


 …………ん? 今の声は。


 俺とヴィティアは、同時に顔を上に向けた。かなり近い部屋から、声が聞こえた気がする。あの超音波のようなソプラノの声は、絶対に間違えない。キララ・バルブレアだ。


 意外と、標的はすぐに近くに居るようだ。ヴィティアは早速、器用に壁を登って行く。身軽なもんだな…………俺にもできるだろうか。


 手足に魔力を込めているように見える。……そうか、あれで腕力と脚力を強化して、引っ掛けているんだな。一部屋分程度の高さを登ると、すぐ上の通気口を開いて、ヴィティアは中に入った。


 しかし、真似する必要はない。俺はそこまでジャンプして、通気口の入口に手を引っ掛けた。


 そのまま、中へと潜り込む…………お。下の階と違って、こっちは少し高さと広さがあるな。俺が中に入ったのを確認して、ヴィティアは通気口を元通りに戻した。


「サンキュー、ヴィティア。お前にこんなスキルがあったとはな」


「…………まあ、万年下っ端の知恵ってヤツよ」


 そう言いながらも、ヴィティアは少し照れている様子だったが。


「キララさん、先日はどうもありがとうございました。お陰でよく眠れました」


 この声は、チェリア…………? まさか、一足先にキララの部屋に行っているのか…………!?


 俺とヴィティアは互いに頷いて、足音を殺してキララの部屋を探す。下と違って広さがある分、探すのは楽そうだ。


 お、あの通気口。もしかして、あれがキララの部屋じゃないか?


 俺は、通気口を裏から覗いた。


「ぶふっ――――――――!!」


 目の前に、半裸のオヤジが良い顔をしている銅像があった。


 思わず叫びそうになった口を押さえて、俺は速やかに通気口を離れた。


 物置…………か? 何で綺麗な笑顔をしているおっさんの像が、こんな所に。色々なモノがすし詰めになっているのか、何故か顔はこっちを向いていた。


 ゲリラにも程があるだろ…………勘弁してくれよ。


「グレン」


 ヴィティアが小声で、俺の名前を呼ぶ。…………見ると、手招きをしていた。俺はヴィティアの所まですり足で寄って、ヴィティアの見ている通気口から、下の部屋を見る。


 …………あ、こっちか。良かった、あれがキララの部屋じゃなくて。


 チェリアは、既にキララの部屋にいた。招待された、って所か…………? チェリアは俺達とは違う所に居たらしい。チェリアの隣には、スケゾー!!


 ど、どういう状況なんだ、これは…………!?


「それで、話とは何じゃ?」


 キララはチェリアに問い掛ける。すると、チェリアはあどけない笑顔を見せて、キララに言った。


「あの、私…………キララさんみたいな、強いキャラクターが欲しいんです!!」


 本当にどういう状況なんだ!!



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