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Part.49 ハズレ付き…………なのか?

 魔物の群れが現れた。


「へっ?」


 リーシュが目を丸くして、背後を見る。俺は既に走り出していた。連中の攻撃がリーシュに届くよりも早く、俺はリーシュの腰を掴んで、俺の方に引き寄せる。


 その勢いのまま、後方にジャンプした。


 リーシュに襲い掛かったのは、三股の槍。人の作るそれに比べると歪ではあるが、鋭い……攻撃を避けると同時に、対象を確認する。水色の鱗に、二足歩行。血走った瞳…………こいつは、『フィッシュマン』だ。


 海の近くの洞窟や森には、頻繁に登場する魔物だが……数が多い。空中に飛んだ俺目掛けて、水の魔法を撃ち込む。


「せいっ!!」


 中々の速度で撃たれた水の弾丸を、俺は右手で弾き返した。


 ヴィティアとトムディの前に着地する。敵の数は……軽く見て十体は居るだろうか。奥にも居るとしたら、ちょっとまずいな。別れられたら、トムディとヴィティアを護れない。


 リーシュは少し萎えた様子で、項垂れた。耳と尻尾があったら、だらりと垂れ下がっている所だ。……種族は犬かな。


「ご、ごめんなさい。全く気付きませんでした……」


「むしろ天才的なスルースキルだぞ、それは!! 明るいんだから、魔物の姿くらい見えるだろうが!!」


「あの、グレン様が付いて来ているのかと思って…………!!」


「俺はあんなにブサイクな顔をしていない!!」


 思わず、フィッシュマンの顔を否定してしまった俺。……しかしまあ、どの道、中に入っていれば戦っていた所だ。広い場所に来ただけと言うなら、これも悪く無い状況ではあるだろうか。


 拡散する魔法で、追い払うしか無いだろう。炎は効き難いかな……得意札が一つ封じられたような気がして、どうにもやり難い。


 俺達を大きく囲むように、フィッシュマンの群れは広がり出した。


「うわああアァァァァ――――!! 魔物だああアァァァ――――!!」


「ええい、いちいち叫ぶなっ!! 鬱陶しいわ!!」


 トムディが俺の背中に隠れて、泣き喚く。魔物に出会う度にこれじゃ、どうしようもない。


 やはり、戦力になりそうなのはリーシュだけか……!! 拳に炎を纏う。効くのかどうか分からないが、一度はやってみよう。


「とにかく、片付けるぞ!! リーシュ、援護を頼む!!」


「は、はいっ!!」


 俺とリーシュは、敵陣に向かって飛び込む――――――――




「待ちなさい!!」




 声がして、俺とリーシュは振り返った。


 俺達を止めたのは、他でもないヴィティア・ルーズだった。腕を組んで、仁王立ちをしている――……不敵な笑みを称え、佇んでいた。


 …………どうした? 遂に頭でも打ったか?


「何かと思ったら、武器持ちの相手じゃない。……どうやら、あんた達には分が悪いようね」


「いや、まだ戦ってすらいないんだが」


「ここは私に任せて、引きなさい」


 さっきまで援護がどうとか言っていたのに、急に戦う気になったらしい。……俺とリーシュは、ヴィティアの後ろに戻った。そういえばヴィティアって、こういう大仰な物言いをする奴だったな。


 一人、フィッシュマンの大群を前にして、ヴィティアは進んで行く。その気迫にだろうか、フィッシュマンは緊張して、一歩退いたようだ。


 洞窟の奥から吹く風に、ヴィティアのマントがはためいた。…………何だ? 一体、何をする気なんだ…………!!


「スラムに居た頃、盗賊がスラムを襲っていた事があってね。横から見ていた事があったわ。盗賊だって、楽じゃないのよ。来る日も来る日も、強敵から逃げながら盗みを働く毎日。対して裕福でもない連中から、金品を巻き上げて生き延びる苦闘の日々…………」


 何だか知らないが、ヴィティアが過去を語り出した…………!?


「子供心に、私は思ったの。――――やってる事が、地味過ぎる」


「無茶言うな!!」


 ヴィティアの両手が、青白い光に包まれた。足下には、ヴィティア特有の桃色の魔法陣が煌めく。踊るように両手を動かし、ヴィティアは言った。


 いつもより数段凛々しい顔。鋭い瞳が、フィッシュマンを捉える。


「どうせやるなら、もっと堂々と盗めば良いのよ。悪人だと言われても良いじゃない。どうせならコソコソ隠れてないで、極悪人として世に名を残す程の有名人になれば良いじゃない!!」


 あまりに極論過ぎる意見に、周囲の誰もがフリーズしていた。ようやく、前口上を述べ続けるヴィティアが隙だらけだと判断したのか、フィッシュマンの大群がヴィティア目掛けて槍を構える。


 だが、遅い。ヴィティアは既に目を閉じ、呪文を唱えていた。


「――――――――私はもっと、エレガントに生きる」


 座右の銘らしき何かを口にしていただけだった。




「【エレガント】――――【スティール】!!」




 ヴィティアの両手が、胸の前で合わさった。瞬間、青白い光は爆散し、周囲を真っ白に染める。


 思わず、目を閉じてしまった。溢れ出る魔力の量に、身構えてしまう程に――――本来、【スティール】という魔法は相手に悟られてはならない為、限界まで魔力の出力を落とし、相手に近付いて行われるものだ。


 もはや当初の目的を忘れたとしか思えない、驚異的な【スティール】が放たれ、そして。


 俺は、目を開いた。


「覚えておきなさい。私がスラムの盗賊を返り討ちにした、盗賊狩りの盗賊。『まじかる☆ヴィティアたん』こと――――ヴィティア・ルーズよ」


 キャメロンが聞いたら発狂しそうな謎の賊名が口にされ、ヴィティアはニヒルに笑った。


 俺達を囲う、中々な数のフィッシュマンだったが。…………気が付けば、誰も槍を持っていない。ヴィティアが指を鳴らすと、俺達の背後で物が落下して地面に当たる、粗雑な音がした。


 振り返ると、そこには大量の――――――――槍。


「ギャオオオオオオ――――――――!?」


 フィッシュマンが驚いている。すげえな……多人数同時【スティール】って事か……!? 【スティール】自体、かなり難しいスキルだって言うのに。こいつはそれを、昇華させたと言うのか…………!!


 魔力が強すぎて、隠れて撃つ事は限りなく不可能に近いが…………!!


「さあ、そのプニプニな腕で、戦いたいなら戦えば良いんじゃない!? 迎え撃つわ!! この男が!!」


「俺か!?」


 さり気なく、俺が指差される。何故か、肝心の戦闘は俺に丸投げのヴィティアだったが。


 しかし、魔力を扱うという事にかけては、大したコントロールだ。やはり、魔導士養成所でトップの成績を取るだけあるのか。生い立ちが残念なせいで、覚えたスキルも残念になってしまった、という所か……こいつ、魔導士の魔法が使えればちゃんとした戦力になりそうなものなのに。


 ……まあ、魔導士としてやっていた時代も、大振りな魔法を撃つことばっかりで、あまり戦闘について理解しているようには思えなかったが。


「さあ、グレンオード・バーンズキッド!! 後は任せたわ!!」


「いや、もう逃げているが」


 フィッシュマンの群れは武器を失うと、洞窟の奥に逃げて行った。……どうも、数が多いだけで大した魔物では無さそうだな。次に見たら、オーソドックスな雷の魔法で殴っておけば片付く話かもしれない。


 じゃあ、とりあえず右だな。いい加減、何処に行ったか分からないドラゴンを探さなければ。


 ヴィティアが金髪をかき上げて、無い胸を張っていた。


「どう? …………私だって、役に立つでしょ?」


「ああ、驚いたよヴィティア。【スティール】の本来の目的は見失っているが」


「盗賊スキルなら、全部見て覚えたわ。魔導士の魔法は使えないけど、こういう事なら私に任せなさい」


「大したもんだよヴィティア。【スティール】の本来の目的は見失っているが」


「うっさいわね!!」


 本当の事を言ったまでだ、仕方がない。俺は洞窟の奥を指差し、一同を見た。


「まあ、さっさと行こうぜ。こうしてちゃ、いつまでもミッションがクリアできない」


 俺は先頭を切って、歩き出した。




「どうも、これでは終わらせてくれないみたいっスね」




 スケゾーの言葉に、俺は再び、中央の通路を見た。


 確かに、騒がしいな。魔物が走って来る音がする……先程のフィッシュマンか? でも、武器を奪われる事が分かっていて、また同じ事を繰り返すつもりなのか?


 …………まあ、魔物だからな。その知能のレベルも、魔物によって様々だ。もしかしたら、そういう事もあるのかもしれないが。


 再び、フィッシュマンの大群が戻って来た。…………おや? 今度は武器が違うぞ。先程ヴィティアが奪った槍よりも、遥かに精巧な作りの槍だ。見た所、攻撃魔法が掛かっているようにも見える……まさか、さっきまでのは腕試し、だったのか?


「ヴィティア。……どうやら連中、本気を出したみたいだぞ」


「ええっ!? 本気を出したって何!?」


 魔物の中には、相手の実力によって戦い方を変える奴も居ると聞いたが。もしかして、侵入者を追い払う為に戦っているのだろうか。逃げて行く分には、直接的な被害は与えない、と考えているのかもしれない。


 しかし、本気を出させた以上、もはや生かして返してくれる保証も無いんだろうが。


「ヴィティアさん、どうしましょう?」


「ヴィティア、どうするの?」


 リーシュとトムディが、殆ど同時にヴィティアへ疑問を投げ掛けた。


 ……場に、「どうするんだよヴィティア」的な空気が流れた。リーシュもトムディも、ヴィティアを見ている……まあ、戦うしか無いんだろうが。ヴィティアは額に汗を浮かべて、引き攣ったような笑みを浮かべた。


「なっ……なっ、何よ!! 本気を出したからって関係無いわ!! また武器を奪えば同じ事でしょ!?」


 まあ、それはそうなんだが。ヴィティアはマントを翻し、息巻いてフィッシュマンに向かって行く。


 流石に連中も、二度同じ事を繰り返すとは思えないんだが……。俺は、フィッシュマンの群れを見た。


「ギャオオ!! ギャオオオオアア!!」


「ギャオオオオ!?」


 …………見るからに、ビビッている。…………無いのか? 奥の手。また同じ事を繰り返しに来たのだろうか。


 何だ、この茶番は。


「二度も向かって来るなんて、呆れた魚ね…………!! 私の恐ろしさ、じっくりと味わうが良いわ!!」


 再び、ヴィティアの両手が光る。フィッシュマンの群れは、ヴィティアから逃げようとしている。武器を奪われるのが嫌なんだろうが……本当にそれだけか? 幾らなんでも、愚か過ぎるような気がするが……。


 あ、やばい。ヴィティアの無駄な発光が来る。


「【エレガント・スティール】!!」


 俺は目を閉じ、ヴィティアの魔法によって目が眩む事を回避した。


 発光は一瞬だ。俺は再び、目を開ける。ヴィティアの放った【エレガント・スティール】によって、奥から取り出したフィッシュマンの秘密の武器は奪われ、俺達の背後に落ち…………ていない。


 えっ?


「――――――――あっ」


 嫌な呟きを、ヴィティアが漏らした。


 フィッシュマンの装備が奪われていない。俺は思わず、ヴィティアを見た――――そして、驚愕した。


 両手を交差させた不自然なポーズで、ヴィティアは立っていた。…………何故か、一糸纏わぬ姿になって。


「…………ええっ」


 思わず、素直な感想を口にしてしまった。


 何が起きたのか分からない様子で、フィシュマンの群れも目を白黒させている。当のヴィティアは――……完全に、フリーズしていた。


 バサバサと、俺の背後で謎の音がした。


 ……振り返る。


 …………ヴィティアの服が落ちている。


「ああっ……………………!!」




 ――――――――ハズレ付き、なのか!?




「きゃあああああ――――っ!! バカあんたちょっと、見ないで!! 見ないでよぉぉ!!」


「何考えてんのお前!? 何なの!? 自分に【スティール】かけたの!?」


「失敗しただけよ!!」


 失敗すると自分に【スティール】が掛かるスキル…………って、そんなの駄目だろ!!


 慌てて上着を脱ぎ、ヴィティアに被せる俺。下着まで綺麗に【スティール】自爆したヴィティアは、その白い肌を惜しげも無く晒している……目のやり場に困る。


 セントラル・シティでの一件と言い、こいつには何か、裸になる呪いでも掛けられているんじゃなかろうか。


「うるさいわね!! 時々こうなるのよ!! でも、いつもは全部脱げたりしないんだから!!」


「分かってやったなら同罪だ馬鹿!! この痴女が!!」


「痴女って言うなあぁぁぁ!!」


 ヴィティアは羞恥の為か号泣して、俺に抗議していた。………ええいもう、知った事か!! 俺は何も悪くない!!


 フィッシュマンの群れは危険が無いことを察知したのだろう、ヴィティアに向かって走る。俺はその前に立ち…………って、結局これか…………!!


 右の拳に、雷の魔法を。俺にしては珍しく、全身を電気が疾走る。


「大人しくしてろよ、半魚野郎…………!!」


 俺は、フィッシュマンの群れに向かって拳を振るった。


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