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(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第十二章 千の種族と心を通わせる魔物使い(性別不明)
179/234

Part.178 ビジネスの顔とは

8/31(木) 1/2

次の更新は12時です。


 セントラル・シティから、馬車で二時間。昼前には、俺達はノース・ノックドゥに到着していた。行った事が無い街だったから、どの程度の距離かと思っていたが。馬車の中で寝る暇が無い程度には近いらしい。


 馬車を降りると、初めて見る景色に息を呑んだ。


「おお……」


 セントラル・シティの周辺にある国や村というのは、総じて田舎らしさと言うのか、そういった雰囲気が出ていたものだが……これは、一味違うな。


 周囲は賑わっていて、あちこちで露天商が品物を売っている。見た所この国は、商人の交流が盛んなようだ。商人が集まる場所は大抵アクセスが良く、人が沢山住んでいる場所と相場が決まっている……そうか。セントラル・シティよりも、北側のダンジョンに近い場所にあるから……セントラル・シティで捌く程でもないアイテムなんかが安値で出回っているのか。


 品物の流通量が多いって事は、国が品物に掛ける税金も多いって事だ。つまり、国が栄えている証拠。


 これまで特に用事も無かったので、あまり来る事は無かったが。こんな街なら、冒険者にとってもメリットがあるかもしれないな。セントラル・シティからも近いし……適度にここで品物を漁るというのも、良いかもしれない。


「グレン、城へ案内するよ」


 俺はクランに言われるままに、ノース・ノックドゥの敷地へと足を踏み入れた。クランは歩きながら、身振り手振りを使って俺に説明する。


「今日は早速、女王とのコンタクトがあるよ。交流も兼ねて、暫くはギルドの城ではなくて、王族の方で部屋を貸してくれる事になっているから、そのつもりで。夜は会食をして、そこでギルド就任式の打ち合わせもする事になってる」


「あ……ああ、分かった」


「私は会食には付き合わないけど、夕刻までは居るから。何か分からない事があれば、相談して欲しい」


 クランの言葉に、俺は目が覚めるような想いだった。


 セントラル・シティからも近いし、適度にここで品物を漁る? いかんいかん……何を言っているんだ、俺は。


 これからこの国の守り神になるんだぞ、俺達は。セントラル・シティだって、もう拠点にはならない。行方も知れぬ根無し草では無くなるんだ。


 ……どうにも、まだ慣れない。気合いを入れて行かないとな。


「クラン。ノックドゥについて、事前に少し教えてくれないか」


 俺がそう問い掛けると、クランはにこやかな笑顔で答えた。


「勿論、私に分かることであれば何でも」


 この爽やかな笑顔である。……これまで俺が出会ってきた人間には、大体何らかの衝撃的な癖と言うのか、壊滅的な汚点と言うのか、そういうものがあったように思えるが……今の所クランからは、そのような雰囲気をまるで感じない。


 あ、あれか。ルミル・アップルクラインもそうか。ルミル派なんだな、要するに。


 ……ルミル派ってなんだ。


「この国の歴史について、簡単に教えてくれないか? 文化とか、風習とか」


「文化か、そうだな……まあ見ての通り、商人が多い街だよ。この国は古くから『聖女』と呼ばれる地位を持つ王が治めていて、魔力に長けているんだ。国の周囲に結界を張っているから、そこいらの魔物は近付く事もできない。だから、露店をやるには打って付けなんだ。治安も良いしね」


 聖女、か。言葉くらいは、どこかで聞いた事があっただろうか。


 セントラル・シティのように、王を持たない街は特殊だ。今でこそセントラル大陸の中心地になっているが、だからと言ってセントラル・シティみたいな街が多いかと言えばそうではなくて、まだ国の方が圧倒的に多い。人間と魔物が争うようになって、人間同士の戦は減った。だけど、王というのはまだ世界各地に存在していて、それぞれ人を治めるだけの能力を持っていたり、血筋が良かったりする。


 そんな王族の一部に、聖女なんて文化を持つ一族が居たような気がする。


「今ではセントラル・シティができて、少しお株は奪われた雰囲気があるけどね。それでも、ここを拠点にする冒険者や商人は多いよ」


 なるほど……話の流れでここを護ることになりそうだけど、国としては少し特徴がありそうだな。


「『聖女』っていう位だから、昔から女王ばかりなんだよな?」


「そうだよ。ノックドゥで男性が王になったのは、過去に二回だけかな」


「へえ……結構珍しいよな、そういうのは」


「そうだね。でもまあ、女性だから男性の王と何かが違う、という事はないよ。現国王のエドラ・ノックドゥは、もう何十年も国を護って来たベテランでね。最近少し体調をお崩しになられたようで、あまり人前には出て来ないのだけど。それでも、今日は顔を出して頂けるよ」


 クランはそう言うが、俺は女王と話した事なんて無いものだから、どうしても構えてしまう。


 ただでさえ女は苦手なのだ。この様子だと、結構年齢も離れているみたいだし……リーシュの婆さんみたいな奴ではない事を願う。


「……聖女、ねえ。昔、何かの本で読んだよ。歴史の古い王国の中には、宗教的な儀式文化が根強く残ってる事が多い、ってなあ」


「『聖女の儀』だね。……でも、ここのは宗教的な意味とは少し違うかな。この国の王族は結婚してから、その特殊な儀式で男性が女性に魔力を与え続けるんだ。そうすることで、子孫をより優秀で魔力の高い存在にする。男性が早死にするからあまり好まれないけど、ノックドゥでは未だにその風習が続いているみたいだよ」


 俺の後ろを歩くリーシュとヴィティアにも聞こえるように、クランはにこやかに説明した。


 まあでも、良かった。多少のユニークさはあるかもしれないけれど、他の国と政治的に大きく違う部分は無さそうだな。……時々、通貨の単位が違う国なんていうのもあるからな。こういう部分は事前に情報収集しておくべきなのだ。


 歩いていると、不意に俺は気になって、クランに問い掛けた。


「これから会う……エドラ・ノックドゥってのは、どんな人なんだ?」


「とても優しい人だよ。まあちょっと、人見知りするのが問題と言えばそうだけど」


 人見知り? 王女で? ……あまりイメージできないな。王族で人見知りというと、少し人に厳しい、硬い人柄を連想する所だけれども。


 これまでに見てきた限りでは、国王って例外なく厳格な雰囲気だからな。リーシュの父親みたいに人当たりが良くたって政治には厳しいのだから、コミュニケーションが得意じゃなければキララみたいになっても不思議じゃない。


 ……キララみたいな国王は勘弁して欲しいけど。


「ん? グレン、どうしたんだい?」


「いんや、何でも」


 クランに気付かれる程度には、俺は苦い顔をしていたらしい。


 実はスカイガーデンの一件以降、キララ・バルブレアに会いに行っていないのはここだけの秘密だ。……どこかで会ったら、俺は八つ裂きにされるかもしれない。


 ……胃が痛いぜ。


「でも、本当に体調を崩してしまったみたいでね。エドラさんもいい加減歳だからって事で、一線は退いて……そこの娘さんが新・国王になる予定なんだよ。グレンの就任式と同じタイミングで、その人の就任式もやろうって話になってるみたいで」


「そうなのか。その新・国王には会ったことあるのか?」


「いや、実はまだなんだ。だから、そっちについては性格もよく分からない。ごめんね」


 クランは申し訳なさそうに苦笑したが、別にクランが謝ることではない。この丁寧さよ。


 そうか。そうなると、現国王のエドラがどんな人間かと言うより、その娘の方が心配だな。キララみたいな奴じゃないと良いんだが。


 ……キララの事ばかり考えてるな、俺。


 まあいいや。これまでリーシュを始めとして、もう飽きるほど面倒臭い人間とは関わって来ているんだ。今更キララの二号や三号ごときで狼狽えている場合じゃない。


 自分で考えておいてアレだが、キララが三人ってやばいな……。世界が滅びそうだ。


 待てよ? 五人いれば、キララもキララレンジャーに……。


 ……。


 まあ新国王には、会ってみないと分からないか。


 暫く歩いて行くと、隣接した二つの城が見えて来た。……なるほど、片方はノックドゥの王族が利用する城で、もう片方はギルド用の。ギルド・キングデーモンの紋章が付いている所を見ると、向かって右手の城がキングデーモンの物だろう。大通りに面している城が、王族のものか。


 こいつはまた随分と、立派な城だ。こんなモノを譲り受けようと言うのなら、気合いも入るという訳だが……八人で使うには、少し広すぎるな。


 ……ん? そういえばさっきから、リーシュとヴィティアの声が聞こえて来ないな。


 俺は、背後を振り返った。


「おい、リーシュ。ヴィティア」


 ……なんだか分からないが、二人がとても遠い。ヴィティアがリーシュの耳に口元を近付けて、何やら小声で呟いている。


「見て、リーシュ。あれが男が結婚した後によく使う、『ビジネスの顔』ってやつよ」


「そ、そうなんですね。あれが、噂の……」


「今でもあの顔をする時、女性お断りな男は少なくないわ。気を付けて」


 ものすごく人聞きの悪い事を言われていた。……ヴィティアよ。内緒話がしたいなら、せめてもう少し声のトーンを抑えろ。


 リーシュが何やら緊迫したような顔で、ヴィティアの目を見た。


「ちなみに、『ビジネスの顔』というのはどこに付いているんですか?」


 ヴィティアは下顎に人差し指を当てて、リーシュと視線を合わせる。


「……………………股間?」


「顔じゃないのかよ!! 良いからさっさとこっちに来い!!」


 むしろ何故股間だと思ったんだ……。


 門の前まで歩くと、クランは門番に会釈をした。


「クラン・ヴィ・エンシェントです。国王エドラ・ノックドゥとの予定があるのですが」


「クラン様!! 奥でエドラ様がお待ちしております。こちらへどうぞ」


 すげーな、顔パスかよ……。


 いや、そういうものか。国を護っているギルドのギルドリーダーだ。顔パスくらい出来なくちゃ、仕事にも困るだろう……という事はつまり、俺もこれからそうなるという事だ。


 今更ながら、少し緊張してきた。マウンテンサイドみたいに家庭的な小国ならまだ、やり取りの経験もあるが……どう考えても、ノックドゥの敷地は広い。セントラル・シティに負けず劣らずと言えば、少し言い過ぎかもしれないが。それでも、有り余る土地を所有している。


 城の敷地に入ると、俺達は歩いた。念のため、スケゾーを俺の体内へ……城の扉が開く。使用人と思わしき格好の娘が、俺達を城内へと誘う。


「こちらです」


 指示されるままに、俺達は歩いた。


 どんな連中なんだ、ノックドゥ。やはり、大きな国には大きな国なりの落ち着いた態度というものがあるのだろうか。


 王室の扉が開いた……!!




「ようこそいらっしゃいました」




 赤い絨毯に、赤い王座。王というのはやはり、赤い王座なのか。そこに、老いを感じ始めた女性が座って。


 いない。


 ……座っていないぞ。


「あ、あなたは……」


 王座に座っていたのは、白い長帽子を被り、全身白一色の服を着ている、ガマガエルみたいな顔をした中年の男だった。……あれ? 国王は女だって言ってなかったか?


 何やら若干、得意気な顔だ。


 クランも困惑している。……やっぱり、エドラ・ノックドゥではなさそうだ。


「……料理人?」


 問い掛けると、ガマガエル的な男は立ち上がった。


「この私に向かって、『料理人』などという型にガマった言葉は使わないで頂こう!!」


『ガマる』ってどういう意味だよ。初めて聞いたぞ。


 男はガマガエルみたいな口の端を全力で吊り上げて、俺を指差した。


 怪しく艶めかしい奇妙なガマガエルダンスを発揮しながら、俺達ににじり寄って来る。


 なんというか、非常に気持ち悪い。


「そう!! 例えるならば、戦場に立つ皮肉なアーティスト!! 掌の上で優しく広がる蜜のような甘い味!! 軽く炒めたザビエルのような食感!!」


 広がるのか。掌の上で。……味が。


 ザビエルってどっかで聞いたな。


 また変態が一人、俺の前に現れてしまったか……。


「私こそが、この代々続くノース・ノックドゥのオーナー!! そして、ギルドの城までもを管理する、偉大なるこの城のオーナー!!」


 俺の目の前で男は立ち止まり、微妙な後ろ体重でポージングをキメた。




「シェフ!!」


「『オーナー』で止めんな!! 結局料理人じゃねえか!!」




 どうやら、『オーナーシェフ』と言いたかったらしいが。……何なんだ、この初登場から激しくスベっている男は……ガマガエルっぽい顔が、余計に間抜けっぽさを際立たせている。


 リーシュがおそるおそる手を挙げて、しかし苦笑した。


「……あの、『ザビエル』というのは北東の『ノース・ホワイトドロップ』発祥の調理法で、『ナッパラ』という名前のスパイスを使って煮込む、という意味なんですが……」


 どうやら、軽く炒める言葉ではなかったらしい。そういや最近リーシュが作ったな、ザビエル。あれは美味かった。


 オーナーシェフと思わしき男は、ガマガエルのような顔でリーシュを一瞥した。


「ふん。……無駄な料理知識など発揮しおって」


 いや、お前だけはそれ言っちゃ駄目だろ。


 どうやら、料理の知識はリーシュの方が上らしい。


「……あ、あの。エドラ様はこちらには?」


 クランがそう言うと、オーナーシェフのようなガマガエルは王座に視線を向けた。


 あれ? よく見ると、王座の後ろから覗いている人がいる。慎重に、俺達の……俺の様子を窺っているように見える。


「あ、あ、あ、あの、よ、よう、ようこそ、いらっ」


 めっちゃ怯えてる……!?



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