表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第十二章 千の種族と心を通わせる魔物使い(性別不明)
177/234

Part.176 食い違いと擦れ違い!

7/2(日) 2/3

次の更新は18時です。

 まさか、この状況でなお、自分が翼の剣士と戦えたと、そう言うつもりなのか。……そんな言葉が返って来る事は、予想していなかった。


 リーシュは相変わらず落ち込んだままだが、ヴィティアは少し驚いている。


 東門に緊急招集された時から、不思議ではあった。どうしてトムディがこんなにも、強がりを見せるのか。……トムディは普段、自分と相手の戦力差なんてものは、最も警戒して見ている。勝ち目のない戦いはしないタイプだ……それが、何故。


「……トムディ。落ち着けよ……ラフロイグン……翼の剣士のことか? ……あれはそもそも、人間一人にどうにかなるような代物じゃなかった。お前もよく分かってるだろ?」


 トムディは拳を握り締めている。


「普通の人間ならね。……僕なら、戦えたさ」


「トムディ、あんたね……!! そんなこと、今話さなくてもいいでしょ!?」


 見兼ねて、ヴィティアが口を挟んだ。リーシュは虚ろな目で、トムディを見ている。俺は……正直、かなり動揺していた。


 何でこんな事をトムディが言い出すのか。今までの行動から考えれば、有り得ない事だ。トムディはそんなに馬鹿じゃない……一体、何を考えているんだ。


 トムディは、俺を睨んでいる。


「僕は、戦えなきゃいけなかった……!!」


 トムディの真意が読めない。


 ……参ったな。どう声を掛ければ良いんだ。


「自分の実力を過信するなよ、トムディ。……そりゃ、『カブキ』でお前がリーガルオンの仲間を倒してくれたのは、本当に心強かったよ。……でもな、相手になる奴とそうじゃない奴がいる。あれは、お前には荷が重い相手だった。……そういう事だろ?」


「そんなことないっ……!!」


 その様子は少し、意地を張ったような雰囲気で。


 思わずこちらも、強い口調になってしまう。


「魔力差があっただろうが。あの魔力を相手にできるのは、スケゾーの魔力を利用できる俺だけだ……クランだって、翼の人間を相手にする為に、あちこちから協力者を集めていたんだぞ? そういう相手なんだって」


 言い終わる前に、ヴィティアが俺の手を取った。


「行きましょうよ、グレン。……こいつ、何だか知らないけど拗ねてるだけよ。明日になって、お菓子でも食べてれば気も治まるわよ」


 ヴィティアも中々に厳しい事を言うが……。トムディは一体、どうしてしまったんだ。


 背中を押されて、宿へと向かう。ヴィティアはもう、トムディを相手にする気が無いようだが……でも、そうは言ってもなあ。


 トムディは一人、宿屋の前で立ち尽くしている――――…………




「どうして、自分が無理してる事を言わないんだよ!!」




 俺はヴィティアに背中を押されながらも、振り返った。ヴィティアもぎょっとして、トムディを見た。


 トムディは、泣いていた。


「その腕!! ……もうそろそろ、使い物にならないんじゃないのかよ!!」


 俺は一瞬、固まって。


 胸を鷲掴みにされたような想いだった。


 普段の生活なら、リーシュにさえ気付かれないようにしていた。クレープの一件で、話さざるを得なくなってしまったけれど。


 それでも、何不自由無く日常生活を送っているようには、見せていた筈だ。


 ……そうか。……気付いていたのか。


「魔力差なんて、僕には関係ない!! グレンはカブキでの僕の活躍を見ていないから、そんな風に思うんだよ!! 本当さ!! そんな『不利』、僕はずっと覆してきた!! これからだってそうさ!!」


 俺に限界が近付いていると、トムディは気付いていたんだ。だからこそ、前に立とうとして――……。


 そりゃあ確かに、この面子で俺が倒れたら、前衛なんかいない。それは分かってる、けれど。


「次に翼の戦士が出て来たら、僕も戦う……!! グレン、もっと僕を信頼してくれよ!! ギルドになるんだろ!?」


 俺は、スケゾーの言葉を思い出していた。


『ひと一人の手は二本しかねえんだから、使える仲間と協力するしかねーでしょう』


 当のスケゾーは何も言わず、俺とトムディの状況を見守っている。口は出さない、という事か。


 ……そりゃあ俺だって、トムディと一緒に戦えたら嬉しいさ。トムディだけじゃない、他の皆で協力して、テロだの革命だのと戦って行ければ。セントラル・シティを守れれば、それに越したことはないと思うさ。


 それは分かってる。けれど。


『ラグナスがノックドゥで戦った時も、あの位の強さだったのか』


『いや。今回とはまるで比較にならん。……尋常ではない程に強くなっている』


 ……無理だろ。幾ら協力したい、力を合わせたいって思っても、限度ってもんがある。特に戦闘なんて、弱い奴から順番に淘汰されていくものだ。俺やラグナスはおろか、クランや師匠でさえも一筋縄では行かないような連中を相手に、戦えるかどうかと言われれば……それは正直、絶望的だ。


 相手はとてつもない速度で成長している。ノックドゥに襲い掛かって来た時と比べても強くなっている。ラグナス一人でどうにかなっていたものが、今回は俺一人ではどうにもならなかった。


 そりゃ、一緒に戦えたら良いよ。一緒に戦えるような相手なら……。


 それは。……だけど。


 俺は、固く目を閉じた。


「……悪い、トムディ。……次の戦いに参加するのは、許可できない」


 一瞬、トムディは俺に失望した。……少なくとも俺には、そのように見えた。


 でもそれも、一瞬のことで――……。


 俺に背を向けて、走り出す。


「ちょっと、トムディ!!」


 去り際、トムディは一度も俺の方を見なかった。……本当に、連中と戦えるつもりなのか。いや、あいつの事だから、きっと想いの中の何割かは、俺を心配して強がっているに違いない。


 でもきっと、あいつの事だから、想いの中の何割かでは、ようやく自分の強さに自信が持てて来た所だったのかもしれない。


 その二つが、トムディをああいった形で動かした。


 俺はその自信――虚勢か、あるいは達成感のようなものを、壊してしまったのだろうか。


「……仕方ないじゃない。グレンは私達の事を考えて、前に出て戦ってくれてるんだもの。……ね?」


 ヴィティアはそう言って、困ったような表情を見せたが。……俺は、どんな顔をして良いのか分からなかった。


「腕の調子が悪いの?」


「……ああ、まあ少し、痺れてるみたいで」


「じゃあ、ちゃんと休んで。そうすれば、良くなるわよ。グレンは回復も速いんだし」


 この傷は、戦闘中に受けた傷とは訳が違う。俺自身が魔力共有をした事によって、付いた傷なんだ――……だから多分、そう簡単には治らないんだ。


 本音は、言おうと思えばいくらでも言える。


「……そうだな」


 俺はそう言って、ヴィティアに微笑んだ。


 今回の件で、よく分かった。


 俺が傷付く事で、皆が不安になる。……リーダーっていうのは、そういうものか。トムディにしたって、俺が余裕で奴等を倒せていれば、あんな事は言い出さなかった。


 俺はもっと、強くならなければいけない。


 リーシュが、どこか遠い目で俺達の事を見ていた。




 *




 ヴィティア・ルーズは、喫茶店『赤い甘味』を訪れていた。まとまらない思考をどうにか収束させようともがくが、一向に問題は解決の兆しを見せない。


「まったく、どうしたら良いのかしらね、もー……」


 それは、これからギルドになる予定のメンバーのことだ。


 最後にグレンオードがトムディと話をしたのが、前々日の出来事。そして、それきりトムディはいつもの宿屋に顔を見せなくなった。ヴィティアには無駄な意地のようにも見えたが、トムディが結局の所どう考えているのかは、ヴィティアには分からない。悲しいものだ。


 そしてリーシュもまた、東門での戦闘以降、すっかり暗くなってしまった。あれほど太陽に近い笑顔の娘も珍しいだろうと思っていたのが一転、今は蝙蝠でも寄って来そうな程に沈黙してしまい、何も話すことがない。


 ラフロイグン・ショノリクスが……あの黒い翼を持つ剣士が現れてから、周囲はリーシュの話題で持ち切りだ。実は連中の手下だ、魔物を連れ歩いていた、いいや改心したから今セントラル・シティに住んでいるのだ等と、噂話は留まる所を知らない。


 グレンオードは東門の戦闘で重大な傷を負ってしまい、当分戦える様子ではない。いつもは腕が切られても翌日には復活しているグレンだったが、今回は何故か、傷の治りが遅いのだ。いい加減に再生能力が衰え始めて来たのか、それとも何か他に原因があるのか。本当は病院に居座っていた方が良いだろうに、グレンはそう言っても苦笑するだけで、動かない両手でどうにか普段通りの生活をしようとしている。


「できるの? こんなんで、ギルド……あーっ、もう!!」


 赤い甘味で一人、ヴィティアは頭を抱えた。


「あー……もう……」


「ひっ!?」


「……独り言が多いわよ……どうしたの……?」


 気が付けば対面に、ミューが座っていた。どうやらヴィティアは一人では無かったらしい。


「な、何よ……いたの? あんた……居るなら挨拶くらいしなさいよ」


「ごきげんよう……ぐると」


「何でちょっと迷いがあったの今!? つまらないって分かってるなら言わなきゃいいでしょ!!」


 ミューは舌打ちをして、目を逸らした。……相変わらず、奇妙な空気が流れる娘だとヴィティアは思った。


 いつの間に注文したのか、ミューはダージリンティーを啜っている。紫色の長髪を後ろで二本にまとめた、民族衣装のような服を着ている少女。見た目だけでも奇妙なのに、その中身は謎だ。


 思わず立ち上がってしまったヴィティアは、再び着席した。


「どうやら……お困りのようね……」


「……この前東門に、冒険者が集められたじゃない。その時からみんな、ちょっとおかしいのよ。……私、どうしたら良いのか分からなくて」


 ヴィティアはそれだけを話して、ミューを見た。ミューの相槌を待ったのだ。……だが、ミューは何も言わない。


 ……なんとなく、沈黙が訪れる。


 紅茶を口に含んで、ミューはゆっくりと飲み込んだ。


「……そう」


 ヴィティアは、ミューの意見を待った。


 再び、沈黙が訪れる。


「……なんか意見とかないの?」


「私は……聞いただけよ……?」


「あんた、なんかイラつくわね……」


 何故だか分からないが少しおちょくられているような気がして、ヴィティアは苛々した。


 溜息をついて、ヴィティアは腕を組んだ。


「いつもの変態マッチョは一緒じゃないの?」


「仮にも……病人よ……? 毎日連れ出していたら……調子が悪くなるわ……」


「……まあ、それもそうね」


 ミューは紅茶を飲む。


「……パンツを買いに行っているわ」


「病院にいなさいよ!!」


 これは、何だろうか。ミューなりのジョークのつもりなのだろうか。無表情の奥に一体何が隠れているのか、ヴィティアには分からなかったが。


 真面目に相談するだけ無駄というものだろうか。グレンは少しミューと話していて仲が良いみたいだが、特にヴィティアとしてはそういう訳でもない。カブキの一件ではラグナスと入れ替わっていたが為に活躍の場面は無く、従って今もなお、彼女とは初対面に近い状況だった。


 何となく気付いていたが、疲れる娘だ。と、ヴィティアは思った。


「それにしても……ギルド成立が危うくなるというのは……少し、私的にもまずいわね……」


「どこから居たのよ」


 この様子だと、初めから聞いていたのだろうか。本当に、いつの間に。


「おかしいというのは……どう、おかしいの……?」


「グレンは何だか調子が悪いみたいなんだけど、何も言わないし。リーシュは別人みたいに暗いし、トムディは帰っても来ないのよ」


「そう……」


「また、聞いただけとか言わないでしょうね」


「人聞きの悪い事を……言わないでくれる……?」


 さっき自分で言っただろう。と、ヴィティアは思ったが。


 そんな事にいちいちツッコミを入れていても、埒が明かない。ヴィティアはミューの意見を聞く事にした。


「別に……普通では、ないの……?」


「普通?」


「グレンが無理をしているのは、前から分かっていた事だし……リーシュが暗いのも……今の状況を考えれば……当然だわ……」


 その言葉に、ヴィティアは困惑した。


 そういえば、トムディもグレンが無理をしていると言っていたように思う。……だが、ヴィティアから見るグレンの印象は、いつも変わる事はなかった。気が付いたら、グレンの両腕は動かなくなっていた。


 分かるタイミングは、無かったはずだ。


「……ちょっと待ってよ。それって、どういうこと?」


「しっ……」


 ミューは人差し指を立てて、会話を制した。ヴィティアは言葉を止める――……ミューの視線には、ヴィティアではないものが映っていた。


 振り返り、ヴィティアはミューの視線の先を見る。


「よーう。……待ってたよ、チェリィちゃん」


「こんにちは、兄さん」


 ……チェリア。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ