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(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第十二章 千の種族と心を通わせる魔物使い(性別不明)
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Part.174 そしてグレンは拳を振るう

6/17(土) 3/3


 相手と自分の戦力差を見極めるというのは、冒険者の基本的なスキルだと思われている事が多いが、実は意外に難しい。


「待て、トムディ!!」


 一度戦った事のある相手ならいざ知らず、魔物との戦闘なんて、殆どが初対面だ。そんな時、一度も拳を交えていない相手の実力を、どのようにして分析したら良いのか。


 自分の腕を過信している奴ほど、そういった事に気付かない。戦力差が理解できる頃にはもう遅く、気が付けばパーティが全滅していた、という事例も少なくはない。


 相手が魔物の場合、戦力を測るのにひとつ意味のある情報は、魔力の強さだ。


 だが、この魔力差というものを正確に肌で感じられる冒険者もまた、実は少ない。魔力は道具として使う為のものであって、研究する為のものでは無い、という認識が強いからだ。


「トムディ!!」


 だが――……いつも逃げてばかりのトムディが、何故こんな時に限って、前に出ようとしているのか。前方で冒険者と戦っている魔物の群れは、明らかに強そうな見た目だ。これまでのトムディなら、真っ先に俺の後ろに隠れていたはず。


 俺の前を走っているトムディが、十人ほどに増えた。


「グレン、大丈夫!!」


 俺は、トムディの目を見た。


「――――――――勝ってみせるから!!」


 立ち止まり、俺は前を走って行くトムディの背中を見詰めた。トムディは勇猛果敢に、魔物へと突っ込んでいく。


 ……そうか。トムディを動かしていたのは、相手が攻略可能だろうと思ったからという、それだけの理由じゃない。


 その責任感故に、だ。


 分身したトムディは、一気に魔物へと飛び掛かる。その殆どは一瞬で倒されてしまうが、常時魔法を発動しているトムディに終わりはない。次から次へと新しい分身が現れ、魔物に立ち向かって行った。


 カブキで、トムディは気付いたのかもしれない。この少人数でパーティを組むことに対しての、『一人』の重みを。


 人数が少ない時は、多い時と比べて圧倒的に余裕が無い。個人個人に適切な対応が求められるし、その比重も多くなりがちだ。事実、先のリーガルオン戦では、俺はどうしたって、リーガルオン以外の相手を仲間に頼らざるを得なかった。


 仲間を護る為の、責任感。そして、リーガルオンを突破したという自信。この二つが、トムディを動かしているのか。


「グレン様、大丈夫ですか!?」


 リーシュが走って来る。……俺はどうすればいい。トムディのサポートに回るか? ……いや。


「大丈夫だ、リーシュ。攻撃が当たらない位置にいてくれ」


「は、はいっ!!」


 そういえば、連中の頭がいない。話によれば、人型の魔物か人間。奴の実力次第で、俺達の出方も変わると見て良いだろう。……クランは? 最前線に居ない所を見ると、やっぱり裏で指示を出しているんだろうか。


 その、最前線で戦っている冒険者達を見る。魔物は沢山居るが、連中の中に人の気配は見えない。……どこだ。……どこに居る。


 俺は、辺りを見回し。


「や、やった……!!」


 トムディが、最前線で魔物を一匹、突破した。突っ込んだのか……トムディは、杖を握り締めて空中に居る。魔物は倒れ、その場で消滅する。


 実体がない。


 という事は、こいつらは……『召喚』……!!


 魔物が消滅する時に、煙を出した。その煙が晴れて行く。


 トムディの向こう側に、数多の魔物から考えると、随分と小さい人影が見えた。あの小さいトムディが横に並んでも、大して遜色が無い程の小ささ――……だが、あれは……人間、だ。


 いや、違う……悪魔か……? いや……。


 地面から頭の先まで、一瞬にして鳥肌が立ち、ざわざわと騒ぎ立てる。吐き気を催す程の殺気と、小さな体躯からは考えられない程の魔力が、小さな人影から吹き出す。


 俺は。




「下がれえぇぇぇぇえぇぇぇっ!! トムディィィイィィィィ!!」




 駆け出していた。


 ……全身を、漆黒のローブで覆っている。フードまですっぽりと顔を隠している。背中から同色の翼が生え、それは片翼が大人一人分程の大きさを伴っている。


 なのに、確かに『人間』だ。トムディに向けて放たれる、その殺気だけは。


 何より巨大な、そいつの魔力に恐怖した。ゴールデンクリスタル等とは比較にもならない。腰に構えた剣は、既にトムディを捉えている。


 瞬間的に、俺はスケゾーと魔力共有していた。意識の中で俺がスケゾーに指示した共有率は、『二十五%』。


 爆発的に強化される、俺の肉体。強化魔法を掛けている時間はない。一直線に、その黒い翼を持つ剣士に向かい、拳を振るった。


「【ゼロ】!!」


 左手でトムディを抱え、右腕を剣士に向かって、力任せに叩き付ける。


「【ブレイク】!!」


 俺の攻撃は、剣士にガードされる。俺はそのガードごと、剣士を殴り……切れない……!!


 激しい爆発が、俺と剣士の間で巻き起こった。


 トムディを抱えたまま、反動で真後ろに吹っ飛ぶ俺。地面に着地すると左腕からトムディが離れ、ゴロゴロと地面を転がった。


 俺はすぐに起き上がり、全身に魔力を展開した。炎を身に纏い、肉体の強化魔法を掛ける。


「【悲壮の】!! 【ゼロ・バースト】!!」


 フルスロットルだ。出力を調整している時間なんかない。


「あいつだ!! あいつが親玉だ!!」


 爆発の影響を受けて、最前線で戦っている数多の冒険者達も、その剣士の存在に気付いたようだ。


 だが――……駄目だ。


「剣士をやれ――――」


 そう言い掛けた冒険者が一人、胴体から真っ二つにされて地面に落ちた。


 言葉も無く、次々に最前線の冒険者が斬られていく。そこに、一瞬の緩みもない。俺の攻撃を受けておきながら、まだ他の冒険者を相手にする余裕があるみたいだ。


 成る程。キングデーモンの幹部が、あっさりとやられる訳だ……魔力の量が違い過ぎる。生身の人間なら、誰でも恐怖するレベルだろう。


 他の冒険者が魔物を抑えなければ、人数的に考えても袋叩きにされて、あっという間に終わりだ。魔物を相手にしながら剣士と戦うのは、明らかに無理だ。


「その剣士は俺が抑える!! 他の魔物をなんとかしてくれ!!」


 俺の言葉に気付いて、他の冒険者が引く。……同時に、剣士が俺の方を向いた。


 その殺気を、全身で受け止める。


 気を抜けば、一太刀で殺される……!!


「スケゾー、来るぞ……!!」


「出力上げますよ、ご主人!! 持ち堪えてください!!」


 砂煙が舞い、猛烈な勢いで人影が飛び出した。


 刹那、俺は拳を前に。ナックルと化したスケゾーで剣撃を受け止めるが……重い……!!


 攻撃に耐え切れず、俺はかなりの距離を背後方向に滑った。


「グレン様!!」


 リーシュの声がすぐ後ろに聞こえる場所まで、一気に引かされる……たった一発の剣撃を受けるのに、これだけの衝撃かよ……!!


「ぐ、うっ……!!」


 剣士の剣を、防ぎ切れない。油断すれば、スケゾーごとやられてしまいそうだ。


 一体、どこの手練だ。この至近距離でも顔が見えない。


 駄目だ……膠着状態になったら、不利なのはこっちだ……!!


 弾け……弾け!!


「……ふざ……けろっ……!! ……らあっ!!」


 全力で、相手の斬撃を弾いた。……いや、違う。相手の方から下がった。


 俺の実力を、測っているのか。


 既に俺は、肩で息をしている。ローブに隠れて分からないが、相手の方はまだ余裕があるように見える。


「うわあああぁぁぁっ!!」


 俺の後ろで、悲鳴が聞こえた。


 ……えっ? ……後ろ?


「……………………えっ」


 驚かれているのは……リーシュ。俺のすぐ後ろで……純白の翼が、大きく開かれた。


 リーシュ自身、まるで予想していなかったような顔をしている。何故……? 奴の黒い翼に反応したのか……?


 いや。今は余所見をしている時間も、考えている時間もない。


 次が来るぞ……!!


 拳を構えた。


「……【怒涛の】」


 どうやら、奴の突進攻撃には僅かな溜めがあるらしい……だが、それも一瞬の出来事だ。その後の一撃はとてつもなく速く、重い。


 既に俺は、戦闘に参加できていない、他の冒険者が集まる場所まで下がっている。ここで前に出なければ……巻き込む事になってしまう。


 どこからか、声がした。


「『零の魔導士』!! 今、クラン・ヴィ・エンシェントが援軍を引き連れて、こっちに向かってる!! それまで持ち堪えてくれ!!」


 思わず、苦い顔になってしまった。


 遅えんだよ……!!


 突進が、来る。


「【ゼロ・マグナム】!!」


 広範囲の爆発で、他の冒険者と黒いローブの間に障壁を作る。……よし。ちゃんと、俺の攻撃に足を止めた。……どうやら、まるで効いてない訳では無いらしい。


 それを確認して俺は、前に出た。


 ……そう。今の俺に、立ち向かう以外の選択肢なんてない。例えそれが、どんなに絶望的であっても。


「がああああああっ――――!!」


 遅いんだ。……あの魔物の群れと戦っている冒険者が苦戦している時点で、今この場で黒いローブの剣士と戦える人間が他に居ない事なんて、一目瞭然なんだ。


 それ以外の冒険者は、もっとレベルが低いって事も。……俺の仲間では、太刀打ちできない事も。


 それら全てを加味した上で今、拳を交えた俺には、この絶望的な状況が分かる。


「【ブレイク】!!」


 半ば捨て身の攻撃を、黒いローブの剣士は冷静に受け止める。


「【ブレイク】!! 【ブレイク】!! 【ブレイク】!!」


 俺が今出しているのは、『二十五%』だ。あの、リーガルオン・シバスネイヴァーを圧倒した共有率だ。


 それなのに――……


「【ブレイク】!!」


 まるで、相手になっていない。こいつは人であって、人じゃない。


 レベルが違う。そういうことが、戦っている俺には分かる。……必死な俺の行動に対して、奴は冷静に攻撃を受けるだけ。俺の実力を測る余裕が、奴にはある。


 黒い翼……まさか、リーシュとまるで関係無いって事はないだろう。ゴールデンクリスタルと、もう一つ――……奴等は圧倒的な戦力を以て、このセントラル・シティを潰そうとしているのか。


 ……いや。もしかしたら、それだけではないかもしれない。もしかしたら、『人類』そのものが標的なのかもしれない。


 起こそうとしているのは、革命なのか。


「グレンッ!! 手伝う!!」


 その、次の瞬間。


 俺は、我が目を疑った。


「【リバース・アンデッド】……!!」


 黒いローブの剣士に、立ち向かって行く男が一人。


 分からないのか。……これがどういう戦闘で、俺が今、どういう状態なのか。いや、興奮して見えなくなっているんだ。敵と自分の間にある、途方もない戦力差。圧倒的な、力の差。


 剣士が、トムディに目を向け――――


「スケゾー!! 『三十%』!!」


「ご主人!! 落ち着け、それは」


「うるせえ――――――――!!」


 この場所は。ここに居る仲間達は、俺の命だ。


 俺が護らなければならない人間達だ。


 こんな、人間かどうかも分からないような、沈黙の先兵なんかに。


 やられる訳には行かないんだ。


 俺は――――――――……………………!!


「うおおおおおおおおあああああああああ!!」


 飛び出した。


 一瞬、時間が遅くなったかのように感じた。……違う。俺が速過ぎるだけだ。黒いローブの剣士が放つ攻撃でさえ、今の俺にはスローに見える。段階的に強化された身体が、意識が、俺に語り掛ける。


 正に、『悪魔に魂を売った』男の姿だと。


 その剣がトムディの懐に入る前に、俺はトムディの首根っこを掴んだ。


 後方目掛けて投げ飛ばす。


 その代わりに俺に向かって来た剣を、俺は拳で受ける――――…………


 時間が、元に戻った。


「うわあっ……!!」


 俺の背後で、砂煙が上がる。トムディが壁に激突したせいだ。


 俺はナックルに変化したスケゾーで、剣を受け止め――――ていない。


 えっ…………?


 俺は、剣士の剣を生身の腕で掴んでいる。にも関わらず、俺は血のひとつも流していない。痛覚の無い、俺の腕が。


 俺の腕。


「…………」


 黒いローブの剣士は、何も言わない。


 俺のグローブは斬られている。俺は、手のひらで奴の剣を受け止めていた。その先に、肉の無い――骨のような手が見える。


 俺の腕は途中から赤黒く染まり、グローブへと向かっている。


 腕が、変色している…………!!


「ちっ…………!!」


 剣士の剣から手を離し、俺は左手を引っ込めた。


 ……何だ? 何かの、声が聞こえる。


『違うんだよ……出してくれ……!! ここから出してくれ……!!』


 何者かの声が、聞こえる。


 瞬間、俺に異変が起こった。


 憎悪に押し潰される。耐え難い恐怖が全身を包み込んでいる。俺は思わず顔を手で覆い、その場に膝をついた。


 全身を襲う痛み。まるで、火傷をしたかのような。


『俺は――――――――に』


 目を見開いた。


「あがあああああぁぁぁぁぁっ――――――――!!」


 痛みに、叫ばずにはいられなかった。何事かと俺の様子を見守っていた剣士が、ようやく俺が戦闘不能であると気付いたのか、俺を殺しに掛かる。俺は力任せに、剣士の目の前で魔法を使った。


 何をしたのか、自分でも分からない。


 だが、全身を襲う痛みの中、俺は何故か、動く事が出来ていた。


 拳を構え、剣士に向かって突っ込んだ。



ストック切れました……続きも頑張って書きます。

暫しお待ちを……。

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