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(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第十二章 千の種族と心を通わせる魔物使い(性別不明)
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Part.173 アフタヌーンの緊急事態

6/17(土) 2/3

次の更新は18時です。

「悪いな、グレン。俺は、今回の話からは手を引かせて貰おう」


 そう言って、ラグナスが席を立った。


 ……まあ、納得しない奴も居るだろうな。そもそも、ここに居るメンバーの半分は正式にパーティメンバーとして登録している訳じゃない。そんな意見が出るのも当然だろう。


 俺は、ラグナスに手を広げて見せた。


「ラグナス。否定はしないが……クランは、お前を戦力に入れたいみたいだ。お前が参加しないのであれば、事情が少し変わるかもしれないんだが」


「グレンオード」


 ラグナスは一瞬、俺を見たが。


「貴様とやりたいのは山々だが……俺はもう、別のギルドに所属しているものでな」


 そう言って、ラグナスは苦笑した。……あれ、そうだったか? 一部では孤高の戦士とまで言われるラグナスに、所属ギルドがあるとは思わなかったな。


 一人、ラグナスは席を立った。小銭をテーブルに置くと、マントを翻して背を向ける。


「また、何か別の用事があれば教えてくれ」


 それだけを俺に伝えて、ラグナスは赤い甘味を出て行った。……何となく、俺達はその様子を見守る。


 店を出て行ったラグナスの去り後を、暫く傍観していた。


 お世辞にもまともとは言えなかったラグナスが、何故かまともに見える。……何なんだ、一体。俺達がカブキに行っている間に、何かあったのか?


 いつもは真っ先にツッコミを入れる筈のヴィティアが、何故か何も言わないし……。


「ヴィティア、あいつ……何かあったのか?」


「えっ!? さ、さあ!? よく分からないわね、あはは!!」


 分かり易い!!


 ……何かあったらしい。魔導士止めてから盗賊スキルばかり覚えている癖に、相変わらず盗賊的要素が皆無なヴィティアだった。そんなんだからポーカーで勝てないんだろ。


 ふと、ミューが蒼白になって、ヴィティアを見た。


「まさか、あなた……入れ替わって『した』んじゃないでしょうね……」


「へっ? したって、何を……あっ」


 見る見るうちに、ヴィティアの顔が赤くなっていく。俺は人知れず目を逸らし、苦笑した。


「す、する訳ないでしょバカ!! そもそもあいつはナシだから!! 私はグレン一筋だから!!」


「ムキになって否定する所が、ますます……怪しいわ」


「むきいぃぃぃぃ!!」


 俺、リアルで「ムキ―ッ」って言う奴、初めて見たよ。


 リーシュが首を傾げた。


「あの……なんの話をしているんでしょうか」


 ヴィティアとミューが、リーシュを見る。


 ……静かに、ヴィティアは席に戻った。


 そろそろ、話を前に進めないとな。


「……じゃあ、一応金の話は、俺が千セル、トムディが千セル、ラグナスが千セルで良いか? キャメロンは治療の話があるだろうし、他に投資する奴は居ないよな? ……そうすると、キングデーモンからは千セル借りる感じか」


 本当は、あまりキングデーモンから金は借りたくない。クランは良いと言っていたけれど、城まで寄越して貰って、仕事も貰っているのだ。この上金まで出して貰ったら、俺は一体何だという気持ちになってしまう。


 一応、体裁上キングデーモンとは同盟。少なくとも、そういう話になるのだから。


 不意に、チェリアがあっけらかんとした笑顔で言った。


「あ、じゃあ僕も千セル出しますよ」


 えっ。


 思わず、全員がチェリアを見た。チェリアはそんなに視線が集まると思っていなかったんだろう。少しぎくりとした顔で、身を引いた。


「え? ……あ、いや、な、なんでしょうか……?」


「……いや、出せるなら良いんだが……千セルだぞ? 無理しなくて良いぞ?」


 具体的に言うと、セントラル・シティでかなり贅沢しながら生活しても、丸二年は生きられる金額だぞ。そんな貯金が一体どこにあったのか。


「実は、一人でヒーラーをやっていた時の貯金が結構あってですね、あはは……」


 結構って言うような額、か? こいつ冒険者を始めて何年目だよ……。


「……まあ、じゃあチェリアが千セル、だな。これで冒険者依頼所にギルド申請して来るかな」


 よく考えてみれば、俺ってチェリアの事、あんまりよく知らないんだよな。セントラルで聖職者をやっていた、という事位しか情報が無い。


 それを言えばラグナスもだが、謎が多いんだよなあ。


「……あの、グレン様」


 不意に、リーシュが俺の服の裾を引っ張った。


「リーシュ?」


「できれば、そろそろ……外に、出ませんか」


 一体、どうしたって言うんだ……?




 *




 俺達は、赤い甘味を出た。


「……とりあえず、ギルドの申請出して、キングデーモンに報告して来るよ」


 ラグナスが、ギルドメンバーにならなかった。ギルド全体の総力として考えると、抜きん出た実力を持っているラグナスが抜けるというのは、かなり大きな問題だ。


 だけど、せっかくクランが用意してくれた席なんだ。俺は可能なら、この話を引き受けたい……俺に付いて来てくれたメンバーにも、少しばかりの安定が生まれる。根無し草の今から考えれば、こんなに良い事はない。


 スケゾーが奪われた件といい、これまで負担ばかり掛けて来たからな。


「一度、私達は戻るわ。あんまりキャメロンを外に出しておくのも……まずいから……」


 ミューはそう言って、俺達に手を振った。


「あんまり俺を病人扱いしないでくれ、ミュー。もう傷も塞がっている、じきに治る」


「そう……傷口を舐めても……同じことが……言えるかしら……?」


「それは……やめてくれ」


 しかし、すっかり仲良くなったもんだな。元々兄妹のような存在だった訳だから、ようやく元に戻ったって所か。


 ミューとキャメロンの背中を見ながら、俺はリーシュに聞いた。


「それで、リーシュ。……どうしたんだ、さっきから。何かあったのか?」


 赤い甘味に入ってから、リーシュの様子が変だった。キングデーモンに居た時に、クランから言われた言葉と何か関係があるのかと思ったが。


 リーシュは青い顔をしている。いまいち、俺達の普段の会話にも付いて来られていない様子だった。いつもなら、先陣切ってボケを担当する所だ。本人に自覚は無いかもしれないが。


「……さっき、赤い甘味で……人が、話していたんです」


「話してたって、何を?」


「ノックドゥに魔物が来た時に、魔物の前に立っていた人間には……その、翼が生えていた、って」




 ――――――――翼。




『人間、らしいんだ』


 クランの言葉を思い出す。


「私、怖くて……」


 今までに追い掛けてきた事が、一本の線に繋がっているような気がするのは……俺の、気のせいだろうか。


 ゴールデンクリスタル。スカイガーデン。冒険者組織。呪い。


 何かが繋がって行く気がしている。そして俺は、その事を考えないようにしている。


 その先に見えるモノは、俺にとって都合の悪いモノのような気がしている。


 まだ、魔物と戦った事もないのに。


「グレン、どうしたの? 冒険者依頼所に行くんでしょ?」


 ヴィティアがそう言って、俺の顔を覗き込んだ。


「あ、ああ」


 まだ、ただの噂話だ。気にするような段階じゃない。


 だけど――……もしこれが奴等の仕業だとしたなら、奴等は遂に動き出した。そんな可能性も、考えておかないといけないか。


 リーガルオン以上の強敵が現れる可能性だって……否定はできない。


 俺は、リーシュの頭を撫でた。耳元で、小声で囁く。


「大丈夫だ、リーシュ」


 翼、か。リーシュの魔力は魔物の物だから、リーシュが魔力を高める時、その姿は天使のような翼の形で現れる事がある。


 そして、それを仕組んだのは連中だ。それは、間違いない。


 その話が本当だとするなら。俺がやらなければならないことは。


「お前は、何も気にするな」


「…………はい」


 リーシュは俯いて、俺の言葉に頷いた。


 人を背負って立つ。その意味を、重みを、俺はよく理解している。油断をすれば人を失う。俺達はどこかでいずれ、連中とぶつからなければならない時が来る。


 俺が、しっかりしないと。


「緊急警報です!! 冒険者の方は、東門に集まってください!! 緊急警報です!!」


 俺達は、声のする方に振り返った。


 緊急警報!? そんなもの、久しく聞いていなかったが……敵襲か……!!


 セントラル・シティでは基本的に、外敵などから街を守る役割は所属ギルドであるキングデーモンが引き受ける事になっている。だが、キングデーモンがその実力を以ってしても太刀打ちできない、或いは難しいと判断した時、こうして一般の冒険者にヘルプを頼む時がある。


 当然、報酬は普段のミッションから考えると段違いに良い……が、その分危険も付き纏う。俺達に拒否権は無いから、危険が付き纏おうが何だろうが、参加するしか無いんだが。


「グレン……!!」


「ああ、トムディ。魔物だ……!!」


 ラグナスは居ない。キャメロンは動けない。……このメンバーで行くしかないのか。


 俺達はすぐに、東門目指して走り出した。もう既に、俺達と同じように報告を受けて、東門に向かって走り出している冒険者が沢山居る。


 あのキングデーモンが、助けを求めるような魔物の群れ。


 間違いない。


 そこに、ノックドゥを襲った『人間らしき何か』が、居る……!!


「ま、魔物!? もうじき日も暮れるわよ!?」


「時間なんか関係ある訳ねえだろ!! ヴィティア、お前は後ろに下がってろよ、いいな!!」


 戦闘スキルを殆ど持たないヴィティアには、今回のミッションは重過ぎる。……くそ、ラグナスは来るんだろうな……!!


 トムディが俺よりも前に出て、笑みを浮かべた。


 ポケットから、魔法石を取り出して包み紙を開ける。


「僕の出番か……!!」


 なんだ……? いつも引っ込んでばかりのトムディが、いつになく強気になっている。我先にと東門目指して走って行く……!!


「おい、トムディ!! 相手の数はきっと多い、油断するなよ!!」


 俺の言葉に、トムディは振り返った。


 あの、怯えていた頃の面影が何処にもない。杖を握り、武者震いをしながらも、俺に向かって笑みを見せた。




「大丈夫さ!! この至高の聖職者が、あっという間にやっつけてみせるよ!!」




 自信。


 ……どうしてだ? いつからトムディは、こんな風になった……? 覚えがない。カブキに向かった時は、いつもと同じトムディで。


 リーガルオンとの一戦で、無事に連中を倒せた事が、トムディの自信に繋がっているのか。


 俺は、カブキでトムディが戦った相手との一戦を見ていない。スカイガーデンでも……それが実体を伴う自信だと言うのなら、良い。だけど、そうではなかったら……?


 偶然。幸運。そんな要素の絡むものだったら。


「ちょっと、トムディ!! 待ってよ!!」


 ヴィティアがそれを追い掛ける。


 至高の聖職者。


 その言葉を聞くと、どうしても最近見る夢の事を思い出してしまう。


 戦闘において、最もしてはならないのが『油断』だ。ほんの少しの、歯車の食い違い。たった一瞬の、気の緩み。そういう事が、現実の戦闘では色濃く結果に現れて来る。


 ……大丈夫なのか。


 嫌な予感が、止まらない。




 *




 東門に辿り着くと、俺は東門周辺に立ち止まっている冒険者を発見した。


 冒険者が固まっている。実際に最前線で戦っている冒険者は少ないという事か……? 敵の数が少ないからなのか、それとも立ち止まっている冒険者のレベルが足りていないのか。くそ、人混みで前が見えない……!!


「……あ!! 『零の魔導士』か!! クラン・ヴィ・エンシェントが探してたぞ!!」


 冒険者の一人が、俺を見てそう言った。


「グレンオード・バーンズキッドだ。教えてくれ、今、どういう状況になってる……?」


 問い掛けると、槍を持った男は苦い顔をした。


「キングデーモンが最前線で戦ってる。ヘルプで駆け付けたのは良いが、俺達じゃちっとも相手にならないんだ……戦えないと思った者は、後ろに引けって。それで今、この塊ができてる。あんた、強いのか?」


「さあな。強いかどうかは分からないが、俺にも見せてくれ」


 トムディがもう、前に消えている。今の状況が知りたい。


 どうにか、人混みを掻き分けて前へと進んだ。異様な魔力を感じる。その圧力に、並大抵の冒険者だったら足が竦んでしまいそうだ。……やっぱり、敵の数が少ないという事は無さそうだ。という事は、相手が強すぎるせいで、戦える冒険者が極端に少ないのか。


 ようやく、視界が開けて来る。東門の向こう側は草原になっていて、広く見渡せる、が――……


 前に出たは良いが、俺は立ち止まった。


 ……おい。……なんだ、この状況。


「グレン様!!」


「グレン、大丈夫!?」


 リーシュとヴィティアが、俺と同じように人混みを掻き分けて来る。見た事も無いような、凶暴そうな魔物の群れ。出会ったことはおろか、本ですら見た事が無いような、禍々しい風貌。その魔物の群れに対して、明らかに不釣り合いな人間の冒険者達。


 キングデーモンが、助けを求める訳だ。


 その先頭集団に対して、一直線に走って行く男が見えた。魔法で自身の数を増やし、敵陣に突っ込む――――…………


「トムディ!!」



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