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(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第十二章 千の種族と心を通わせる魔物使い(性別不明)
172/234

Part.171 ギルド結成?

6/16(金) 3/3


 師匠は、俺の母さんが死んだ瞬間を知っている。


「はいっ、まだ修行中の身なんですけど……グレン様の所で、頑張らせて頂いていますっ」


「…………そう、か」


 この姿。銀色の髪に、光る金色の眼。こんな姿で剣士と聞けば、鈍感な師匠だって不安になるに違いない。


 そして、その疑問は残念ながら、師匠の考えている通りだ。リーシュはあの時、俺の母さん――アイラ・バーンズキッド――を攻撃した人物なのは確かで。


 加えて師匠は、スカイガーデンで俺とリーシュに起きた事件の事を知らない。


 俺はリーシュの肩を引いて、俺の背後に隠した。


「それで、師匠は何の用事でここに来たんだよ?」


 問い掛けると、師匠はハッと気付いたような顔をした。疑惑は晴れない様子ではあったが、俺とリーシュを前にして、笑顔を見せた。


「あ……ああいや、あまりにも手紙の内容が内容だったものだから、元気でやっているのかと思ってな。どうだ、これから飯でも」


「是非。リーシュ、良いか?」


「はいっ、ご一緒できれば嬉しいです!!」


 突き抜けるようなあっけらかんとした笑顔に、師匠は微笑を浮かべた。リーシュの能天気ぶりが、師匠の毒気を抜いたようにも見えた。


 ……そのうち、師匠には説明しなければならないだろう。リーシュがあの時何を考えて、どうして母さんを攻撃したのか。他に人の手が介入していたこと。リーシュ自身に、当時の記憶が無いこと。魔物の血を引いていること。


 でも、今は駄目だ。リーシュと師匠の間に関係性が無い今の状況でそんな話をすれば、師匠は俺がリーシュに騙されていると感じるかもしれない。そうしたら――……俺達の関係が全て、崩れてしまう。


 リーシュだって、師匠に面と向かって敵意を見せられれば、平常心では居られなくなるかもしれない。


 だから、もう少し時間が経ってから、だ。


「師匠、『赤い甘味』って喫茶店、知ってる?」


「いや。名前くらいは、どこかで聞いた事があるかもしれないが……」


「ここ最近、お気に入りなんだ。良かったら、そこにしない?」


「おお。何やら可愛らしい名前だよな」


 俺は前に立って、師匠とリーシュを案内した。師匠が余計な事を考える前に、ある程度は勢いで押し切りたい。


 皆が俺に付いて来る。師匠も気にするのを止めたようで、スケゾーに話し掛けていた。


「ところでスケゾー。少しはチェス、できるようになったのか?」


「いーえ、これっぽっちも。駄目っスねあれは、オイラには全部トーテムポールに見えますよ」


「それは……本当に駄目だな……」


 懐かしい話題だ。それにしても、いくら何でもトーテムポールはひどすぎる。


「グレン!!」


 誰だ、俺の名を呼ぶのは。


 振り返ると、銀色の長髪を背中で纏めた男が立っていた。走って来たようで、その額には少しばかりの汗が見える。


「……ハースレッド?」


 ギルド・キングデーモンのギルドリーダー、クラン・ヴィ・エンシェントの仲間だ。驚くほど無口な男。……どうしてクランの側近は、皆無口なんだろう。


 そんなハースレッドが、珍しく声を張り上げていた。


「ここに居たのか、グレン。……悪いが少し、城に来てくれないか。君を探していたんだ」


 ハースレッドは師匠を見て、ふと顔色を変えた。


「貴女は……マックランド・マクレラン? ……龍使いのマックランドですか?」


「如何にも、私は魔導士のマックランドだが……どうした? その胸の紋章、キングデーモンのメンバーだな。事件か?」


「はい……丁度良かった。願わくば、大賢者マックランドにもご参列頂きたい」


 ……何やら、空気が物々しいな。


 ハースレッドは胸に手を当てて、険しい顔で言った。


「ノース・ノックドゥを守っていた、キングデーモン傘下の用心棒、フィディック・フールドルフが……先日、魔物との交戦にて、死亡しました」




 *




 魔物は、どんどん強くなっている。……いつか、こんな日が来るんじゃないかとは思っていた。しかし、俺が想像していたよりも遥かに早いな。


 キングデーモンの城には、嘗て無い程の重苦しい空気が流れていた。


「悪いね、グレン。……急に呼び出してしまって」


「ああ、良いよ。事情を聞かせて貰えるか?」


 俺はそう言って、導かれるままに城内の椅子へと座った。


 城に来たのは、俺と師匠、それからリーシュ。タタマには根気良くリーシュが説明をしたところ、今はちゃんとセントラル・シティの横にある森で待っている。らしい。


 何しろ、奴はリーシュにしか付いて行かないので、その真相もリーシュにしか分からないのだが。どうやって達成したのか、少し気にならないでもない。


 でも、今は後回しだ。


 クランは苦虫を噛み潰したような顔で、俺に言った。


「グレン。……事態は、困難を極める」


「魔物だな?」


「ああ、確かにそれもあるが……それだけじゃない」


 それだけじゃない?


「ノース・ノックドゥは知っているかな」


「ああ、セントラルの北にある……行った事は無いけど、存在は知っているよ」


「そこは、セントラル・シティのグループ内でね。サウス・マウンテンサイドなんかと同じさ……キングデーモンが護っている街なんだ」


「ってことは、キングデーモンはノックドゥに拠点を持ってる、って事だな?」


「ああ。城がある」


 来る時に、ハースレッドが少し説明していたな。という事は、フィディック・フールドルフって男は、ノックドゥの城に居た人間だ。恐らく、その場所のリーダー。


 キングデーモンは、ギルドの中でも最大手に近い巨大な冒険者集団だ。当然、その強さも群を抜いている……そんな連中の、言わばトップに近い人間が一人、負けた。そういうことか。


「そのノース・ノックドゥを護っていた、フィディック・フールドルフという男がやられた。こう言っちゃ何だが、うちのエースなんだ……遂に連中は、セントラル・シティとその傘下を攻め滅ぼす為に動き出した。これは、我々に対する宣戦布告なんじゃないかと思っている」


「ああ、そうだと思うよ。……しかし、大した魔物だな。キングデーモンに喧嘩を売ろうなんざ、正気の沙汰とは思えないぜ」


「いや、それが……」


 不意に、クランの顔色が悪くなった。俺は身を乗り出して、クランの言葉に耳を傾ける。


「…………人間、らしいんだ」


 俺は思わず、眉をひそめてしまった。


「人間?」


「恐らく。現地に居た人間の話だから、実際に私が見た訳では無いんだが……魔物の集団が攻め込んできたのは、間違いない。だが、その先頭に居た、最も被害を齎した存在は――……間違いなく武装した、二足歩行の存在だったと」


「それは有り得ない」


 そう言うのは、俺の隣に居る師匠だ。腕を組んで、鋭い目でクランを見ていた。


「集団の魔物が人間に従う、だと? そんな話は聞いた事がない。城を攻め滅ぼす程に大量の魔物を、契約で縛る事は不可能だ。もしもそんな事が可能なのだとすれば、そいつは例えば、そうだな……例えば、魔物の魔力を秘めた人間。そんな所だろう」


 クランはちらりと、リーシュを見た。


「……仰る通りです、大賢者マックランド。ですが、現実に魔物達はその人間と思わしき存在に付いて行き、共にノックドゥを攻撃したとの事です」


 ……何で今、リーシュを見たんだ?


 師匠は腕を組んで、溜息をつく。……俺は少し、クランの視線が気になってしまったが。


 偶然、か?


「そうか。……他でもないキングデーモンが言うのだから、間違いは無いのだろうな」


「ご理解頂き、ありがとうございます」


 師匠の推察は、間違っていないと思って良いだろう。基本的に魔法は、人間よりも魔物の方が得意とする。そんな魔力の高い存在を、そう何体も操れる訳がない。


 以前、ゴールデンクリスタルを手に入れたヴィティアが、ノーブルヴィレッジにオークやゴブリンを仕掛けてきた事はあった。……だが、ゴールデンクリスタル程のアイテムを使ってなお、集団で呼べるのは精々あの程度の、低級の魔物だ。


 ノース・ノックドゥは確か、マウンテンサイドと同じ、セントラル・シティに同盟を築いている国。キングデーモンだって、がっちりと態勢を作っていた筈だ。


 もし相手が人間だとしたら、そのたった一人の人間に、一国のギルドリーダーが落とされた。そういう事になってしまう。


 可能性があるとすれば、それだけの強力な魔物を従える程に魔力の高い人間――……魔物レベルの魔力を抱えた人間か、或いは魔物と仲良くなる素質のある、性質的に魔物の魔力を抱えた人間。どちらの場合でも、魔物級という事だ。


 ……それは、分かるけど。


「私はこれまで、魔物の強化について、魔王の存在を疑っていた。……だが今となっては、その可能性は薄いのでは、と考えるようになった――……もしも大量の魔物を従えるような力を抱えた人間が居るのだとすれば、これは間違いなく、人間の仕業であると」


 それは、確かに……そうかもしれない。ハースレッドがクランの後ろで、静かに唇を引き結んだ。


「……それで、俺が呼ばれたのは?」


「そうなんだ、グレン。そこで……今、我々の戦力はかなり衰えている。フィディックを失った事で、セントラルを護りながらノックドゥに手を出すのは、かなり無理がある状況なんだ」


 クランはテーブルを叩いて、立ち上がった。


「率直に言おう。……君のパーティーを全員集めてギルドを作り、ノックドゥの防衛に当たってくれないか」


 クランの提案に、俺は絶句した。


 何かを考えようとしたが、上手く言葉が出ない。クランは至って真剣に、この話を持ち掛けているように思えるが……正直、そんな話をされるとは思っていなかった。


「……ギ、ルド?」


 どうしようもなく間抜けな声が漏れてしまったが、この際、気にしない事にしよう。


「そう、ギルドだ。キングデーモンと同盟を結べば、特に実績が無くてもノックドゥをそのまま引き渡せる。君達にとっても、悪い話では無いはずだ」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。そんな、ギルド組む程のメンバーは居ないし……第一、俺よりももっと適任が居るだろ、そういうのは」


 俺がそう言うと、クランは首を横に振った。


「フィディックの時も、戦況は絶望的だった。そのまま戦えば、恐らく我々の負けだっただろう――……でも、そんな時に来たんだ。君の仲間が」


「……俺の仲間?」


「ラグナス・ブレイブ=ブラックバレルだよ」


 クランの言葉に、俺は驚いた――ラグナスが、ノックドゥに現れた。……まさか、助太刀したのか。確かにあいつなら、戦力にはなるかも……しれないが。


 でも、厳密に言うとラグナスって、別に俺のパーティメンバーではないような……どうなんだ。


「フィディックがやられた事で、キングデーモンのメンバーは全員、統率者を失い困惑していた。そこに彼が現れた――……見事なものだよ。あのフィディック・フールドルフをあっさりと倒すような化物を、まさか追い返すとは」


 まあ性格の良し悪しはともかく、ラグナスは冒険者としての技量だけで言えば圧倒的だからな。一人では不可能とも思えるミッションを楽々とクリアしていく様は、俺が見ていても驚愕するものがある。


 クランは悲しそうに笑った。


「……もしもフィディックがラグナス・ブレイブ=ブラックバレル程の技量を持っていればと、何度思ったことか」


 いや、でも厳密に言うとラグナスって、俺のパーティメンバーでは無いんだけどな……。


「今このセントラル・シティで、君達のグループがどれだけの影響力を持っているか、考えてみて欲しい」


 俺は喉を鳴らして、クランの言葉に集中した。


「グレンオード・バーンズキッド。ラグナス・ブレイブ=ブラックバレル。キャメロン・ブリッツ。チェリア・ノッカンドー。これだけの面子が揃っている。君達はもはや、セントラル・シティでも一、二を争う冒険者集団なんだ」


 その言葉に、俺は驚愕した。


 まさか、と思った。


 ――――――――まさかクランが挙げたメンバーに、正式な俺のパーティメンバーが一人も居ないなんて。


 何だこれは。一体、何の冗談だ。


「……ちょ、ちょっと待ってくれ。あのなクラン、それは大きな勘違いってやつで」


「いや、良いんだグレン。謙遜なんてしなくて良いんだ。私には分かっているよ、これだけの力があれば、ノース・ノックドゥを護る事など造作もないことだ」


「違うんだクラン。全然良くない。かなり問題だ。あのな、今お前が言ったメンバーは、別に俺のパーティメンバーとかじゃなくて、実は行動を共にしているただの友達で、冒険者依頼所でパーティ申請なんかしてなくてな」


「君はまた、そんな事を……冒険者依頼所でパーティ申請をしていな……」


 クランはそこまで言い掛けて、ふと言葉を止めた。立ち上がって俺と目を合わせると、ひどく間抜けな顔をした。




「――――――――ええええエェェェ!?」




 綺麗な顔が、台無しだ。



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