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Part.146 散り散りになって……!

 ここは危険だ。


 そう思うが早いか、再び広場に爆発が放たれた。避けたのかどうか……!? 鎧の兵士は見た所、そこそこ速そうだが、しかし……!!


「俺はお前に、どけって言ったぞ……!!」


 鎧の兵士が、剣を振り被る。俺はその剣が振り下ろされるよりも早く、鎧の兵士の懐に飛び込んだ。


「吹っ飛べ!!」


 下からアッパーを振り上げるように、拳を放つ。


「【笑撃の】――――【ゼロ・ブレイク】ッ――――!!」


 鎧の兵士を殴る一瞬、鉄の塊を殴ったかのような重さを感じる。……それは大丈夫だが、しかし。


 拳を振り抜き、鎧の兵士を再び、大通りの広場まで吹き飛ばした。鎧を殴った時に感じた、鈍い音。顔が見えないのも不自然だったが、やはり……この兵士には、中身が入っていない。


 兵士は地面に激突すると、バラバラに崩れた。これが、チュチュの使った【チョコットパペット・フィーバー】という魔法か。兵士の中身は泥の塊。差し詰め、泥人形を沢山作り出す魔法、といった所か。


 矢の爆弾に当たっていなければ良いが――……全員、無事だろうか。


 俺は再び、大通りへと出ていた。


「ぎゃああアァァァ――――!!」


 トムディ!? いや、それよりも……!!


 鎧の兵士の数が……尋常じゃない……!! ざっと見て二十体は居るだろうか、しかもどんどんと数を増やしている。頭上では踊るように杖を振り回しているチュチュ。そして、あちこちで起こる爆発。


「グレン様!! 大丈夫ですか!?」


 リーシュが叫んだ。どこに居るんだ……!? いた。鎧の兵士に向かって、剣を振っている。


「ぬうおおおおぉぉぉ!!」


 気合一閃、キャメロンが鎧の兵士を投げ飛ばした。だがキャメロンの位置も、リーシュ、トムディとは違う所に居る。大通りの真ん中に鎧の兵士が産まれるせいで、バラバラに戦わざるを得ないのか……!!


「ひいいいぃぃぃっ!!」


 戦えないチェリアは、鎧の兵士から逃げ回っている。


 これだけの数を……たった一人で操っているって言うのかよ……!?


「はい、もいっちょいってみようっ!!」


 そう言って、チュチュは手を叩いた。


 敵は二人。ミューを敵の頭数に含めるなら、まだ三人がどこに居るのか分からない状況。


 サングラス野郎は、あの金色の建物に居ると見て、まず間違いないだろう。飛んで来る矢は全てあの場所からだ。……だが、この位置から奴を攻撃するのは無理。リーシュなら可能かもしれないが……自分の身を守るのが精一杯の様子だ。


 黙っていれば、広場はすぐに焼け野原になる。鎧の兵士だけならまだ良いが、矢の攻撃による爆発もある。このまま、永遠に避け続けるのは無理だ。


 俺が魔力に敏感なのを知ってか知らずか、連中はまるで魔力反応を見せずに、これだけの攻撃を先手で仕掛けて来た。


 ……罠、か。


 俺は、息を大きく吸い込んだ。


「皆、よく聞いてくれ!! このままここに居てもやられるだけだ!! 矢の爆発が届かない距離か、死角になる位置まで逃げるんだ!!」


 唯でさえ、穴だらけ弱点だらけのメンバーだ。こうなる事は、避けたかったが……敵も馬鹿じゃない、という事か。何れにしても、全滅するよりマシだ。


 俺は、金色の建物を指さした。


「あの、金色の建物で会おう!! どうにか敵の攻撃を掻い潜ってくれ!! 頼む!!」


 俺の所にも、鎧の兵士が向かって来る。俺は剣の攻撃を避けながら、仲間達を見た。


「ああ、分かった!!」


 金色の建物に最も近いキャメロンが、俺を見て頷いた。


「了解わかったまた後でっ!!」


 言うが早いか、トムディは背中を見せて、とてつもないスピードで逃げ出した。


「グレン様、お気を付けて!!」


 リーシュも無事だ。前線を引いて、下がる。


「先に向かっていてください!! 後で、必ず!!」


 チェリアも、物陰に消えた。


 俺はそれを確認して、敵に背を向けた。チュチュ・デュワーズとかいう女は非常に頭に来るが、今は全滅しない事が最優先だ。下僕を作り、本体は逃げる手段を持つ魔導士。……そういう事なら、接近戦主体の俺かキャメロンならどうにかなる。


 思い出した。転移魔法以外に、瞬間的に移動する魔法がある事。……マイナーな魔法だから、すっかり忘れていたぜ。


「あらら、それでどうにかなるのー? ま、私は別に構わないけどねー」


 チュチュは笑いながら煽って来るが。……人をおちょくるような事ばかり言いやがって。あの女、後で絶対に痛い目見せてやるからな……!!




 *




 トムディ・ディーンは、迫り来る追っ手から全力で逃げていた。


「うおおおおオォォォォ!!」


 意外にも、鎧の兵士は動きが速い。町を抜けると、再び森の中へと入ったトムディ。だが、鬱蒼と生い茂った木々の間にある道を、確かに追い掛けてくる存在があった。


 浮遊する三日月に乗った娘が、面白半分でトムディを追い掛けてくる。


 トムディは泣きながら、後方の兵士と娘に向かって叫んだ。


「ん何で僕の所に来るんだよおおオォォォォ!!」


「えー? 面白そうだからー?」


 冗談じゃない。少なくとも仲間は、五人は居たのだ。例え、あの金色の建物の屋根から弓士が狙っていたとしても、散り散りに逃げてしまえば位置的に追う事は出来ない。という事は、あの場で自由に動けるのはこの娘一人だったのだ。


 バラバラになったメンバーの中、トムディを追って来たという事実。トムディは、既にパニックを起こしかけていた。


「ほら、見てみて!! 鎧の兵士がこんなに増えたよ、ほらほら!!」


「ぎゃああああアァァアァ――――――――!!」


 トムディの走る速度が、更に二倍程に跳ね上がった。


 一本道は、どこまでも続いている。廃墟の町を出てからというもの、もうずっと同じ光景だった。どれだけ走ったのかも、もはやよく覚えていない。


 ただ、このまま進めば、背の高い山に辿り着く。登り坂になれば、逃走は明らかに不利になるだろう。……どうにかしなければ。


「トムディさんっ!!」


 声がして、トムディは左を向いた。


「……リーシュ!? なんで君がここに!?」


 リーシュは走りながら、トムディに向かって首を傾げた。


「さっきから居ましたよ?」


「言っとけよおオォォォォ!! 一人で逃げてると思ってただろおオォォォォ!?」


 思わず、トムディは叫んだが。


 しかし。リーシュが居れば、心強い。トムディは胸を撫で下ろすような思いで、ふと一瞬、安堵したが。


 グレンオード、キャメロン、チェリア。トムディとの組み合わせで威力を発揮するメンバーはとても多い。そんな中。


「なんでリーシュなんだろうなあ……」


「トムディさんっ!? どうしたんですか、急に!!」


 相変わらずの間の悪さに、思わず涙を流したトムディだった。


「あはははは!! 逃げろー!! 逃げろおー!!」


 高笑いをして、チュチュ・デュワーズと名乗った娘が追い掛けて来る。トムディは意を決して、リーシュに言った。


「良いかい、リーシュ。僕達は今、最も危険な状況にいる……!!」


 リーシュは頷いて、喉を鳴らした。


「確かに、迷ってしまいそうな森ですね……」


「そこじゃないよオォォ!!」


 やはり、作戦を相談しようにも、リーシュが相手ではどこまで理解されているのか心許ない。そう思ったトムディは立ち止まり、背中の杖を抜いた。


 咄嗟の事に、鎧の兵士達が立ち止まる。今の今まで逃げていたのに、チュチュは驚いているようだった。


「……へえー? 私と戦うつもり?」


 大丈夫だ。自分なら、できる。トムディはそう自分に言い聞かせて、腹を括った。


「当然だ!! 僕が何のためにここに来たと思ってるんだ……!! お前を一人にするために決まってるだろ!!」


「なっ……!?」


「僕にだって、必殺の魔法があるのさ……!! 舐め切った事を後悔するんだな!!」


「な、なによ……!!」


 三日月に乗ったチュチュがトムディの余裕に驚いて、身を引いた。トムディは不敵な笑みを浮かべ、杖を構え、左手をポケットに突っ込んだ。


「この森が、お前の墓場――――――――」


 勢い良く、トムディの左手がポケットを貫通した。


 トムディは、固まった。


「ひゃあっ!! 防御してぇっ!!」


 チュチュが、鎧の兵士を盾にする。


 トムディの左手は、何もない空間を弄る。自信満々の笑みを浮かべたままトムディは硬直し、チュチュの兵士もまた、チュチュを守るために動きを止めていた。


 ……その場に、静寂が訪れた。どこかで弱い蝙蝠の魔物が、甲高い声を上げているのが聞こえて来る。雨は降っていないが、分厚い雲は空を覆い、いつ雨が降り出してもおかしくない程の暗さだ。


 トムディの鼻から、鼻水が垂れた。


「…………えっ?」


 恐る恐る、チュチュが鎧の兵士の背中から顔を出す。トムディは何が起こったのかまるで理解できず、何もない虚空に目を泳がせたが。


 やがて。杖を背中に戻し、トムディはチュチュに向かって、照れ臭そうに笑った。


「……『ハッカバン』、っていう、肩こりによく効く湿布があってね? この森で、君にも是非、使ってもらいたいなあっ!!」


 トムディの乾いた笑いに、世界が止まった。


「ぬうおォオォォォォォォ!!」


 時間が動き出すのが早いか、走り出したトムディの方が速いか。再びチュチュに背中を向け、全力で逃げるトムディ。訳が分からずトムディを追い掛けるリーシュが、背中からトムディに声を掛けた。


「あのっ!! トムディさん!! 『ハッカバン』ってどこに売ってるんですか!? 私、おばあちゃんに買ってあげたいのですが!!」


「うるさあああぁぁぁぁいっ!! 僕に構うなあアァァァァ!!」


 何故だ……!? トムディは、思考を巡らせた。魔法石のキャンディーは、ここに来る前に『スカイガーデン』で山程買っておいた筈だ。それなのに、何故ポケットに入っていないのだろうか。


 船でチェリアに見せた時には、まだ魔法石はあった筈――……


 その時、トムディは気付いた。


『ぎゃああああアァァッァアァ!! 魔物だあああうわあアァァァァ――――――――!!』


『ああっ……!? トームデーィ!!』


 船でサメの魔物に襲われた。……その時、トムディの服にサメが噛み付いた。


 あの時に、孔が空いたのではないだろうか。


 ……トムディは、言葉を失った。


「トムディさんっ!! 逃げていても埒が明きません!! 立ち止まって、戦いましょう!!」


 リーシュの言葉に、トムディは俯いた。


「リーシュ。……君に、今この場で最も重要な事を、僕は話さなければならない」


「……は、はいっ!? な、なんでしょう!?」


 もはや、どうとでもなれ、である。


 トムディは、満面の笑みをリーシュに向けた。


「この島で……僕は、何の役にも立たない……!!」


 そう言って、親指を立てた。


「えええぇぇぇぇぇっ!? な、何言ってるんですかトムディさんっ!!」


 仕方が無いのだ。トムディは泣きながら、森の中をひた走った。


「曲り道を見付けたら、そっちに進もう……!! どこかでグレン達と合流するんだ!! もうそれしか道はない!!」


 リーシュが、不安そうな表情を見せた。


 ごめん……ごめんよ、グレン。トムディは、心の中でグレンに謝った。この島で僕は――……僕達は、君の役には立てないかもしれない。


 トムディが、そう思っていた時の事だった。


「わかりました。私が、鎧の兵士を一掃します……!!」


 リーシュは立ち止まり、再び鎧の兵士に向かって振り返った。


 思わず驚愕して、トムディは立ち止まった。


「……今度はお姉さん? また、変なお茶の濁し方するつもり?」


 先程のトムディを見て、チュチュは若干不満そうな顔をしていたが。


「な、何を言ってるんだ、リーシュ……!! 君が使える魔法って、あのちっちゃい衝撃波を飛ばす奴か、尻に剣を刺す魔法だろ……!? 魔力のコントロールが利かないんだから、一人じゃ駄目だって!!」


 思わず、トムディは止めてしまったが。リーシュは前だけを見て、トムディに言った。


「はい、魔力のコントロールは利きません。……なので、『全力で撃ちます』」


「はあっ!? 撃つって、何をさ!!」


「後、お願いします……!!」


 訳の分からないトムディだったが。


 リーシュは剣を抜き、構えた。怒りを覚えたチュチュが、鎧の兵士を動かし、リーシュの前に出す。


「なんだか分からないけど、やってみたらっ!? この数の鎧の兵士さんを、突破できるならね!!」


 鎧の兵士が、リーシュに総攻撃を掛けた。


「や、やめろってリーシュッ!! スカイガーデンの時とは違うんだよ!? 今の、君の力じゃ……!!」


 リーシュは、剣を構えた。


「【アンゴル・モア】ッ――――…………!!」



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