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(前略)あまりもの冒険譚! - 俺の遠距離魔法が、相変わらず1ミリも飛ばない件。 -  作者: くらげマシンガン
第九章 微に入り細を穿つ(のかどうかは不明な)メカニック
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Part.136 グレン様は立派な冒険者です!

 攻撃は、一瞬。しかしその破壊力は凄まじいもので、『スルメ』とかいう紛らわしい名前の魔物は内側から光り始めた。


 俺とラグナスはスルメを越え、浅瀬へ。凄まじい光に、目が眩むようだ。俺の爆発魔法と、ラグナスの放った【ヘビーブレイド】という剣術が、相乗効果を発揮している。


『ギルド・ストロベリーガールズ』のメンバーを、小脇に抱え。俺達は振り返った。


「ウオオオォォォォォ――――――――!!」


 刹那、海は光に包まれた。


 それは、たった一瞬の静寂。その瞬間だけは、音が消え、物が消える。直後に訪れる爆音に、誰もが耳を塞いだ。


 一撃か。見た所、ストロベリーガールズの面々はかなり苦戦している様子だったが――……やっぱり、『二十%』は凄い力だ。共有を解除すると、強烈な倦怠感に襲われたが。


 それでも以前とは違い、倒れるまでには至らない。


 爆風が、頬を撫でる。砂が舞い、目を閉じた。俺は浅瀬に居ることを利用して、簡易的な水のバリアを作り、自分達を護る。……まあ、この程度の砂なら、被った所で死にはしない。大丈夫だろう。


 水のバリアを解くと、辺りは元に戻っていた。巨大な『スルメ』は倒れ、目を回していた。……食えるのかな、こいつ。


 ストロベリーガールズの女の子達を立たせ、俺とラグナスは解放し、砂浜へと戻る。


 ふとラグナスが目を閉じ、不敵な笑みを浮かべた。


「…………フッ。俺の剣が決め手だったな」


「はあ!? どう考えても俺の方が早かっただろうが!!」


「貴様の目は節穴か? 俺の【ヘビーブレイド】が魔物を一刀両断するのを見ていなかったのか?」


「俺が【笑撃のゼロ・ブレイク】で殴った後だっただろうが。お前のはオマケだ」


「何だと!? どう見ても貴様の方がオマケだっただろうが!! いや、オマケ以下だ!! 貴様の技はレストランのお子様セットに付いているプリンみたいなものだ!!」


「んだとてめぇっ!! お前の技なんかお子様セットのプリンの蓋レベルじゃねえか!!」


「蓋ァ!? 貴様そこに直れ!!」


「うるせえお前が直れ!!」


 全くこいつはいつも、勝負事を持ち掛けて来やがる。……いや、俺も乗っているんだから人の事は言えないが。


 若干、このやり取りも楽しく感じられてきた俺であるが。


「……どうして、助けたの」


 俺とラグナスは言い合いを止めて、話し掛けてきた人物を見た。


 ……ノア、か。


 助けた女の子達も、ノアの後ろに回った。少し離れた場所で、ミューが俺達の事を見ている。


 ノアは少し疲れたような様子で、しかし俺達の行動が不思議でならないようだった。不機嫌そうな顔をして、俺達を見ていた。


「別に、こんな事をされても嬉しいとか思わないけど。……わざわざ危険を冒してやるようなこと? 誰も評価しないのに?」


 きっとこいつは、人の顔色を窺って生きて来たんだろうなあ、と思う。


 周囲に同調する事で、仲間を作る方法を覚えた。きっと皆、普通はそうなんだろう。その中で、ミューの行動は確かに浮いていた。だから、怒りを覚えたんじゃないだろうか。


「まあ俺とあんたは、違う人間だからな。理解できない事も多いだろうな。……俺は本当に良いと思ってないと『良い』とは言わないし、分かって無ければ『分かる』とも言わねえと思うからさ」


 きっとその言葉は、ストロベリーガールズの不満を買っただろう。


 だから俺は、ノアに笑顔を見せた。




「良いんじゃないか、それでも」




 ノアは、目を見開いた。


 俺は、ミューに手招きをした。ミューは背後を振り返って、左右を見て、それが間違いなく自分に向けられたものだと分かると、俺に向かって、『私?』というジェスチャーを見せた。


 いや、お前しか居ないだろ。良いからさっさと来いよ。


「…………クソゴリラ」


 ノアは少し悔しそうに、そんな事を言っていたが。


 ミューが現れると、俺はミューの頭に手を置いた。ぽすん、という小気味良い音と共に、ミューの身体をストロベリーガールズの面々に向ける。


「で、どうするんだ? 本当に仲違いするってんなら、俺のパーティーに呼ぼうと思うけど。……あ、まあでも、もうミューは俺のパーティーメンバーみたいなもんか?」


 むっとして、ミューが横目で俺を見た。


「……誰も、入るなんて……言ってない」


 よしよし、計算通りだ。


「だそうだ。まあ話せてないうちは、分からない事も多いと思うけどさ。大丈夫だよ、個性は仲良くなる障害にはならねえから。……そうだろ?」


 ラグナスに振ると、ラグナスは笑い。


「……当然だ」


 静かに、そう言った。


 ミューは頬を膨らませて、大層ご不満な様子だった。不意に猛烈な勢いで俺の頬に手は伸び、その手は俺の頬を。


「痛いんだが」


「調子に……乗りすぎ……クソゴリラ……」


「お前もそれ言うの!?」


 ラグナスが俺を指さし、嘲笑を浮かべた。


「そうだぞクソゴリラ。やはりさっきの攻撃は、俺の方が速かった。そろそろ負けを認めたらどうだ」


「クソゴリラと攻撃の速さは何も因果関係を持たねえよ!! このプリンの蓋が!!」


「黙れゼリーの蓋が!!」


「なんだと!?」


 ミューがノアの近くに寄って、言った。


「ほら……ラグナス一人より、二人の方が美味しいでしょ……」


 そう言うと、ノアが青い顔で俺達を見る。


「え……何? もしかして二人……デキてんの?」


「何もできてない!! 一切できてない!!」


 いきなり何を言い出すんだこいつは!!


 ラグナスが少し得意気な顔をして、ノアとミューに言った。


「まあ、グレンオードは俺の唯一無二のライバルだからな。ライバルと書いて相棒とも読む」


 ものすごい勢いで、女性陣が引いていた。


「ち、違うっ……!! 相棒っていうのは、そういう意味じゃなくて……!!」


「何を言うかグレンオード貴様!! 貴様はライバルである事すら認めないと言うのか!?」


「黙れお前のせいで俺の黒歴史がまた増えるだろうがアァァァァ!! 違うからなっ!? 俺は断じてそういうのじゃないからなアァァァァ!!」


 揉めている事に気付いたのか、リーシュとヴィティアが駆け寄って来る。いつまで経っても戻って来ないからだろう。


 はっ……!? そうだ!! 俺は先に来たリーシュを捕まえると、ノア達の前に立たせた。


「ほら、見ろ!! この娘もうちのパーティーメンバーだ!! 俺はどこにでもいる、普通の冒険者なんだよ!! なっ!?」


「……そ、そうよね。流石に、女の子がいたらそういう関係にはならない、わよね」


 若干引いているが、ノアは納得してくれたようだった。……まあ後は、時間が解決してくれるだろうか。例えゲイだと間違われるにしても、ラグナスだけは絶対に嫌だ。


 リーシュが背中越しに俺を見て、そして――――笑みを浮かべた。




「そうですね!! グレン様は両刀の、立派な冒険者です!!」




 リイイィィィィ――――――――シュ!!




 ああっ……!! ミュー以外の冒険者が離れて行く……!! 違うんだ、待ってくれ!! 待ってくれえエェェェェ――――!!


「リーシュ!! 両刀って何だアアァァァァァ!!」


「えっ……だって、力も強いですし、魔法も使えますし……」


「だったらそう言えば良いんだよおオォォォォ!!」


 スケゾーが思わずといった様子で吹き出した。


「ぶふっ。……両刀クソゴリラ。……くひひひひ」


 俺はスケゾーを殴った。


 くそおぉぉぉ!! 今回わりと良い感じだと思ったのに、どうしてこうなるんだよおぉぉぉぉっ!!


 俺はっ!! ノーマルだああアァァァァァ――――――――!!




 *




 ミュー・ムーイッシュは堤防の上から、マリンブリッジの海を見詰めていた。


 無事にフィッシング・バーベキューも終わり、『ギルド・ストロベリーガールズ』の旅行も、残すイベントはもう何もない。膝の上には、水晶のようなアイテムがあった。ミューはそれを撫でながら、考えていた。


 言葉にはしない。だが、自分が請け負った任務については、遂行しなければならない。


 例え、どこに居ようとも。


「それか? 捜してたアイテムってのは」


 不意に呼び掛けられて、ミューは振り返った。


 グレンオード・バーンズキッドだ。このマリンブリッジ・ホテルで出会った、気の良い青年。どこか心を許してしまう気さくな男で、その優しさに、ミューは救われたような気がした。


「……そうね。……助かったわ」


「大切な物だったんだな、やっぱり」


 そう言いながら、グレンはミューの隣に座った。


「これは……『ダウジング・ミラーボール』……。魔力を持たない物なら、世界中のどこにあっても、居場所が特定できるモノ……」


 ミューがそう言うと、グレンは素直に驚いていた。


「マジか……!! それは、すごいな……!! 何でもか!?」


「東の島国の……遺産……。私、東の島国……『カブキ』出身だから……」


「……そうなのか」


 グレンは、少し複雑な顔をした。ミューの言葉に、何かを察したのだろう。ミューは、『遺産』だと言った。つまり、『カブキ』という街はもう無く、それが亡き家族の遺品である事に気付いたのだ。


 外見はがさつな印象があるのに、実は細やかで、繊細な所にすぐ気が付く。ミューはそんなグレンの性格に、救われていた。


「……他の人は?」


「あー、なんか観光してるよ。俺達は、この旅行も最後の日だからな」


「そう……私もだわ……」


 潮風が、ミューとグレンの間を通り抜けた。


 グレンが何かを言い出そうとしているのは、明らかだった。ミューもまた、グレンに伝えたい事があった。


 ミューは、グレンの言葉を待った。何か重要な事を聞こうとしているのが、ミューには分かったからだ。


「……あのさ。お前、『交霊術』だっけ? ……使えるんだよな。なんか色々言ってたけど、つまりは現世に残っている霊しか呼べない、って事なんだよな」


 その言葉に、ミューは頷いた。


「そう……それと、私が出会った霊しか……呼べない……。私は、霊が見えるから……」


「そう、なのか。……じゃあさ」


 不意に、グレンはポケットから、小さなロケットを取り出した。開くと、そこには幼い頃のグレンと、その母親と思わしき女性の姿があった。


 グレンは少し言い辛そうだったが、苦笑して言った。


「その『ダウジング・ミラーボール』とやらで……この人の身体を探す事は、できるかな」


 ミューは顔を上げて、グレンを見た。


「魔力があると、邪魔されてしまって……見付けられない」


「魔力は無いよ。……この人、もう死んでるんだ」


「なら、できるけど……良いの?」


 そのようにミューが問い掛けたのは、グレンの顔色を窺っての事だった。


 グレンは、とても辛そうな顔をしていたから。


 だが、グレンは笑った。


「もう、見付からないだろうと思ってたからさ。……もし良かったら、頼みたい」


 その言葉には、何かの覚悟を感じた。ミューは頷いて、『ダウジング・ミラーボール』に向かい、呪文を語り掛けた。


 それは、セントラル大陸には無い言葉だ。当然、グレンには何を言っているのか分からないだろう。……これもまた、セントラル大陸の人間が言うところの『呪い』の一つだったからだ。ミューはグレンの求めているものを探し、そして驚いた。


「……見付からない」


 ミューがそう言うと、グレンはすぐに立ち上がった。


「そ、そうか。悪かったな、変なこと頼んじゃってさ。……さすがに、もう遺体なんか残ってねえよな。……昔の話なんだ」


 そうではない。


 ミューは喉を鳴らして、グレンを見た。その眼差しに驚いて、グレンが固まる。


 伝えるべきか。……それとも、隠しておくべきなのか。


 しかし、隠した所でどうしようもない。


「……この人、まだ……魔力を、持ってる。無い訳じゃない……まだ、生きてる」


 グレンは、その場に固まり。




「――――――――えっ」




 と、小さく、そのように呟いた。


 沈黙が訪れた。グレンとミューの周囲には、人が居なかった。砂浜では、まだ戯れている男、女――……。もうじき日は落ちて、ここには誰も居なくなるだろう。


 遠くで、グレンを呼ぶ声がした。


「グレン――――!! 何してるの――――!?」


 ヴィティア・ルーズと名乗った、金髪の少女だ。思い出したように、グレンは唐突に動き出した。


「よ、呼ばれたから、もう行くよ。……とにかく、ありがとう。助かった」


 グレンの用事は、終わった。だが、ミューの用事はまだ残っていた。


 マリンブリッジ・ホテルを出てしまえば、グレンの居場所を探す事は困難になってしまう。グレンは既に、ミューに背中を向けて走っていた。大きな声を張り上げるのは、ミューの最も苦手とする所だ。


「あの…………!!」


 だが、ミューは言った。


 ミューが声を掛けた事で、グレンオード・バーンズキッドは立ち止まった。


「……おう?」


 自分には、任務がある事を知っている。探さなければならない人間がいた。それは分かっていたが、どうしても、彼とは繋がりを保っていたいとミューは思っていた。


 どうしてだろうか。


 それは、彼が今までに出会った事が無い程に、優しい男だったから、だろうか。


 そこまで考えた時、ミューは気付いた。


 ――そう。グレンオード・バーンズキッドは、優しい男だった。


 少なくとも、ミューにはそう感じられた。


 だから、ミューは言う事にした。


「もし、良かったら……また、会いたいのだけれど……」


「会う?」


「私、『呪い』の事を教えたでしょう……あなたに『捜し物』、手伝って貰ってないわ」


 素直になれないミューだったが。


 だが、彼ならば知っているはずだ。フィッシング・バーベキューでの一件を、ミューも見ていた。『ビッグ・ホワイトナガス』を食い止めるのは、そう簡単な事ではない。間違いなく、名前の通った魔導士だ。


 それだけの魔導士ならば、同じ魔導士についての情報は、持っているはずだと。


「グレン、遅いよ。皆で、近くの飲み屋に行こうって話してるの。早く行こうよ」


「ああ。悪いな」


 ヴィティアが走って来た。ふと、ミューを見て言う。


「あ、何ならミューも来る?」


「あ、いえ……私は……パーティーメンバーが、居るから……」


「そうよね。そうだと思って、誘えなかったわ……でも、今度は一緒に行けると嬉しいな」


 ヴィティアは苦笑して、ミューに言った。


「ええ。……機会があれば、是非」


 ……どうして、この人達は、こんな笑い方をするんだろう。まるで、迷いなど何も無いかのような顔をして。


 ミューにはできない。不思議な、笑い方だった。


「悪いな、ミュー。……まあ、セントラル・シティに来てくれれば、俺達はいつもそこに居るからさ」


「セントラル・シティ?」


「ああ。ミッション以外の時は大体、『赤い甘味』に居るよ。声を掛けてくれれば、すぐに分かると思う」


 そうか。……ミューは、少しだけ心が暖かくなったような気持ちだった。


 そこに行けば、会える。セントラル・シティの、『赤い甘味』という喫茶店。そうして、探し人を見付けたら、今度は『ギルド・ストロベリーガールズ』を抜けて、新しい居場所を作っても良いかもしれない。


 グレンは笑って、言った。




「悪評が出回ってるからな。魔法が飛ばない魔導士――『零の魔導士』を探してるって言ってくれれば、セントラル・シティなら間違いなく見付かるよ」




 そう。何の呼称なのか分からないが、『零の魔導士』さえ見付けて、処分してしまえば。


 零の――……魔法の、飛ばない――――…………。


 ミューは、その場に固まった。グレンは「それじゃ」とだけ言って、仲間の所へと向かって走って行く。


 そうして……ミューは、何も言えなくなった。


 ただ去り行くグレンオードの姿を見ている事しか、彼女には許されていなかった。




ここまでのご読了、ありがとうございます。

第九章はここまでで終了となります。


第十章、派手にスタートさせられればと思っております。

よろしければ、次章もお付き合い頂ければ幸甚です。


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