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4.

(・・・話がSFになってきた。)

こっそりと思った有珠の顔をちらりと見て、ユニコーンが話を引き継いだ。


「次元管理官てのが宇宙にはいてさ、そいつが次元の狂いを監視センターていうのかな、宇宙のある空間から見張ってるんだ。」


「・・・」

有珠は茫然とした。

時空震がある世界に生まれ、時空震に巻き込まれた人間だ。

相手が真実を言っているのだろうとは思うが、荒唐無稽すぎる。


ユニコーンは構わず説明を続けた。

「・・・それで、地球の周りの時空がおおいに狂っているのをみつけて、調査に来たんだそうだ。

奴は相当生真面目らしくて、全次元の歪みをただそうとしている」


有珠は首を傾げた。

「・・・それは、いいことなんじゃないの?」

(可能ならば)

「多分な。だが、時空震は地震と似ている、てあんたの世界では習ったか?」

「うん」


 たしか・・・揺り戻しが生じると。

そのことに気づいた有珠の瞳孔が大きく見開いた。

ユニコーンがちら、と有珠を見て、彼女の思い至ったことを肯定した。


「このまま放っておいても、いずれは大規模な揺り戻しが生じて、地球は全次元殆ど壊滅。

下手すると宇宙空間にまで大影響を及ぼすことになるんだろう。

次元管理官は、そうなる前に地球ごと次元の穴に埋めてしまって、次元を調整しようとしているんだ」


「・・・どうやって?」


トーマが引き継ぐ。

「次元管理官はこの世界の女王に、地球の全次元を任せる、なんて甘い口約束をして、彼女に次元調整の手伝いをさせようとしているんだ」


「具体的には?」


「時空震者は次元に影響を及ぼす。

ここは殊更に時空震者が多く出現する。

次元管理官は、女王の配下を使って、時空震者を集めているんだ」


「・・・どうして、そんなことを知っているの」

この人達はレジスタンスらしい。

でも、内部事情に詳し過ぎないだろうか。

有珠は疑問を口に出した。


「オレは元・次元管理官の手先で」

トーマはユニコーンの肩に腕をかけ。

ユニコーンがぼそ、と口の中で呟いた。

「オレは、こいつに捕まった、時空震者なんだ」


(・・・へ)

有珠のぽかん、とした顔を尻目に。

(というより、あえて気づかないふりをしたのかもしれない)


「オレは元々女王の部下で。

そこから次元管理官に貸し出されて、“卵”を狩っていた」

「 ・・・“卵”?」

「どの空間に定着していない、時空震者のことさ。

色々な次元の層を突き抜けて落下している最中、次の次元に定着する迄に捕まえると、そいつは生れ出たひよこのように、最初に見た奴の言うなりになる」


 ”卵”達は捕まった瞬間、布を頭から被せられて、彼らを管理している監督官の前で布を剥ぎ取られる。

その監督官こそ、女王が”卵”狩を命じたハンター達の責任者なのだ。

自我を喪っている彼らは監督官の名前から、”ハンプティ・ダンプティの卵”達と呼ばれている。


「ひどい・・・・」


「ある時オレは命じられて、他の奴らと共に、“卵”を捕りに出かけた。

だけど、そいつは落下速度が速くて、この世界に定着してしまった」

トーマはちら、と傍らの少年を見た。


 有珠もそっと傍らの少年を見た。

「そうすると、どうなるの?」

「意志力を持ち、この国の時間を支配することが出来る。」


 ユニコーンが口を挟んだ。

「その時は逃げ切れたんだけど、出現したばかりでまだこの世界に慣れてなかったから、オレは追跡してきたトーマに易々と捕まった。」


 今ならそんなことはないのに。

言外に悔しさがにじみ出る。

クラスメートの男子が、しょうもない優劣を競っているのを思い出した有珠は、ふ、と唇を歪ませた。

それに気づいたユニコーンが少し赤くなって、そっぽを向いた。


 トーマが続ける。

「その頃オレはもう、時空震から戻ってきた後だったから、この次元の時間が歪んでいることを知ってたんだ。

だから、次元管理官の、“世界を糺す”という言葉を鵜呑みにしていた」

ユニコーンも言う。

「ガッチガチの唐変木の”卵”採集官に、オレが時空震の大まかな仕組みを教えた」

 トーマが苦笑してみせた。

「最初理解できなかった。

この次元には大地が揺れ動く仕組みはないからな」

時空震者が訳のわからないことを主張するので、面倒になったトーマは次元管理官に突き出そうと思った。


(しかし)

「俺はこの世界の住人で、女王の配下だ。

だから、次元管理官を喜ばす前に、女王に報告出来るよう把握しておいた方がいいと思って」

(このまま、こいつを次元管理官に引き渡すのはまずい)

そんな動物的な勘が働き、とりあえずユニコーンを自宅に匿うことにしたのだという。


 そのうち。

「二人で話しているうち、次元管理官がやろうとしていることは、どうも、地球の上を這いまわっている俺達にとっては良くないことだ、ということに気が付いた」


(それはそうだ。)

有珠も彼らが反発した理由がわかったような気がした。


・・・宇宙という巨大なクジラから見れば、地球なんて蟻一匹の大きさすらないのだろう。

ましてや、蟻の胎内に寄生している微生物の存在など、話にもならない。

 ならば、微生物の立場から見たら、逆のことが言えるのではないか?

微生物(自分達)にしてみればどうせ死んでしまうのだ。

死んでしまった後の世界、宇宙がどうなったって知ったことではないではないか。

自分達が生きようが死のうが、宇宙は刻々と変貌し続けているのだから。



「それで二人で逃げ出した」

以来、次元管理官の企みを阻止すべく、動いているのだという。




 ふと気づいた。

「ちょっと待って。

じゃあ今度は、“卵”達を貴方達が攫っているの?」

有珠は怒りを感じながら問い詰めた。

それでは、時空震者にとっては自我の支配者が、単に女王側から、この人達に代わるだけではないか。


「確かにそうだけど、俺達は次元に歪みが生じる前に彼らを、彼らの元の世界に戻したいんだ」

トーマが慌てて弁解した。

「時空震者はこの国の時間を支配することが出来るが、“卵”はありとあらゆる空間に影響を及ぼす」


 空間に影響を与える人間を一つの空間に密集させたらどうなるか。

空間は揺らぎ、裡からの圧力に負けて、弾けてしまう。

弾けた空間は別の次元をも巻き込み、収束に向かう。


地球レベルの惑星が一つ消滅したところで宇宙には何の支障もない。


 それこそが次元管理官の狙いなのだ。

そうさせない為にも自分たちが時空震者を女王より先に見つけているのだ、と有珠に説明した。


 有珠はひとまずは納得したが、新たに浮かんだ疑問を口にした。

「ふうん・・・。

で?貴方達が捕まえた、”卵”達は?」

辺りを見回したが、洞窟には有珠とトーマ、ユニコーンしかいない。

(ジャングルの中、飛ぶように歩いてきたとはいえ、誰もいた気配がなかった)


 無論、この洞窟の中にも周辺にも3人以外の気配もない。

・・・女王の追跡を逃れる為、分散して隠れているのだろうか。


(もしかして)

なんとなく、ぞ、とした。

”卵”達とは幽体離脱した生命体のような物で、今この場にも多数同席していたら?

(こういう時は霊感ないの、感謝!)


が。

 ようやく有珠が自分の思考の池から浮上してきて、二人を見ていると、ユニコーンとトーマは目を見合わせ、俯き、あるいはそっぽを向いて、お互いをお互いの肘でつつきあってる。


(なによ、どうしたっていうのよ、なんなのよ)

有珠の険悪な表情に観念したのだろう、ようやくユニコーンがぼそり、と言った。

「あんたが初めてだ。

しかもあんたはこの世界に定着しちまった」


暫しの時が過ぎ。


「・・・は?」

有珠は口をあんぐりと開けたまま、閉じることが出来なかった。

ようやく発せられた一言。

「・・・今なんて、言った?」



 次元管理官も、トーマ達も”卵”を狙っている。

そしてトーマ達が初めて捕まえた有珠は定着し、”卵”ではなくなってしまった。

・・・すなわち、ユニコーン達側の”卵”はいまだ、ゼロ。

 ユニコーンがぼそぼそ、と補足する。

「トーマと逃げ出した後、初めて捕まえたのが、とにもかくにもアリス、あんたって訳さ」


「・・・今まで誰も捕まえられなかったの?」

(そんな鈍い人達に、全次元の地球を救うなんて大事業が出来るものなの?)

 有珠にまじまじと見つめられ、二人は薄らと赤くなりながら、小さく身を縮こませた。


「俺以降、初めて発見した時空震の光がアリス、あんただったんだ・・・」


 有珠がちょっと待って、とばかりに突っ込みを入れる。

「この世界にとって、ユニコーン以来の時空震者が私だけ?

そんな事、ないよね?

この次元にはしょっちゅう時空震者が落っこちてきてる、て言ってなかった?」


「いや、確かにユニコーンの次はアリス、君なんだ」

トーマが呟き、

ユニコーンがぼそぼそと言った。

「・・・一番高い山の頂きで見張ってるけど、確かに他に堕ちてない、とは言い切れない」

 その言い訳に、更に有珠が突っ込まねば!という気持ちになったのは止むを得まい。

「この次元って、一つの山から見張って、見渡せる程小さいの?」

その言葉に二人は、ますます小さくなった。


「・・・飛んだことはある。」

「?」

「どう飛んでも、見張っていた山辺りに戻ってきてしまうんだ」

「・・・結界が張ってあるて、こと?」

「かも、しれない」


(呆れた!)

結界が張ってある、ということは。

(完全に敵(?)の手の中で踊っているだけじゃないの!)


 面目なさそうな二人の様子を見れば、そう言った危惧も二人の中で既に話し合われているのだろう。


(それでも)

有珠は思った。

(この人達は二人でもこの次元を、地球を救おうと思ったんだわ)

念の為、二人の覚悟を聞いてみた。


「たった2人で世界に立ち向かうつもりなの?」

「いや、アリスを入れて3人だ」

開き直ったともいえるユニコーンの言葉だった。

彼らにとっては有珠はようやく見つけた仲間なのだ。


(危険な目に遭わせてしまう)

逡巡とともに、

(自分達に加わって欲しい)

そんな切実な願いもその声音には聞き取れるようであった。


 いずれにしろ、元の世界に戻る為には、何等かのアクションをするしかないのだ。

有珠は頷いた。

「わかった。貴方達を手伝う」


お読みくださいまして、ありがとうございます。ブックマークや皆様のお言葉が励みです。

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