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五つ目

作者: 八重

夏ときたらやっぱり怖い話。

てことで(いちおう)微ホラーです。ホラーといっておきながら後半シュールです。

いちおうホラー要素はあるので、苦手なかたはご注意を。

 なにがきっかけだったろう。彼女はふと記憶をたどる。なにか話していたはずなのだ。多いとは言わないがすくないとも言えないこの人数で、ひとりひとりがペンライトで己の顔を照らし、神妙な顔と口調で語りあるいは耳をかたむける、この暗がりを作り上げるきっかけを。そして自分たちは暗闇に身を寄せ、互いを驚かそうと企んでいる。思い出そうとしてもいっこうに思い出せないその会話は、開催しようという興奮に影が薄れたのか、またはほんとうにどうでもいいようななに気ないものだったのか。


 ペンライトの頼りなく細い明かりに収まる表情、肩をちいさくし輪になるそのそばらで、暗闇は音もなく呼吸をしていた。いやに暗闇が気になるのは、意気揚々と自分たちで作り上げたこの状況に、なんだかんだ言って恐怖しているからなのだろう。孤独をにおわせる静寂を浮き彫りにするかのように、雨の音が絶えず響いていた。そこそこの恐怖心を抱かせる怪談は、そろそろ終盤に向かおうとしている。


「もうすっかり怖くなって、彼女はすぐにそこから引っ越したんだってさ」


 意味ありげに含み笑いしてからそう締めくくった友人に、彼女の背中を軽いなにかが走り抜けていった。薄ら寒くなって、無意識に腕をさする。高校に入学してからはじめてとなる怪談。中途半端に賢くなった彼女たちは、できるだけ恐怖を与えようと知識を総動員させる。語り口調、顔つき、視線のひとつにすら気を配り、それらが実際にものものしい雰囲気を高めていく。そこに教師がいたなら、呆れながらそのベクトルを勉学に向けろと小言を落としたことだろう。


 トップランナーから順に怪談を展開し、灯っているペンライトの明かりは、残りふたつになった。そのすべてが消え、ほんとうの暗がりが落ちるなか、そっと数をかぞえれば……ひとり、増えているのだとか。いるはずのない五人目。そしてそれはえてして、冷気をまとう誰かだという。


「――次、サエコだよ」


 うながされ、サエコは神妙にこくん、とひとつうなずいた。最初はべたに語り慣れている「ロッカーの話」にしようとしたが、せっかく入学したばかりの高校である。――どうせならとびっきり怖がらせてやる、そう思いながら、できるだけ彼の口調やトーンを思い出しつつ、うっそうと口を開いた。


「これはね、大学生のUくんが、高校1年の冬休み、部活の合宿に行ったときの話。Uくんは美術部に所属してたんだけど、自然に囲まれながら風景画を描きましょうってことで、とある森のなかに建てられたコテージで一週間生活することになったの。顧問の先生がひとりに部員が四人の、全員で五人だった。近くには大きな湖もあって、ゴミなんかもいっさい落ちてなかった。風景画を描くには最高の環境だったんだって」


 最初の三日間はなにごともなくすぎていった。午前中から部員は思い思いの場所で創作していたし、集合時間もきちんと守っていた。基本単独行動だが、食事になればみんな集まったし、空いた時間や寝る前のちょっとした時間を使って遊んだりして、和気あいあいとその合宿を楽しんでいたのだ。しかし、U少年だけは、ひとり首をかしげることが多かった。見渡す限りの目にやさしい緑。その隙間からこぼれる木漏れ日はあたたかく、冬なのに春のような陽気さを感じた。太陽の光を反射してきらきら輝く湖は、素直にきれいだと思う。しかし――。


「最高の環境のはずなのに、いっこうにお気に入りの場所が見つからなかったんだって。三日間歩き回ったけど、いいな、って直感にひっかかる場所はどこにもなかった。つまり――描きたい、って思わせるほどの魅力を、感じることができなかったんだ」


 U少年はしかたがなく、適当な場所を見繕っては、デッサンだけをしていた。合宿と名打ってるだけあって、学校に帰ったら一枚絵を完成させて提出しなければならない。気に入る場所がない、だからといってなにもしないわけにはいかなかった。


「なんでだろうとは思ってた」


 こんなにも目に映る景色はすばらしいのに。なぜ。そして、さらに首をかしげる事態が発生する。


「なんだかね、先生がぴりぴりしはじめたんだって。朝ごはんのときはふつうだったのに、ふらっと森の奥にいって、帰ってきてしばらくぼうっとしはじめたと思ったら、急にだよ。それから、部員にあれこれ文句をつけだした。この絵は話にならないだの、もっとちゃんとこの森を描けだの、ほんとうにあれこれ」


 どんどん文句はエスカレートしていく。それに感染したかのように部員同士もぴりぴりしていき、ちいさい小競り合いまで出てきた。ついぞ我慢できなくなった部員がすこし反抗したとき、顧問は大げさなまでに激怒したのだ。


「そりゃあもうひどかったって。頭ごなしに怒鳴って、部員が描いてた絵を気に入らないってだけで破っちゃたりしたらしいよ。ふだんは絶対にそんなことしない、穏やかな先生なのに」


 これはおかしい。U少年はそう思った。自分が思うくらいだ、他の部員も――そう思ったのだが、実際は違った。


 最初は疑問からだった。先生はどうしたのか。次に責任のなすり合い。おまえがあんなことしたから先生は……それを言うならおまえだって……。不穏な空気が漂いはじめた。みな、なにかに追い込まれるかのようにして、ぴりぴりしていたのだ。ちいさなそれは立派な導火線への着火となり、やがて――大きく爆発した。


「その場に関係ないことまで持ち出して、ひどい怒鳴り合いになった。あちこちで汚い言葉が飛び交って、みんなぞっとするほどの形相だったんだ。でもそのうち、みんながUくんには理解できないことを言いはじめたの。――彼女は悪くないって」


 あちこちで同じ単語が聞こえる。彼女は困ってる、俺たちが助けないでどうする。俺が助ける。はあ? おまえが? むりむり。俺が行くんだよ。必要ねえよ、俺が行く。……彼女? この「彼女」が、U少年には理解できなかった。


「――その合宿には、女の子なんていなかったんだよ」


 ついには取っ組み合いの喧嘩にまで発展した。さすがに焦りを感じたU少年は、わけがわからないまま、事態を収拾させるにはとにかくおとなが必要だと、顧問を探しにいくことにする。怒鳴り散らしたあと、肩を怒らせながら森の奥へと入っていった、顧問を呼びに。


 早足で奥に進むにつれ陽がささなくなり、どこかどんよりとした雰囲気が漂いはじめる。どんどん空気は重たくなっていって、わずかに頭も痛みを主張する。そして、それは唐突に襲ってきた。


「めまいがするほどの悪臭。なんで今まで臭わなかったのかって疑問になるほどの、強い異臭だったんだって。肉が腐ったかのような、焦げているかのような、なんとも言えない、どろどろとした異臭……」


 耐えきれず腕で鼻をおおった。あたりを見渡しても、異物はない。ふ、と。奥のほうに視線を向けたときだった。ぞわり、全身に鋭い寒気が走り、毛が逆立つ。本能がけたたましく警報を鳴らした。――今すぐここから逃げ出したい。そう思わせるほどの「なにか」が、そこにはあった。


「目の前にね、先生がいたんだって……。その様子もどこか変で、生気がないっていうか……とにかく影が薄くて。先生は正座しながら、ぶつぶつと低い声でなにかをつぶやいてた。まるで誰かと会話しているかのように。――先生の前には、薄汚れたちいさな祠があったって」


 ひえっ……ちいさな悲鳴があがった。どうやら、うまく話に引き込められているらしい。たしかな好感触を感じながらも、ついついその話を聞いたときのことが思い出されて薄ら寒くなった。とくに特筆すべき表情を浮かべず、常に同じトーンでつむがれる「体験談」は、やたら臨場感に溢れる語り方よりもよっぼど真実めいていてぞっとした。リアルだと思わせるまでもなく、そう、「ほんとう」なのだと。歓迎できないいやな現実味を帯びているのだから、その日は夜中に目が覚めては泣きたくなった。寝返りを打つふだんは何気ない動作でも、ふっと意識がわずか浮上すれば自動的に恐怖が思い出されてしまい、ひどい疲労感とともに目覚めて朝っぱらから深いため息をつく羽目になった。好奇心は猫をも殺す。まさにその通りである。


「Uくんはそれ以上近づくことができなかった」


 近づけない、近づきたくない、この際そのどちらでもかまわない。今まで感じたこともないくらいの強い嫌悪感と拒絶心が、かたくなに足をその場に縫いつけていた。手のひらに冷や汗を握る。心臓が暴れ、自分の鼓動を身近に感じながらも、目だけはそらせなかった。視界に入る顧問の背中を通りすぎ、焦点は一路、祠に固定されてしまう。そうしていなければいけない。片時もそらしてはならない。そらしてしまえば――。本能が焦燥感とともに告げる。それだけはしてはいけない、と。


『せんせい……』、ひくつくのどを叱咤して、U少年は呼びかける。いまだに深くこうべを垂れ、ぶつぶつとなにかを呟いている顧問を。


「それでも先生は反応しなかった。だから今度は強めに呼んだの。『せんせい』。でもやっぱり振り向かない。だんだん焦燥感がおおきくなっていく。何度か呼んだけど、先生は振り向かなかった。そのとき……」


 ぞっ、と、たったの一瞬、ふたたび悪寒が走り抜けていった。いやな予感がする。今すぐ、そう今すぐこの場から逃げなければ……! 今すぐに……!


『先生!』


 U少年は滅多に出さない音量で、怒鳴りつけるように顧問を呼んだ。それと同時に、気がつけば体が動いていた。ふだんからは予想もつかない瞬発力で、いっきに顧問との距離を縮める。


「先生の腕をつかんだのと、〝それ〟を感じたのは、同時だった」



――くる!



 ほんの一瞬、沈黙が落ちた。視界の端で、顧問の頭が揺れたのをとらえる。ぶわっ……! 腹の底から強烈なまでにふつふつとわいてくる嫌悪感と拒絶心、このふたつが光の速さで全身を駆け回り出したと同時、U少年は顧問の腕をつかんだまま、引きずるようにして来た道を戻っていった。つまずいてもいい、転んでもいい、なんでもいいから、とにかく、全速力で駆けていく。


「走ってる最中にね、ずっと頭にこびりついて離れなかった映像があるの。――祠の観音扉から伸びてきた、青白い腕。長く尖った爪は毒々しい赤色。成人女性の貧相な腕。でもね、おかしいの。だってその祠……3歳くらいの子どもがようやく入れるぐらいのおおきさだったんだ」


 顧問の足は鈍かったが、かまっていられなかった。力が抜けている分走る速度は落ちるが、余計なブレーキをかけられることもない。


「走って走って走って。ようやく、明るいところに出られた。それはもう、Uくんはほっとしたって」


 顧問の腕を離し、膝に手をついて荒い呼吸を繰り返す。整えようと試みるが失敗に終わり、落ち着くまではとその態勢を維持することに。そのとき、ふ、と背中を撫でられた。一瞬息を詰めたけれど……。


「『だいじょうぶかー』ってのんきな声で心配する先生だったんだって」


 ぐるり、と頭を持ち上げて見上げれば、顧問は不思議そうな顔でたたずんでいた。さっきまでの異様な雰囲気は微塵もない。しまいには「どうした?」と能天気に聞かれる始末。


「なんかもう、どっと疲れちゃったって。愛想笑いのひとつも浮かべる気力はなかったから、それまでの八つ当たりも含めて「ほっといて」ってぶっきらぼうに返したの」


 いろんな力が抜けて、がっくりとうなだれながら、なんで自分だけがこんなに疲れてるんだ……となんともいえないもやもやと戦っているとき。「そうかー」ととくに気にもとめていない声を出しながら、顧問が彼の横を通りすぎる瞬間。ふと、視界に映った顧問の腕を、ほかの誰かがつかんでいた。


 自分の両腕は、自分の膝の上にある。顧問が自分で自分の腕をつかんでいるには、ありえない方角。青白く、骨の浮きだった貧相でいて不気味な腕。その爪は毒々しい赤色をしており、生気のまったく感じられないそれは――。


「Uくんは瞬時に気がついた」



――やつだ!



 ばっと顔を上げ、顧問を呼ぶ、そのわずかな間。はあ……と耳元にかかった生ぬるい風。野獣とも、ひととも言えぬ、なんともおぞましいうなり声。ひゅっと息をのみ、瞠目し、心臓が波打つ。唐突に理解する。〝これ〟は、顧問を……いや、自分たちを逃がすつもりはないのだ、と。その、次の瞬間。


『先生!』


 そう叫びながら、U少年は飛び起きた。……飛び起きた? そう、我がことながら、その事態にU少年の理解は遠かった。いつから自分は寝ていたのか。そもそも、なぜ、ワゴン車に揺られているのか。


「状況を理解できずにいると、『どうしたー?』ってのんきな先生の声が、運転席からしたんだって。見れば、先生が車の運転をしていた」


 U少年が困惑をあらわにすると、顧問も、部員も、さっきまでの不穏を微塵も感じさせず、おまえまだ寝ぼけてるのか、と笑いながら説明してくれる。


 いわく、合宿はもう終わったのだと。いわく、片づけもすべて終え、帰り支度もすませたのだと。いわく、今はその帰りの車中だと。いわく――なにも問題は起きていない、と。


「Uくんが目覚めたときすでに、あの森ははるか後方にあって、もう視界にすらなかった。たしかに妙だとは思ったけど、あんなことがあったなんて言える雰囲気じゃないし、なにより、言っちゃいけない気がしたんだって」


 U少年ばかりが首をひねっていたが、言い出す機会も完全に逃し、美術部はいつもの日常に戻っていった。


「それから何日も過ぎて、いよいよ作品を仕上げなきゃならないってなったときに、創作に取り掛かるべくデッサンを描き残したスケッチブックを取り出したんだ。合宿は理解できない出来事ばっかだったけど、そのスケッチブックを開いて、ひとつだけわかったことがあるの」


 風景画を描くには最高の環境だった。そのはずだ。しかし開いたそのスケッチブックには……。


「それが……開いたスケッチブックに描かれてるデッサンのすべてが、ほの暗くうっそうとした、不気味な風景画ばかりだったんだって」


 だからこそU少年は今になって言う。――目に映る景色はきれいに見えたけど、ほんとうの姿がこれだったから、描きたいと思わせるほどの魅力を感じることができなかったんだろう、と。


「こわ!」

「ひえー……」

「もうやだサエコってば! なんともない顔と声がよけいに怖いよ!」

「へへ、ごめんごめん」


 友人の突っ込みがあまりにも期待通りのそれで、サエコはしてやったりと笑いながら悪気なく謝る。もー! と文句を言われながらも、上々の反応に鼻も高くなる。猫をも殺す好奇心がこんなところで遺憾なく威力を発揮するとは。これだけの反応に、あの日の夜も報われたと気分がよくなるもので。いい気分のまま、サエコはペンライトの明かりを消した。これで、残りはあとひとつ。怪談はいよいよ、真骨頂を迎える。


「じゃあ、わたしは――」


 アンカーの登場である。走り出しは良好。途中速度を落とすこともなく、最後の怪談話は薄ら寒い冷気を運んでくる。かちっ、軽い音をたて、残されたゆいいつの明かりが、無情に消された。


「いくよ……?」

「う、うん」


 真の目的はここにあったのだろう。数をかぞえていく彼女たちの声は、自分たちで作り出した雰囲気に完全に飲まれ、ひどく頼りなく震えていた。


「い、いち……」

「に……」

「さん」

「よん……」


 一、二、三。注意深く耳を澄ませ、その間を通りすぎたとき、高まっていた緊張はいっきに解ける。みなが一様にほっ、としたような表情を浮かべ、しかしそのくせなにも起きなかったことに誰かが不満を落とそうとした、まさにそのとき。


「ご」

「……っ!」


 一転、その誰かが恐怖に息をのむ音がやけに響く。サエコはこのあとの展開を把握しているかのように、冷静に耳栓をはめた。一拍ののち、阿鼻叫喚。どたばたと椅子を机をなぎ払い、我先にと教室から逃げていく彼女たち。ふだんおっとりとした運動オンチな友人が見せたあの瞬発力は、しばらくトラウマになりそうである。


 ぱち、と軽い音がしたと同時、ぱっとするどい蛍光灯の明かりが教室内を満遍なく満たす。それは長らく暗がりに身を置いていたサエコにとって、少々刺激が強く、目を細める羽目になる。


「ふふ、まったくもって自業自得ですね。実にいい気味だ」


 聞こえてきたのは涼やかな声だった。その声を、彼女はよく知っている。たまに憎たらしい〝やつ〟にはもったいないくらいのよく通る美声。


「……で、あなたはそこでなにを?」


 満足いくまで冷笑した彼は、床にうずくまりぷるぷると震えるサエコを冴え冴えとした目で見つめ、ようよう触れてやる。しかし返答はなく、ただ手のひらをびしっ突き出されるだけに終わった。よく見ればもう片手で脛を押さえているではないか。彼女を中心に展開される机や椅子は悲惨な状態であり、その足元の近くにも椅子が横たわっている。弁慶の泣き所。つまりはそうなのだろう。ちょっとしたいたずらごころだったのだが、彼の気まぐれに立派な被害者が出ていた。思わず哀れみの目を贈ってしまう。自分がしたことを棚にあげる作業は得意だ。


 しばらくぷるぷると震えていた彼女は、やがて痛みの波が過ぎ去ったのか、ひとつ長いため息をついてから、すっくと立ち上がる。なにごともなかったかのように次々と椅子や机を片づけていくサエコだが、実はまだ脛はじんじんと痛みを訴え、己の悪運の強さにこころのなかでは号泣していた。しかし彼にこれ以上情けない姿を見せられないという意地がある。そのためなら、痛みなどなかったことにできる。色気のある理由ならまだかわいいが、ただ単に弱味を握られたくないという一心だった。


「それもまた自業自得ですね。おもしろがってろくなことをするものではないと、教訓になったでしょう」

「そうね。あの子たちは懲りたでしょう。けどそれも今だけ。一度味をしめたら、何度だって繰り返す」


 きれいに整えられた机と椅子を眺め、満足げにひとつうなづいた彼女は、最後に自身のカバンを手に持つ。


「理解できませんね。怪談のなにがおもしろいのか」

「あなたにとってはそうでも、彼女たちにとってはそうじゃないの」


――だって。


 言いながら、サエコはさっさと教室の出口に向かう。その付近にある照明のスイッチにす、と指を這わせ、暫時ぴたりと動作を止めてから、鮮やかなまでの笑みを浮かべ、彼を見上げる。


「百物語は、成功したもの」


 にこり、きれいな笑みを残し、ふ、と前置きなく暗がりが落ちた。そのまま帰宅の途につく彼女の頭上には、真っ赤な傘が踊る。思い出したように、耳から耳栓を外した。

お粗末さまでした。

お読みいただきありがとうございます。

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