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ウィンド・ブラス  作者: 神野 康
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引退演奏会

 春の陽気が暖かい三月の下旬のある日。

 場所は、とある練馬区のコンサートホール。

 規模が小さいうえに、いつもはマイナーな劇団などの公演で使用されるため、ホールにあまり人が寄りつくことは無い。

 だがこの日は違った。

 1500人ほどしか収容できないホールに無理矢理、客が満員に詰め込まれている。

 二階席には大量の立ち見の客がいるくらいだ。ざっと2000人は超えているだろう。

 客の間では、がやがやという会話がホールを包み込む。客の話声が少しうるさいという音量に達した。

 それと同時にホールにやけに大きな声で放送が入った。マイクを持ち、何処かの学校のブレザーを身につけた少女が壇上にあがった。

「本日は我が学校吹奏楽部の定期演奏会にお越しいただき、まことにありがとうございました。最後にもう一曲お楽しみください。アンコール曲としてお送りいたします。本年度の中学吹奏楽コンクール全国大会で金賞を受賞いたしました自由曲。『風紋』指揮は顧問の佐藤博之でお送りいたします。」

 少女は頭を軽く下げ、下手側へと去る。がやがやと騒がしかった客がいきなり静かになった。

 静寂でホール内が満たされる。

 そして、舞台の奥側を隠していた赤い幕がゆっくりと開き始める。

 奥には、金属ののまばゆい光を放つ金管楽器、そしてクラリネットやサクソフォンを筆頭とする木管楽器。さらに打楽器(パーカッション)が控えていた。

 吹奏楽隊である。

 上手側から燕尾服を身にまとった少し気取った感じの、初老の男が出てきた。右手に指揮棒を携えて。

 舞台の丁度真ん中。指揮台の手前にたどり着いた男は、客席側を見て、頭を下げる。それと同時に、客席の客たちは、盛大な拍手を送る。演奏会においての指揮者、観客双方の最低限のマナーだ。

 拍手がおさまってから、男は指揮台の上に上がり、壇上の椅子に腰掛けた、楽隊を端から端まで軽く見通した。

 さらに男は軽くうなずいて、最後にようやく指揮棒をあげた。

 それと同時に楽隊は楽器を上げる。

 演奏の準備が整った。

 男は指揮棒を振る。

 そして、


 中学校で一番美しいと表現された吹奏楽隊の美しくもあり、儚くもあり、可愛らしくもあり、厳かでもある魅惑の演奏が始まった。

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