近距離
「れーいくん入っていい」
ドアの向こうから咲良子の声
「ああ、いいよ」
ゆっくりと音を立てずに入ってきた咲良子は髪をおろしていて、部屋着を着ていた
風呂上がりのためすこし顔が赤くなっていた
「座んなよ、疲れるでしょ」
丸テーブルの座布団に正座をした
ん?ちょっと真面目なの?この空気は
「デビュー、決まりそうなんだってな、おめでとう」
「ああ、そうなの。秋から聞いたのか。まだ正式じゃないんだけどね、雑誌であの3人で表紙を飾るっていう企画があってね。いきなりであたしも驚いちゃって」
すこし照れた表情を見せた
嬉しんだな…さすがだよ咲良子
ついに努力が報われる日が来るんだ
「その報告に来るのかと思ってた。ほかに話すことがあったのか?」
と言うと咲良子は急に顔を下にむける
どうしたんだろう。用件はこのほかってこと?
「……じっ…実はね、あっ…あたし」
言葉はすんなりでなくて詰まっている
くるしそうだな
「さっき、れいくんに惚れちゃった」
はっはい!?
どういうことですか?
「なんだ、それ」
あえて戸惑いを隠す
俺がここで迷っても咲良子をもっと苦しめるだけだ。
「さっき…黎くん私の腕引っ張ったじゃない、あれ、めっちゃドキドキした…恥ずかしくなった」
俺のせいか。そんなつもりじゃないんだけどな
「いっ…いや、あの、別に黎くんが変なこと考えてるとか思ってないんだよ!でも…そんなことされたことないから、緊張しちゃって」
悪いことしたなぁ…おれ、めっちゃ悪いことした。多分秋に嫉妬させてしまったんだ。察しがつく。
辻褄が合う
「悪かった、俺がそんな思いさせてしまったら全部俺のせいだな。ごめん」
「ちがうよ!それは違うの…あたしの勝手で…黎くんは、なんにも悪くないから!だから、謝りにきた。ごめんなさい。」
深々と床に綺麗な形の額をベタッとつけた。
お前が謝ることないのに…
「それだけ、あとは秋しか見ないから」
ありがとね、聞いてくれて
おやすみ
んじゃ
といって手を小さく振った
また静かにドアが閉まる音を聞く
「秋しか見ないから」
か、咲良子もただのバカじゃないな
すっげえや