三言だけで
「ごめん…秋俺よくわかんない。詳しく」
秋はゆっくり話し出す
「咲良子に昔、私がアイドルになったら僕に言いたいことがあるって言ったんだ。だから、ずっと待ってた。待つことしかできない。待つことが約束だって思ってた。でも僕今、伝えたいことがあるんだ。今じゃなきゃダメな気がするんだ」
それはもしや、咲良子は秋への想いを伝えるための約束…
秋にそれがわからないのはその約束を守るため。待っていることが約束だから。
でもどうして今自分から言いたいことがあるんだろ。
何を言いたいんだ
「伝えたい内容は俺が聴いていいことか。それとも聴いていけないことか」
咲良子の相談員も勤めている俺。もう立派なカウンセラーだわ
「………ごめん。多分黎くんには言えないことだ。でも、聴いて欲しくって。不安になっちゃうんだ」
咲良子が約束を忘れていたら
僕はどうなってしまうんだろう
本当は心の底で思ってた。咲良子が僕を好きでいてくれているんじゃないかって
それは夢が叶って言いたいから
僕を待たせてるんだって
配慮なのか、それとも準備なのか
彼女なりのケジメか。
黎くんは僕の大切な人。
さっき黎くんが、咲良子の腕を掴み身体を引き寄せた時。あれ?って思った。
もしかしてって思った
強くそう思わせたのは、咲良子の顔だ
赤くなった。真っ赤に
僕は咲良子をドキドキさせたことがないから自信がなくなった。
僕のことは好きじゃないのかなって
黎くんと咲良子が話すたび、彼女が笑顔になるたびに僕の心臓はキュッてなって苦しいんだ。
早く言わなきゃ
僕は咲良子が好きだって
示さないといけないんじゃないかって思った
僕に合わないなんて分かっている。
でもすぐに伝えたい
3文字言えたらいいだけなのに
約束を破ることになる
それに、その約束が僕を好きだってことじゃないとしたら。忘れていたら。
僕は咲良子に言えるだろうか
自意識過剰かもしれない。
咲良子を好きになる男なんてたくさんいるだろうし。
ああ、どうしたらいいんだろう
僕はまだ待っているのだろうか
彼女を信じれていないのか
「おい、秋…大丈夫だ」
「黎くん…?」
何処を根拠に。なんで大丈夫なの
「お前も咲良子も、約束を破るやつだとは思ってねぇーかんな」
階段を登り部屋に戻った黎くんは
やっぱり僕のヒーローだった