-The past of two people.4-
さらに年月を経て、二人は高等部の三学年となっていた。
少女は中学部を出てからも、なぎなた部に所属し続けており、並大抵ではない努力と練習を積んだ少女は、これまでにいくつもの栄光を手に入れ、学校やその手の世界では有名人となっていた。
一方少年は全く変わらない毎日を送り、現在は卒業後の進路を考えていた。
別々の道を歩んでいるように見えながらも、二人の関係は変わらなかった。
「もう三学年なのに全員でドッグタグを作る学校なんてそうはないぞ…」
「私はいいと思いますわよ? こうしてダーリンと一緒に思い出作りできますから」
至る所に色々な工具が置いてある特別教室の一角で、少年はぼやきながら、少女は笑顔を浮かべながら作業を進めていた。とはいっても、以前から作業は少しづつ進められており、この時間はほとんど完成しているそれをヤスリがけするのみである。
「ダーリンはやめろ」
「もう、いい加減に慣れてください。付き合い始めて何年だと思ってますの?」
「0年だ。というか俺がいつ告白したんだ、いつ。新しい紙ヤスリ取ってくれ」
「何を勘違いしていますの? 告白は私からですわよ。何番ですか?」
擦り切れてぼろぼろになった紙ヤスリを丸めながら、淡白に答える少年に対し、少女は言われた番号のそれを探しながら、いたずらな微笑を浮かべている。
「それは初耳だな。俺にはそんな記憶はないが。早く渡してくれないか?」
「覚えていないのですね。無理もありませんわ。あの時は相当酔っていましたから。取りに来ればよろしいでしょう」
「俺は未成年だ。俺の位置からは手を伸ばしても届かないし、回り込まないと取りにいけないから、頼んでいるんだぞ」
「ダーリンは法律ごときに縛られる器ではありませんわ。知っていますわよ?」
「俺はそんな器にはなりたくない。怒ってるのか?」
「自分では気付いてないだけで、ダーリンは立派な犯罪者ですわ。怒ってなんかいませんわ」
「な、なんだってー(棒)。そんなことより何言ってるのか分からなくなってきたぞ」
「(棒)まで口にする必要はありませんわ。私もですわ」
「くくっ」
「ぷっ」
そしてどちらからでもなく笑い出す。
「私、この時間がいつまでも続いて欲しいですわ」
「奇遇だな。俺もそう思ってた」
「でも、時間は確実に流れていきますわ…」
「そうだな…」
不意に少女の表情に影が差す。これからのことを憂いているのだろうか。
しかしそれもつかの間、いつもの笑顔に戻る。少年に余計な心配をさせないためだろう。
「さあ、早く完成させますわよ!」
「意気込むのはいいが、一ついいか?」
「なんでしょう?」
「俺に紙ヤスリをくれ」
「…あら」