-The past of two people.3-
「なぎなた?」
休み時間、少年の間の抜けた声が他のクラスメイトたちの談笑の中に溶け込む。
「はいっ! 来週入部の予定です」
目の前の少女は天使のような笑みで答える。それとは対照に、少年は気だるそうに机に頬杖を突きながら再び訊ねる。
二人は小学部を終え、中学部を迎えていた。
「しかし何でまた藪から棒に?」
「そ、その…、少しでも役に立ちたくて…」
少女は恥ずかしそうに照れながら答える。
「それに、迷惑も掛けたくないですし…」
そして少年は「ああ」と思い出す。まだ出会った頃に助けてもらったことを気にしているのか、と。
「あれは俺が勝手にやったことだから、気にしなくていいって言っただろう」
「いえ、そういうわけにもいきません!」
相変わらず優しすぎる、と少年は思う。同時に、俺も無愛想だな、と自嘲する。
二人とも出会った頃のままだった。それがなんだか嬉しくて、つい少年は柄にもなく微笑を浮かべてしまう。
「わかったよ。だけど無茶はすんなよ。俺も暇なときは付き合うからさ」
「珍しく優しいですね。なにかありました?」
いつも一緒にいる少女には、少年の気持ちの変化など、すぐに分かってしまう。
「いや…」
なにもない。変わらないのが妙に嬉しい。
これからも時間は穏やかに流れていくのだろうと、少年は心のどこかでぼんやりと考えていた。